上 下
21 / 65

19.ヒトと猫

しおりを挟む
 生徒が、理事長? あり得ないわ……それに。

「どうしてわたしが〝二葉ふたば〟だと、知っているんですか」
「あなたの疑問に、ひとつひとつお答えしましょう」

 上品に手と手をそろえ、東雲しののめさんは居住まいを正しました。

「私のような高校生が理事長だなんて、たしかに普通ではありません。それは、この学校で〝理事会〟と名乗っている組織自体が、普通ではないためです。私は本来、〝銀猫ぎんねこ〟の代表者として活動しています」
「ギン、ネコ……?」
「どうやら、なにもお話ししていなかったようですね。彼らしいというか」
「彼、とは」
六月むつきれい――私と面識があることは、彼からお聞きになっているかと」

 ……いまになって、思い出しました。

東雲しののめ一色ひいろには、気をつけて)

 零があんなに、注意をうながしてくれたのに。
 とたん、猜疑心と申しましょうか、なんとも言えぬ緊張が、身体の底からせり上がってきたのです。
 強張るわたしを知ってか知らずか、東雲さんは変わらぬ調子で続けます。

「〝銀猫〟というのは、ヒトと〝九生猫きゅうしょうねこ〟の共存を目的とした組織です」
「〝九生猫〟ですって……!」

 思わず声を上げてしまいました。
 東雲さんの笑みがほころびます。手応えありと、感じたようでした。

「生命の理に逆らう〝九生猫〟……しかしながら、彼らはとても賢く、優れた存在です。あぶれ者として忌み嫌うには、あまりにもったいない」
「では……東雲さんは、〝九生猫〟を支援する組織の代表者であると」
「そうです。古来より文明を築き上げたのは、ヒトでした。他の種族と変わりなく、〝九生猫〟が生を全うするためには、ヒトの力添えが必要なのです」

〝九生猫〟を支援する組織。それなら、零と東雲さんに面識があってもおかしくはありません。
 けれど、どうも引っかかるのです。

「あなた方の活動は、〝九生猫〟の支援だけですか?」

 ただ支援だけなら、零があんなに嫌悪感をにじませるはずがありません。

「もちろん、ほかに細々とした活動を行っています。日野先生が気になさっているのは、おそらく、観察のことでしょうか?」
「観察……」
「〝九生猫〟は個々が大きな力を秘めていますから、万が一暴走されると、手がつけられません。もしもの事態を回避するため、時には個体レベルで常時観察を行っているんです」
「それは……観察というより、監視では?」
「ふふ、そうですね。とても嫌がられます。猫は自由奔放ですから」

 冗談めかしたのち、思い出したように、東雲さんがこんなことを言いました。

「私にはふたりの腹心がいるのですが、どちらも〝九生猫〟なんです。そちらの四紋がそうです」
「えっ……四紋さんが!?」

 入口近くに控えている四紋さんを、弾かれたように振り返ります。
 彼は、やわらかなほほ笑みをこぼしました。

「六月くんとは、お仲間ということになりますね」

 ……まったく気づきませんでした。
 ヒトと〝九生猫〟の共存。彼ら〝銀猫〟の功績を、目の当たりにしました。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

私は大切にされていますか~花嫁修業で知る理想と現実~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:291pt お気に入り:2,344

愛する貴方の心から消えた私は…

恋愛 / 完結 24h.ポイント:660pt お気に入り:6,751

私のためだと家族が追い詰めてきます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:106pt お気に入り:342

私の中から貴方だけが姿を消した

恋愛 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:2,974

拝啓、消えたあなたへ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:62

月が消えたらサヨウナラ

恋愛 / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:160

【完結】暗い海に灯りを点して

恋愛 / 完結 24h.ポイント:184pt お気に入り:595

夫に離婚を切り出したら、物語の主人公の継母になりました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,114pt お気に入り:3,279

処理中です...