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51.Lesson start!

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 やっとついた家路。あれだけ待ち望んでいたのに、足取りは重く、気分は最悪。

「なにが悲しくて、ヒイロと登下校いっしょにしなきゃいけないの……」
「帰る場所が同じなんですもの。そういうれいは、なんだかんだで私を置き去りにはしないのですね?」
「……女の子ひとりにして帰るような男だって、ふぅちゃんに幻滅されたくないもん」
「ご主人さま想いな素直な子は、好きですよ」
「だから、ヒイロに好かれたって嬉しくないし、あんま近寄らないでよ。誤解される」
「むーつーきーくーん、お話しましょー?」
「あああ、ホンットそーゆーとこキライ!」

 グチをこぼすと揚げ足とられるから、もうなにも言わない。有意義なこと考えよう。

「ふぅちゃん、ふぅちゃん、ふぅちゃん……」
「そうそう。今日はナナくんが、能力を使う練習に入るそうです」
「ふぅちゃん、ふぅちゃん、ふぅちゃん……」
「うまく行けば、対人練習まで行くのではないでしょうか。でも、いきなり五譲ごじょう四紋しもんは厳しいでしょう?」
「ふぅちゃん、ふぅちゃん、ふぅちゃん……」
「ですので零、よろしくお願いしますね?」
「ふぅちゃん、ふぅちゃん、ふぅ…………は?」

 顔を向けた先で見たヒイロの笑顔は、残像。
 気づいたときは手遅れ。街の喧騒が、ぐにゃりと歪む――

「やぁおかえり、六月むつきくん」

 特に驚いた様子もなく、出迎える笑顔がある。
 再び広がった景色は、見慣れない岩場だった。
 屋外じゃない。部屋の中に……ある?

「……なにここ」
「屋敷の地下だよ。トレーニング場になっているんだ」

 頭が痛くなって、髪を掻いた。そう。問答無用で強制送還させられたんだ。ヒイロの空間支配によって。
 おれはただ、一途にふぅちゃんを想っていただけなのに……ホントになにが悲しくて、こうなった。

「うぅっ……ごめんね三葉みつば……」

 体育館くらいの広さはある部屋の端に、膝を抱えてすすり泣く栗毛の彼がいる。
 同じ空間に、シモンとふたり。なんとなく悟った。

「ナナくんにまで手出したの……ホント見境ないね」
「やだなぁ。ケガを治しただけだよ」
「それで、永遠に消えない心のキズを負っただろうね」

 このひとが罪に問われないとかヘンだよ。色々考え直したほうがいいよ、神さま。

「で、なに企んでるの?」
「おや、お嬢さまから聞いていないかい? きみに、ナナくんの練習相手になってほしくて」
「は? なにそれ聞いてな……」

 ……いや、ちょっと待って。ここ来る直前に、なにか言ってたような。

「さっきまで、ナナくんに能力の制御方法を教えていたんだ。ちょっと対人練習もやらせてみようかと、五譲さんと話してね」
「ゴジョウがいたのに、なんで犯罪を未然に防げなかったの!」
「ナナくんのケガがひどかったからねぇ。快く許可してくれたよ?」

 キズだらけになるなんて、どれだけ鬼畜な指導したわけ。おれやっぱこのひと怖いよ……

「あ、ナナくんのケガは、自分の力が制御できなかったためだからね? いまは心配ないけれど」
「心読まないでよ!」
「基本を学んだらあとは実践だ。ふたりでTrainingして、いっしょにStep upしよう」
「待って。おれ引き受けるとか一言も言ってな……」
「能力を使って、相手に膝をつかせたほうの勝ちだよ。そうそう、ここはお嬢さまの結界の中だから、思う存分やっていいからね」
「ちょ……それって」
「やらなきゃ、出してくれないってことすか……」
「You got it! そうとも言うね」
「こんのスパルタ鬼教官!」

 ここでようやくナナくんも立ち直ったみたいだけど、正直そんなのどうでもよくて、頭が痛くてしょうがなかった。

「なんでおれまで巻き込まれなきゃいけないの……」
「あれ、やる気が起きないかな? そんなきみたちに、Good newsをあげよう」
「は? グッドニュース?」
「どうせろくなことじゃ……」
「きみたちが頑張っているから、ご飯を作ってあげたいと、三葉さんに相談をされてね」
「「……」」
「頑張っているきみたちのために、いまごろ、心を込めてお昼の支度をされているころだと思うよ?」
「「…………」」
「せっかく作っていただいたお料理が冷めてしまったら、もったいないねぇ……」

 その言葉で、おれはクルッと身体の向きを変える。ナナくんもすっくと立ち上がった。

「六月……」
「ナナくん……」
「さっさと散れ!」
「そっちこそ!」
「そうこなくては。あぁ、急所だけは避けてね。また熱いKissをしなくてはいけなくなるから……」
「にゃあああ――っ!!」
「ぶっ殺さない程度にぶっころす!!」

 シモンの言葉は、いちいち呪いだ。
 おかげで突如として豪雨と旋風が発生し、地下のトレーニング場を揺るがしたのだった。

「Lesson start!」
 
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