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第57話
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◆神坂冬樹 視点◆
先生に荷物を渡してから、姉さんと別れ夕食の買い物をしてから自宅へ戻った。
「おかえり、フユ!」
「おかえり、冬樹」
「えっと、どうして美波がいるの?
美晴姉さんが来ないようにって連絡したんだよね?」
「それがね、この娘、納得が出来ないからって来たんですって」
「うん、お姉ちゃんが言うこともわかるけど、学校で話してても大丈夫だったし・・・」
「だからね。今日は美波を連れて家へ帰るね」
「えっ!なんでっ!お姉ちゃんっ!!」
「だから、何でも何もないでしょ。冬樹くんの事を考えたら、あなたはここに居たらダメなの。
それと、春華ちゃんについては、冬樹くんの考えを聞いてからと思って待っていたのだけどどうかしら?」
「あのね、フユ。フユがダメって言うなら帰るけど、できたら一晩だけでも居させて欲しいんだ」
「学校では普通に話ができていたということだし、冬樹くんをひとりにするくらいなら春華ちゃんと一緒にいてもらった方が良いかなって思ったんだ」
「何が良いのか悪いのか答えがはっきりわかることではないですものね。今日のところはハルに泊まってもらって様子を見ましょう」
「ありがとう、フユ!」
「わたしはダメかな?」
「美波!あなたはダメに決まっているでしょ!
あなたは私と一緒に帰るのよ」
「だからなんでよ、お姉ちゃん」
既に準備ができていたのか美晴姉さんは美波を連れて早々に出ていった。美波は不満を口にしていたものの美晴姉さんに逆らわず一緒に帰っていった。
◆神坂春華 視点◆
期せずしてフユとふたりきりになることができた。冤罪事件以降では初めてのふたりきりだ。
フユは何も話をしてくれないし、あたしも何を話せば良いのか言葉がまとまらなくて沈黙が続いてしまっていて空気に重さを感じている。
前なら何も話さないでも自然でそれに息苦しさを感じるようなことはなかったけど、今はプレッシャーによる息苦しさを覚えている。
フユは淡々とお風呂の用意をしてから夕食を作り始めていて、あたしはそれを後ろから眺めているだけ。
あたしも料理はそこそこできるけどフユに比べると全然美味しく作れないし、そもそもフユは効率よく動けるから手伝おうとしても邪魔になってしまうので手伝うことすらできない。
久し振りにフユの手料理が食べられるのは嬉しいけど、今の沈黙は重苦しく美味しく食べられるか不安にもなる。
「もうすぐできるけど、すぐ食べるか?」
「うん、温かいうちに食べたい」
「そうだな。じゃあ、すぐに並べるからそのテーブルで待っててくれ」
「う、うん」
テーブルに並べられた料理は、あたしと美波ちゃんの共通の好物であるキャベツの替わりに白菜で肉玉を包んだロール白菜の中華風スープ仕立てがメインで、付け合わせのサラダはフユお手製のドレッシングがかかっていて、これもあたしが好きな玉ねぎたっぷりのもので、重い空気の中でも気分は上がってくる。
「あたしが好きなやつだね。ありがとう」
「ハルとふたりで食べるんだから、ハルの好きなものにするのは当然だろ」
「うん、フユはそうだよね・・・そんなフユを信じてあげられなくて本当にゴメン・・・」
「なんだよ、これから食べるって時に辛気臭くなる事を言うなよ。
ほら、冷める前に食べてくれ」
「うん、空気を読まないでゴメンね。いただきます」
フユは黙々と食べ始めたし、あたしもサラダから手を付け始めた。
ドレッシングの味を感じたら、なんとも言えない嬉しい気持ちが湧き上がってきた。フユに許してもらえた・・・そんな気持ちになれた。
「おい、ハル。なに泣いているんだよ」
「え?」
フユに言われて自分が涙を流していることに気が付いた。
「これはね、フユのご飯が美味しかったから嬉しくて泣けちゃったんだよ」
「なに大げさなことを言ってるんだよ。いつもと同じだろ?」
「そのいつもがもう無いかもしれないって思っていたから・・・」
「まぁ、そうとも言えるけど、俺もハルも元気でいるんだからこうやってご飯くらいいつでも作れるさ」
