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本編

*28* おや? 少年の様子が……

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「またやってしまった……流されてる、津波のごとくイケイケノアくんに押し流されてるぞ、リオさん……」

 真っ昼間からやらしい雰囲気に飲み込まれて、帰ってこれなくなるところだった。危ねぇ。

 あれからなんとか正気を取り戻したわたしは、逃げるように外出の準備に飛びかかった。

 すかさず「ギルドに行くんでしょ? 俺も行く」と涼しい顔で寝間着を脱いで、着替え始めるノアくん。

 そうだよね、そう言うと思った。平然と着替えるのやめてね? 一応わたしという異性がいるんだけどな……


「異議あり! ふたりっきりのときの距離感が近い、ほぼゼロ! キスがいちいちやらしいです! 干物女にゃきついので、勘弁してもらえませんでしょうか!」


 ──とは、本当なら昨日のランチのあと、ノアと腹を割って話し合い、カミングアウトする予定だった言葉だ。

 ライブラリーでキスされた以降の記憶が曖昧なところをみると、腹を割って話す前に精気を吸い取られて、やらしい雰囲気に流されちゃったみたいなんですが。

 ……昨日はノアがやけに元気で、夜通し喘いでた。えぇ、ひとりえっちのお手伝いをさせられましたとも……

 恥を承知で自慰の方法を教えたはずなのに、「じぶんでこすっても、気持ちよくならないんだもん」って拗ねて、ノア自身がどうにかしているさまを見たことがない。

 これはゆゆしき問題だ。初動ミスったかもしれない。実際にやってあげるんじゃなくて、口頭だけでレクチャーすればよかった。

(あと口移しで魔力供給とか、どこのエロゲーだよ!)

 インキュバスだからなの? これもインキュバス・クオリティーのお話なの?

 窓際の壁にもたれ、腕組みをしてうんうんうなっていたら、シャツを着たノアが視界を横切る。

 動くものに反応してしまう小動物みたいに、つい目で追ってしまったわたしは、クローゼットから黒ローブを取り出すノアの背中を目にして、ハッとした。

「あれっ、ノア……? ちょっとまって……」
「うん? 俺がどうかした?」
「気のせいかな……こっち来てくれない?」

 わたしをふり返ったサファイアの瞳が、ぱちぱちとまばたき。

 首をかしげたままのノアが、言われたとおりに歩み寄ってくる。

「これは……うん、気のせいじゃなかった。ねぇノア!」

 じーっと、確信したわたしは、満を持してノアを呼ぶんだけど。

「ふふっ」

 ぎゅっ。

 なぜか、はにかんだノアにハグされた。

「って、なんでやねーんっ!」
「だって、目の前にリオがいたから」
「たのむから話をきいておくれーっ!」

 ご満悦なお顔でほおずりをしてくるノアを、なんとか引き剥がそうとして、引き剥がせなかった。

 やっぱり、間違いない!

「ねぇノア、なんかいつもと違うって思うこととかない?」
「いつもと違うこと? たとえば?」
「そうだね、たとえば、なんか目線が高い気がするとか!」

 ほぼ答えなんだけど、これ。

 そう、わたしが気づいたノアの異変……それは。

「身長、高くなってる! 声もちょっと低くなってるの!」

 美少年から、美男子へ。

 おとなっぽく成長したその変化に、ノア本人が、きょとんと首をかしげていた。
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