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第209話
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◆春日悠一 視点◆
「喜んでください!
こどもを授かりました!」
「良かったわ。百合恵さんには悪いけど、やっぱりこどもは必要よね」
姉貴が遊びに来たタイミングで後妻の悦子が報告した。
姉貴は当然のこと、俺も初耳だ。
「良かったわよね、悠一。
これからは今まで以上に頑張って働かないとダメよ」
「あ、ああ」
その後も姉貴は嬉しそうにあれこれお節介な忠告を繰り広げていたが、俺の意識はそれどころではなかった。
俺は極めてこどもを授かりにくい体質だと検査結果が出ているし、逆算すると入籍前も含め数回の交渉で着床したという事になって、そんなにすぐ妊娠するのなら今まで悩みもしなかっただろう。
入籍後の悦子の変容もあるし、そもそも俺への報告を姉貴へするついでというのも不審だ。
一つの仮説を立て悦子のスマホや家の中を探ってみたが、スマホはロックされているし家の中に俺が気付ける様な痕跡はなかった。
直感だが悦子は浮気をしているに違いないと思うし、むしろ浮気相手のこどもならそれを突き付け俺に瑕疵がない状態で悦子と離婚する事ができるのでそうあって欲しい。
とは言え、悦子のこどもの事を考えればできるだけ早くシロクロ付けて本当の父親に責任を取らせるべきだろう。
悦子は結婚が決まるや否やでキャリアを積んでいた会社をあっさり辞めると決め、今はまだ籍だけは会社にあるものの有給休暇を取得していて年内に退職することが決まっている。
こどもが生まれてからDNA鑑定するのが一番簡単に結論が出せるとは思うが、会社を辞めてしまったため収入で困ることにもなるだろうし、そうなると悦子は自業自得でもこどもが可哀想だ。それに、俺としても一日でも早く別れたいから証拠を押さえて早々にケリを付けたい。
そう思い、仕事合間に時間を作って興信所を訪ねた。
「君は・・・」
「ご無沙汰してます。こんなところでお会いするなんて奇遇ですね」
百合恵が懇意にしている生徒の神坂君がそこに居た。
「そうだけど、君がこんなところに用事があったというのが意外だよ」
「僕は前に学校でトラブルが遭いまして、その時の加害者について調べてもらっていた縁があって、今日はその時に良くしていただいたお礼に伺ったのです」
「神坂さん、そちらの男性はお知り合いなのですか?」
神坂君と出会い頭の挨拶話をしていたら興信所の女性職員と思しき人から声を掛けられた。
「ええ・・・」
神坂君は俺が百合恵と離婚したことを知っているのか、俺との関係をどの様に説明すれば良いのか迷ってしまったようで言葉を紡げなかったので代わりに説明した。
「彼は別れた妻の学校の生徒で、妻と別れる前に会ったことがあったのです」
「それは確かに説明しづらいご縁ですね」
受付の女性を交えたやり取りを終えたタイミングで、神坂君は『ご挨拶に伺っただけですし、お仕事の邪魔しても悪いので』と早々に立ち去ろうとしたけど、百合恵と繋がる彼に百合恵の近況などを教えて欲しいという思惑があり連絡先の交換をお願いした。
幸いにも彼に訝しまれる事もなくすんなり聞き入れてくれた。
元々の目的である悦子の浮気調査を依頼して、会社へ戻る途中で先程連絡先を交換した神坂君へお礼と百合恵の近況を教えて欲しいとメッセージを送ったら、会社へ戻る直前に返信があった。
【僕からは詳しいことをお知らせできませんが、高梨先生はイレギュラーで仕事が増えて少し大変そうですが、心身ともにお元気だと思います】
多くを期待していたわけではないけど、百合恵が元気そうなことを知れてホッとしている。
◆神坂冬樹 視点◆
お世話になった興信所へ手土産を持って挨拶へ行ったら、高梨先生の別れた旦那さんである春日さんとお会いした。
妙なところで会ったなと思ったものの、それ以上に連絡先を交換して欲しいという要望の方が驚かされた。
最初のメッセージで高梨先生の近況を教えて欲しいと言う内容だったので、その気持ちが分からなくもなくストンと得心が行ったものの、流石に先生に黙って教えるのはダメだと思って高梨先生へ今日の顛末を連絡し、どこまで教えて良いかと尋ねたところ【冬樹君を信頼していますので、冬樹君の判断におまかせします】と返していただいた。
そうであるならばと、最近塚田教諭が急に辞めて僕らのクラスの担任代行になったことと転校生の対応で忙しくなっている事をぼやかして教えてあげたら感謝のメッセージが返ってきたので、とりあえずは良かったと思う。
雰囲気からして春日さんは高梨先生に未練がありそうで、それは不思議でもあり納得もいく。
素敵な女性と結婚できたのに別れてしまうなんてもったいないと思うし、ましてや未練があるなら尚更で、僕は他山の石として美晴さんとの関係を破綻させないようにしたいと思う。
「喜んでください!