「うん、そうだね」
でも、やっぱり久し振りのフユの手料理はいつもよりずっと美味しく感じられて、食事前に空気が重い事を気にしていたのがおかしくなるくらいに美味しく食べられた。
食事の後はあたしとフユが交代でお風呂に入り、リビングで夏休みの宿題などそれぞれが行っていて、あたしは時々フユにわからないところを教えてもらっていた。これも前までと同じでやっと日常を取り戻せそうな気持ちになった。
時間が経ち寝る時間になり、あたしは高梨先生の泊まっていたという部屋で横になった。
結局あまりフユと話はしなかったけど、前までの様に双子の絆は戻ってきているように思えてきて、ここへ泊まりに来て良かったと思った。
普段と違う環境に落ち着かないからか浅い眠りだった様でまだ夜中だと言うのに目が覚めてしまった。
そして、物音が聞こえてきたので何となく気になって見に行った。
フユがトイレで苦しそうに嘔吐していた。
今思えば、夕食はあたしの半分も食べていなかったし、顔色だってあまり良くなかった。
また見逃していたんだ・・・まだフユのことを何も見えてなかったんだ・・・
ひとりで考えるのが怖くなり、真夜中だというのにお姉へ電話した。
『おい、春華!こんな時間にどうした?何があった?』
「ぐすっ、おねえぇ、フユが、フユが・・・」
『冬樹がどうした!何があったんだ!?』
「トイレで吐いてたの・・・苦しそうにしてたの・・・」
『そ、そうか。それで春華はどうしたんだ』
「あたし、怖くなって、フユに何も言えなくて、部屋へ逃げ返って、お姉に電話したの・・・あたし、ここに来ちゃいけなかったんだよ。
それなのにフユが前の様に接してくれるのが嬉しくて、何も考えずに浮かれてて・・・最低だよ」
『自分を責めるな。私だって冬樹が前の様に接してくれているからとそっちへ泊まりに行こうとしたんだし、お前が先に行っただけだ。
それに、お前がいることが原因かどうかはまだわからないだろ?』
「病気でもないのに吐くなんて、あたし以外に原因が考えられないよ!
吐くほどあたしと一緒に居たくなかったんだよ!」
『疑わしいのはそうだが、決め付けるな。本当に胃腸がやられているだけかもしれないだろ?』
「そんなことはないよ。今日ずっと一緒にいてそんな雰囲気を感じなかったもん。
やっぱり、来ちゃいけなかったんだよ」
『だから、そう決め付けるな。とにかく落ち着け。それに、仮に春華が原因だったとして、それは私だって同じだろう』
「でも、あたしが行きたいって強く強請ったんだよ。お姉はあたしが行くから自分も行きたいって言っただけだし・・・」
『そんなことはない。私も行きたかったのは本心だし、冬樹がそんな拒否反応を示すとは考えてなかった。
とにかく、朝になったらできるだけ早い時間に美晴さんに相談してそっちへ行ってもらうようにするから、今はゆっくり休め』
「うん、そうする・・・」
先生に荷物を渡してから、姉さんと別れ夕食の買い物をしてから自宅へ戻った。
「おかえり、フユ!」
「おかえり、冬樹」
「えっと、どうして美波がいるの?
美晴姉さんが来ないようにって連絡したんだよね?」
「それがね、この娘、納得が出来ないからって来たんですって」
「うん、お姉ちゃんが言うこともわかるけど、学校で話してても大丈夫だったし・・・」
「だからね。今日は美波を連れて家へ帰るね」
「えっ!なんでっ!お姉ちゃんっ!!」
「だから、何でも何もないでしょ。冬樹くんの事を考えたら、あなたはここに居たらダメなの。
それと、春華ちゃんについては、冬樹くんの考えを聞いてからと思って待っていたのだけどどうかしら?」
「あのね、フユ。フユがダメって言うなら帰るけど、できたら一晩だけでも居させて欲しいんだ」
「学校では普通に話ができていたということだし、冬樹くんをひとりにするくらいなら春華ちゃんと一緒にいてもらった方が良いかなって思ったんだ」
「何が良いのか悪いのか答えがはっきりわかることではないですものね。今日のところはハルに泊まってもらって様子を見ましょう」
「ありがとう、フユ!」
「わたしはダメかな?」
「美波!あなたはダメに決まっているでしょ!
