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本編
*88* 逃亡、そして失敗
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翌朝のこと。
「これはもう、リオちゃんをお嫁さんにもらうしかないなって本気で思ったわ、私の」
「頭おかしいですね。まだ毒にやられているんですか? ヴァン」
個室に移ったヴァンさんの様子を見に行ってみると、真顔のエルにツッコまれている場面に遭遇した。
「ひっどーい! エルが冷たーい! 私のこと、ぐすぐす泣きながら心配してくれたんじゃなかったのー!?」
「泣いてませんし、別段冷たくしているつもりはありません。いつもどおりです」
「このツンツン男め! 可愛げがないんだから! そんなだからリオちゃんにフラれるのよ!」
「ほう……聞き捨てなりませんね。どうやら、あなたとは肉体言語による話し合いが必要なようです」
「きゃーっ! 私病人! 暴力はんたーい!」
「こんなにやかましい病人がいてたまりますか。あと僕はフラれたわけではないです。まだ本気を出していないだけです」
えーっと……うん。わたしが口をはさむヒマもないくらい、マシンガン級の言葉の応酬だ。
病衣のままさわぐヴァンさんが、エルにつかみかかろうとしたときだ。ため息をついたエルから、ビシィッとデコピンをされ、「あうっ」とベッドに倒れ込む。
うん……? けっこう容赦ないね、エル?
「おや? あぁリオ、おはようございます。今日も清々しい朝ですね」
部屋の入り口で失笑していたら、わたしの気配に気づいたらしいエルがふり返って、にっこりとほほ笑んだ。向き直って、両腕を広げてすらいる。それはなんでしょうか、ハグ?
「あら! 待ってたわよ、私のエンジェルちゃん! エルに冷たくされて悲しいの、ぎゅーってハグして慰めてほしいなー?」
ヴァンさんもヴァンさんだ。猫なで声で、甘えたようにわたしを見つめてくる。
「おはようございます、エル、ヴァンさん。お元気そうでなによりです?」
「えぇ、このとおりヴァンはやかましいくらいに元気なので、ご心配はいりません。それよりリオ、一日中治療をしていたせいで、まだ昨日の疲れが残っているでしょう? お部屋まで送りますから、休んでください」
「あーっ! そうやって隙をついてリオちゃんを襲う気ね! 朝っぱらからやらしいわー、ヤるなら徹底的にヤりなさいよね! 確実に孕ませてなんとしてでもリオちゃんをカーリッド家に連れ帰るのよ!」
「ヴァンもああ言っていることですし、行きましょうか」
「えぇっ!? そこ否定しないんですか! あのっ、エルっ!?」
なんでだろう。ついさっきまで口喧嘩していたふたりが、いまでは結託してわたしをハメようとしている。変なところで息ぴったりすぎじゃありません!?
