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19.ヒトと猫
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生徒が、理事長? あり得ないわ……それに。
「どうしてわたしが〝二葉〟だと、知っているんですか」
「あなたの疑問に、ひとつひとつお答えしましょう」
上品に手と手をそろえ、東雲さんは居住まいを正しました。
「私のような高校生が理事長だなんて、たしかに普通ではありません。それは、この学校で〝理事会〟と名乗っている組織自体が、普通ではないためです。私は本来、〝銀猫〟の代表者として活動しています」
「ギン、ネコ……?」
「どうやら、なにもお話ししていなかったようですね。彼らしいというか」
「彼、とは」
「六月零――私と面識があることは、彼からお聞きになっているかと」
……いまになって、思い出しました。
(東雲一色には、気をつけて)
零があんなに、注意をうながしてくれたのに。
とたん、猜疑心と申しましょうか、なんとも言えぬ緊張が、身体の底からせり上がってきたのです。
強張るわたしを知ってか知らずか、東雲さんは変わらぬ調子で続けます。
「〝銀猫〟というのは、ヒトと〝九生猫〟の共存を目的とした組織です」
「〝九生猫〟ですって……!」
思わず声を上げてしまいました。
東雲さんの笑みがほころびます。手応えありと、感じたようでした。
「生命の理に逆らう〝九生猫〟……しかしながら、彼らはとても賢く、優れた存在です。あぶれ者として忌み嫌うには、あまりにもったいない」
「では……東雲さんは、〝九生猫〟を支援する組織の代表者であると」
「そうです。古来より文明を築き上げたのは、ヒトでした。他の種族と変わりなく、〝九生猫〟が生を全うするためには、ヒトの力添えが必要なのです」
〝九生猫〟を支援する組織。それなら、零と東雲さんに面識があってもおかしくはありません。
けれど、どうも引っかかるのです。
「あなた方の活動は、〝九生猫〟の支援だけですか?」
ただ支援だけなら、零があんなに嫌悪感をにじませるはずがありません。
「もちろん、ほかに細々とした活動を行っています。日野先生が気になさっているのは、おそらく、観察のことでしょうか?」
「観察……」
「〝九生猫〟は個々が大きな力を秘めていますから、万が一暴走されると、手がつけられません。もしもの事態を回避するため、時には個体レベルで常時観察を行っているんです」
「それは……観察というより、監視では?」
「ふふ、そうですね。とても嫌がられます。猫は自由奔放ですから」
冗談めかしたのち、思い出したように、東雲さんがこんなことを言いました。
「私にはふたりの腹心がいるのですが、どちらも〝九生猫〟なんです。そちらの四紋がそうです」
「えっ……四紋さんが!?」
入口近くに控えている四紋さんを、弾かれたように振り返ります。
彼は、やわらかなほほ笑みをこぼしました。
「六月くんとは、お仲間ということになりますね」
……まったく気づきませんでした。
ヒトと〝九生猫〟の共存。彼ら〝銀猫〟の功績を、目の当たりにしました。
「どうしてわたしが〝二葉〟だと、知っているんですか」
「あなたの疑問に、ひとつひとつお答えしましょう」
上品に手と手をそろえ、東雲さんは居住まいを正しました。
「私のような高校生が理事長だなんて、たしかに普通ではありません。それは、この学校で〝理事会〟と名乗っている組織自体が、普通ではないためです。私は本来、〝銀猫〟の代表者として活動しています」
「ギン、ネコ……?」
「どうやら、なにもお話ししていなかったようですね。彼らしいというか」
「彼、とは」
「六月零――私と面識があることは、彼からお聞きになっているかと」
……いまになって、思い出しました。
(東雲一色には、気をつけて)
零があんなに、注意をうながしてくれたのに。
とたん、猜疑心と申しましょうか、なんとも言えぬ緊張が、身体の底からせり上がってきたのです。
強張るわたしを知ってか知らずか、東雲さんは変わらぬ調子で続けます。
「〝銀猫〟というのは、ヒトと〝九生猫〟の共存を目的とした組織です」
「〝九生猫〟ですって……!」
思わず声を上げてしまいました。
東雲さんの笑みがほころびます。手応えありと、感じたようでした。
「生命の理に逆らう〝九生猫〟……しかしながら、彼らはとても賢く、優れた存在です。あぶれ者として忌み嫌うには、あまりにもったいない」
「では……東雲さんは、〝九生猫〟を支援する組織の代表者であると」
「そうです。古来より文明を築き上げたのは、ヒトでした。他の種族と変わりなく、〝九生猫〟が生を全うするためには、ヒトの力添えが必要なのです」
〝九生猫〟を支援する組織。それなら、零と東雲さんに面識があってもおかしくはありません。
けれど、どうも引っかかるのです。
「あなた方の活動は、〝九生猫〟の支援だけですか?」
ただ支援だけなら、零があんなに嫌悪感をにじませるはずがありません。
「もちろん、ほかに細々とした活動を行っています。日野先生が気になさっているのは、おそらく、観察のことでしょうか?」
「観察……」
「〝九生猫〟は個々が大きな力を秘めていますから、万が一暴走されると、手がつけられません。もしもの事態を回避するため、時には個体レベルで常時観察を行っているんです」
「それは……観察というより、監視では?」
「ふふ、そうですね。とても嫌がられます。猫は自由奔放ですから」
冗談めかしたのち、思い出したように、東雲さんがこんなことを言いました。
「私にはふたりの腹心がいるのですが、どちらも〝九生猫〟なんです。そちらの四紋がそうです」
「えっ……四紋さんが!?」
入口近くに控えている四紋さんを、弾かれたように振り返ります。
彼は、やわらかなほほ笑みをこぼしました。
「六月くんとは、お仲間ということになりますね」
……まったく気づきませんでした。
ヒトと〝九生猫〟の共存。彼ら〝銀猫〟の功績を、目の当たりにしました。
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