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101.乾いた感情3

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「魔術院で学ぶ学生である以上、
あなたは私を殺せないでしょう。
私からすれば、馬鹿馬鹿しい信条ですが、
利用させて貰います」
敬う素振りも見せない誠一であった。

「まあ、神々については別として、
リシェーヌはどうなりました?
一応、聞いておきましょう」
誠一はあくまでも事の次いでのように尋ねた。

「どうでも良いことなら、知る必要もあるまいて。
知ったところで君にはどうにもならい。
ところで誠一君、出向先でのサビ残祭りで
アクセスできぬとはどういう意味かのう?」

リシェーヌのことで、気持ちが
高ぶっていた誠一は、ファウスティノの話を
聞いた瞬間、とんでもない言葉が聞えてしまい、
素で答えてしまった。
「はっ?学生なんでそんなこと知りませんよ」

唇を釣り上げて、にやりとファウスティノが笑った。
「そうかそうか、これは本当に良い拾い物をした。
まさか、神堕ちした者を捕らえられるとはのう。
本当に幸運じゃ」
いつの間にか天体球戯の杖を右手に持っていた。

「わしはのう、知識を探求するためならば、
手段を選ばぬことがあって。
昔はそれでよう師匠に注意・折檻されたものじゃ。
しかし、この世界の深淵を知るには、
どうしても必要じゃったのだよ。
その結果、賢者の称号を得ることは
できなかったがのう。
拷問と尋問に特化した魔術、誠一君、
君は知りたいかな?
ふむ、脳さえあれば、いくらでも情報は
引き出せるがのう、どうしたものかのう?」

誠一は動揺してしまった。
無論、拷問に耐えられるとは思えなかったし、
身動きを取れない状態になった時に
何をされるかわかったものではなかった。

「『出向先でのサビ残祭りでアクセスできぬ』
これはですね、そう王宮での勤めから
地方での勤めになり、就業時間外に仕事を
無償で行うことが常習化していることです。
それで、この世界に干渉する時間が
無くなったということです」
誠一は必死になって答えた。

「そういう意味じゃったのか。
神々の世界も世知辛いのう。
ふむ、君から学ぶことは多そうじゃ。
では対価に君が必死になって無関心を
装っていたリシェーヌについて
話そうとするかのう」
誠一の顔は真っ赤になっていた。
内心を見透かされていたからであった。
そして、駆け引きをするには役者が違い過ぎることを
痛感させられていた。
本当にこいつらはNPCなのかと思うほどに
誠一からすればどいつもこいつも人間臭かった。
しかし、そんな思いもファウスティノが
話すリシェーヌの件で吹き飛んでしまった。
自分は14歳のNPCに恋でもしているのかと
思うほどに事の経緯を知るにつれて、動揺し混乱してしまった。

話終えたファウスティノは、椅子より立ち上がり、言った。
「ついて来なさい」
誠一は何も言わずにファウスティノの後に続いた。
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