「恥ずかしがることはありませんよ。とっても気持ちよくなって、ぐっすり眠れるだけです。なので……ね?」
「ひぃぃ……!」
なんでわたし、色気ダダ漏れのエルから誘惑されてるんだろう。朝の往診に来ただけなのに。
「あっ! そういえばまだ用事があって!」
「どこへ行くんですか、リーオ?」
親指を立てたヴァンさんのまぶしい笑顔に見送られ、部屋を後にしたわたしは、思いきって逃走をこころみる。
とはいえ、エルから逃げられるはずもなく。
一瞬で捕獲されたわたしは回廊の壁に押しつけられ、目の笑っていないエルに唇を奪われてしまった。
舌もねじ込まれて、あっという間にわけがわからなくなる。
「んむぅっ……ふ、んっ、んんっ……」
くちゅりくちゅりと、水音がする。
追い討ちのごとく、ふわりと、鼻を刺激するものがあって。
(あ……甘い香り……エルの……)
はじめはほのかに香る程度だったそれが、角度を変え、深さを変え、舌を絡めるキスをくり返すうちに、薔薇の香りのようにぶわりと濃密なものへ変化する。
「これはもう、リオちゃんをお嫁さんにもらうしかないなって本気で思ったわ、私の」
「頭おかしいですね。まだ毒にやられているんですか? ヴァン」
個室に移ったヴァンさんの様子を見に行ってみると、真顔のエルにツッコまれている場面に遭遇した。
「ひっどーい! エルが冷たーい! 私のこと、ぐすぐす泣きながら心配してくれたんじゃなかったのー!?」
「泣いてませんし、別段冷たくしているつもりはありません。いつもどおりです」
「このツンツン男め! 可愛げがないんだから! そんなだからリオちゃんにフラれるのよ!」
「ほう……聞き捨てなりませんね。どうやら、あなたとは肉体言語による話し合いが必要なようです」
「きゃーっ! 私病人! 暴力はんたーい!」
「こんなにやかましい病人がいてたまりますか。あと僕はフラれたわけではないです。まだ本気を出していないだけです」
えーっと……うん。わたしが口をはさむヒマもないくらい、マシンガン級の言葉の応酬だ。
病衣のままさわぐヴァンさんが、エルにつかみかかろうとしたときだ。ため息をついたエルから、ビシィッとデコピンをされ、「あうっ」とベッドに倒れ込む。
うん……? けっこう容赦ないね、エル?
「おや? あぁリオ、おはようございます。今日も清々しい朝ですね」
部屋の入り口で失笑していたら、わたしの気配に気づいたらしいエルがふり返って、にっこりとほほ笑んだ。向き直って、両腕を広げてすらいる。それはなんでしょうか、ハグ?
「あら! 待ってたわよ、私のエンジェルちゃん! エルに冷たくされて悲しいの、ぎゅーってハグして慰めてほしいなー?」
ヴァンさんもヴァンさんだ。猫なで声で、甘えたようにわたしを見つめてくる。
「おはようございます、エル、ヴァンさん。お元気そうでなによりです?」
「えぇ、このとおりヴァンはやかましいくらいに元気なので、ご心配はいりません。それよりリオ、一日中治療をしていたせいで、まだ昨日の疲れが残っているでしょう? お部屋まで送りますから、休んでください」
「あーっ! そうやって隙をついてリオちゃんを襲う気ね! 朝っぱらからやらしいわー、ヤるなら徹底的にヤりなさいよね! 確実に孕ませてなんとしてでもリオちゃんをカーリッド家に連れ帰るのよ!」
「ヴァンもああ言っていることですし、行きましょうか」
「えぇっ!? そこ否定しないんですか! あのっ、エルっ!?」
なんでだろう。ついさっきまで口喧嘩していたふたりが、いまでは結託してわたしをハメようとしている。変なところで息ぴったりすぎじゃありません!?
「恥ずかしがることはありませんよ。とっても気持ちよくなって、ぐっすり眠れるだけです。なので……ね?」
「ひぃぃ……!」
なんでわたし、色気ダダ漏れのエルから誘惑されてるんだろう。朝の往診に来ただけなのに。
「あっ! そういえばまだ用事があって!」
「どこへ行くんですか、リーオ?」
親指を立てたヴァンさんのまぶしい笑顔に見送られ、部屋を後にしたわたしは、思いきって逃走をこころみる。
とはいえ、エルから逃げられるはずもなく。
一瞬で捕獲されたわたしは回廊の壁に押しつけられ、目の笑っていないエルに唇を奪われてしまった。
舌もねじ込まれて、あっという間にわけがわからなくなる。
「んむぅっ……ふ、んっ、んんっ……」
くちゅりくちゅりと、水音がする。
追い討ちのごとく、ふわりと、鼻を刺激するものがあって。
(あ……甘い香り……エルの……)
はじめはほのかに香る程度だったそれが、角度を変え、深さを変え、舌を絡めるキスをくり返すうちに、薔薇の香りのようにぶわりと濃密なものへ変化する。
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