こどもを授かりました!」
「良かったわ。百合恵さんには悪いけど、やっぱりこどもは必要よね」
姉貴が遊びに来たタイミングで後妻の悦子が報告した。
姉貴は当然のこと、俺も初耳だ。
「良かったわよね、悠一。
これからは今まで以上に頑張って働かないとダメよ」
「あ、ああ」
その後も姉貴は嬉しそうにあれこれお節介な忠告を繰り広げていたが、俺の意識はそれどころではなかった。
俺は極めてこどもを授かりにくい体質だと検査結果が出ているし、逆算すると入籍前も含め数回の交渉で着床したという事になって、そんなにすぐ妊娠するのなら今まで悩みもしなかっただろう。
入籍後の悦子の変容もあるし、そもそも俺への報告を姉貴へするついでというのも不審だ。
一つの仮説を立て悦子のスマホや家の中を探ってみたが、スマホはロックされているし家の中に俺が気付ける様な痕跡はなかった。
直感だが悦子は浮気をしているに違いないと思うし、むしろ浮気相手のこどもならそれを突き付け俺に瑕疵がない状態で悦子と離婚する事ができるのでそうあって欲しい。
とは言え、悦子のこどもの事を考えればできるだけ早くシロクロ付けて本当の父親に責任を取らせるべきだろう。
悦子は結婚が決まるや否やでキャリアを積んでいた会社をあっさり辞めると決め、今はまだ籍だけは会社にあるものの有給休暇を取得していて年内に退職することが決まっている。
こどもが生まれてからDNA鑑定するのが一番簡単に結論が出せるとは思うが、会社を辞めてしまったため収入で困ることにもなるだろうし、そうなると悦子は自業自得でもこどもが可哀想だ。それに、俺としても一日でも早く別れたいから証拠を押さえて早々にケリを付けたい。
そう思い、仕事合間に時間を作って興信所を訪ねた。
「君は・・・」
「ご無沙汰してます。こんなところでお会いするなんて奇遇ですね」
百合恵が懇意にしている生徒の神坂君がそこに居た。
「そうだけど、君がこんなところに用事があったというのが意外だよ」
「僕は前に学校でトラブルが遭いまして、その時の加害者について調べてもらっていた縁があって、今日はその時に良くしていただいたお礼に伺ったのです」
「神坂さん、そちらの男性はお知り合いなのですか?」
神坂君と出会い頭の挨拶話をしていたら興信所の女性職員と思しき人から声を掛けられた。
「ええ・・・」
神坂君は俺が百合恵と離婚したことを知っているのか、俺との関係をどの様に説明すれば良いのか迷ってしまったようで言葉を紡げなかったので代わりに説明した。
「彼は別れた妻の学校の生徒で、妻と別れる前に会ったことがあったのです」
「それは確かに説明しづらいご縁ですね」
受付の女性を交えたやり取りを終えたタイミングで、神坂君は『ご挨拶に伺っただけですし、お仕事の邪魔しても悪いので』と早々に立ち去ろうとしたけど、百合恵と繋がる彼に百合恵の近況などを教えて欲しいという思惑があり連絡先の交換をお願いした。
幸いにも彼に訝しまれる事もなくすんなり聞き入れてくれた。
元々の目的である悦子の浮気調査を依頼して、会社へ戻る途中で先程連絡先を交換した神坂君へお礼と百合恵の近況を教えて欲しいとメッセージを送ったら、会社へ戻る直前に返信があった。
【僕からは詳しいことをお知らせできませんが、高梨先生はイレギュラーで仕事が増えて少し大変そうですが、心身ともにお元気だと思います】
多くを期待していたわけではないけど、百合恵が元気そうなことを知れてホッとしている。
◆神坂冬樹 視点◆
お世話になった興信所へ手土産を持って挨拶へ行ったら、高梨先生の別れた旦那さんである春日さんとお会いした。
妙なところで会ったなと思ったものの、それ以上に連絡先を交換して欲しいという要望の方が驚かされた。
最初のメッセージで高梨先生の近況を教えて欲しいと言う内容だったので、その気持ちが分からなくもなくストンと得心が行ったものの、流石に先生に黙って教えるのはダメだと思って高梨先生へ今日の顛末を連絡し、どこまで教えて良いかと尋ねたところ【冬樹君を信頼していますので、冬樹君の判断におまかせします】と返していただいた。
そうであるならばと、最近塚田教諭が急に辞めて僕らのクラスの担任代行になったことと転校生の対応で忙しくなっている事をぼやかして教えてあげたら感謝のメッセージが返ってきたので、とりあえずは良かったと思う。
雰囲気からして春日さんは高梨先生に未練がありそうで、それは不思議でもあり納得もいく。
素敵な女性と結婚できたのに別れてしまうなんてもったいないと思うし、ましてや未練があるなら尚更で、僕は他山の石として美晴さんとの関係を破綻させないようにしたいと思う。
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