おやばと

はーこ

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*1* やさしい子守歌

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 ぱらん、ぱらん。

 聞きなれない、でも心地いい音だ。
 自然と気だるいまぶたが持ち上がる。

「はぁっ、はぁっ……」

 近いところで小刻みにくり返される息が、じっとりと濡れて、静けさに溶けてゆく。
 この体重すべてを支える腕は、儚いくらいに細くて、それなのに力強くて。

「もうちょっとで、村に着きますから、ね……!」

 じぶんをおぶっているのは、ひと回りも小柄な少女のようだった。
 大丈夫、歩けるからと声を発したくても、声帯は一向にふるえない。
 指先も爪先も、ぜんぶが重くて、動かせない。まるで石像にでもなったかのよう。

 荒い呼吸に合わせ、さり、さり。ゆら、ゆらり。

 草をふみしめる音と身体を揺らされる感覚に、いけないとわかってはいるけれど、ひどく落ち着いてしまう。
 ぼやけた意識にちらりと映った景色は、水墨画の世界。とても淡くて、曖昧だ。
 目の前ですべる青みがかった髪だけが、さらりと、色鮮やか。

 ぱらん、ぱらんと、あの音はいまも頭上で奏でられている。子守り歌のように、やさしいおと。
 さむかった。だからこそ、華奢な腕が熱いくらいに感じる。
 はなれたくなくて、もたれかかるうなじで、もう一度まぶたを閉じた。

「……あった、かい」

 ぽつりとこぼれた男の声。たぶん、じぶんのもの。
 それもいきなり襲ってきた、怖いくらいの安心感と眠気にかすれて、あの子に届くことはきっとないんだろうな。

 ぱらん、ぱらん。

 真っ暗に染まる世界で、その音だけがいつまでも、いつまでも、反響していた。
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