あなたは私と一緒に帰るのよ」
「だからなんでよ、お姉ちゃん」
既に準備ができていたのか美晴姉さんは美波を連れて早々に出ていった。美波は不満を口にしていたものの美晴姉さんに逆らわず一緒に帰っていった。
◆神坂春華 視点◆
期せずしてフユとふたりきりになることができた。冤罪事件以降では初めてのふたりきりだ。
フユは何も話をしてくれないし、あたしも何を話せば良いのか言葉がまとまらなくて沈黙が続いてしまっていて空気に重さを感じている。
前なら何も話さないでも自然でそれに息苦しさを感じるようなことはなかったけど、今はプレッシャーによる息苦しさを覚えている。
フユは淡々とお風呂の用意をしてから夕食を作り始めていて、あたしはそれを後ろから眺めているだけ。
あたしも料理はそこそこできるけどフユに比べると全然美味しく作れないし、そもそもフユは効率よく動けるから手伝おうとしても邪魔になってしまうので手伝うことすらできない。
久し振りにフユの手料理が食べられるのは嬉しいけど、今の沈黙は重苦しく美味しく食べられるか不安にもなる。
「もうすぐできるけど、すぐ食べるか?」
「うん、温かいうちに食べたい」
「そうだな。じゃあ、すぐに並べるからそのテーブルで待っててくれ」
「う、うん」
テーブルに並べられた料理は、あたしと美波ちゃんの共通の好物であるキャベツの替わりに白菜で肉玉を包んだロール白菜の中華風スープ仕立てがメインで、付け合わせのサラダはフユお手製のドレッシングがかかっていて、これもあたしが好きな玉ねぎたっぷりのもので、重い空気の中でも気分は上がってくる。
「あたしが好きなやつだね。ありがとう」
「ハルとふたりで食べるんだから、ハルの好きなものにするのは当然だろ」
「うん、フユはそうだよね・・・そんなフユを信じてあげられなくて本当にゴメン・・・」
「なんだよ、これから食べるって時に辛気臭くなる事を言うなよ。
ほら、冷める前に食べてくれ」
「うん、空気を読まないでゴメンね。いただきます」
フユは黙々と食べ始めたし、あたしもサラダから手を付け始めた。
ドレッシングの味を感じたら、なんとも言えない嬉しい気持ちが湧き上がってきた。フユに許してもらえた・・・そんな気持ちになれた。
「おい、ハル。なに泣いているんだよ」
「え?」
フユに言われて自分が涙を流していることに気が付いた。
「これはね、フユのご飯が美味しかったから嬉しくて泣けちゃったんだよ」
「なに大げさなことを言ってるんだよ。いつもと同じだろ?」
「そのいつもがもう無いかもしれないって思っていたから・・・」
「まぁ、そうとも言えるけど、俺もハルも元気でいるんだからこうやってご飯くらいいつでも作れるさ」
「うん、そうだね」
でも、やっぱり久し振りのフユの手料理はいつもよりずっと美味しく感じられて、食事前に空気が重い事を気にしていたのがおかしくなるくらいに美味しく食べられた。
食事の後はあたしとフユが交代でお風呂に入り、リビングで夏休みの宿題などそれぞれが行っていて、あたしは時々フユにわからないところを教えてもらっていた。これも前までと同じでやっと日常を取り戻せそうな気持ちになった。
時間が経ち寝る時間になり、あたしは高梨先生の泊まっていたという部屋で横になった。
結局あまりフユと話はしなかったけど、前までの様に双子の絆は戻ってきているように思えてきて、ここへ泊まりに来て良かったと思った。
普段と違う環境に落ち着かないからか浅い眠りだった様でまだ夜中だと言うのに目が覚めてしまった。
そして、物音が聞こえてきたので何となく気になって見に行った。
フユがトイレで苦しそうに嘔吐していた。
今思えば、夕食はあたしの半分も食べていなかったし、顔色だってあまり良くなかった。
また見逃していたんだ・・・まだフユのことを何も見えてなかったんだ・・・
ひとりで考えるのが怖くなり、真夜中だというのにお姉へ電話した。
『おい、春華!こんな時間にどうした?何があった?』
「ぐすっ、おねえぇ、フユが、フユが・・・」
『冬樹がどうした!何があったんだ!?』
「トイレで吐いてたの・・・苦しそうにしてたの・・・」
『そ、そうか。それで春華はどうしたんだ』
「あたし、怖くなって、フユに何も言えなくて、部屋へ逃げ返って、お姉に電話したの・・・あたし、ここに来ちゃいけなかったんだよ。
それなのにフユが前の様に接してくれるのが嬉しくて、何も考えずに浮かれてて・・・最低だよ」
『自分を責めるな。私だって冬樹が前の様に接してくれているからとそっちへ泊まりに行こうとしたんだし、お前が先に行っただけだ。
それに、お前がいることが原因かどうかはまだわからないだろ?』
「病気でもないのに吐くなんて、あたし以外に原因が考えられないよ!
吐くほどあたしと一緒に居たくなかったんだよ!」
『疑わしいのはそうだが、決め付けるな。本当に胃腸がやられているだけかもしれないだろ?』
「そんなことはないよ。今日ずっと一緒にいてそんな雰囲気を感じなかったもん。
やっぱり、来ちゃいけなかったんだよ」
『だから、そう決め付けるな。とにかく落ち着け。それに、仮に春華が原因だったとして、それは私だって同じだろう』
「でも、あたしが行きたいって強く強請ったんだよ。お姉はあたしが行くから自分も行きたいって言っただけだし・・・」
『そんなことはない。私も行きたかったのは本心だし、冬樹がそんな拒否反応を示すとは考えてなかった。
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