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145.遠征4

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「くっ、神は村に鎮座する魔物を
倒せとの仰せだ。みんな、覚悟はいいな」
誠一はやけっぱちになり、漆黒のマントを羽織って、
出来得る限り真剣な表情をした。

誠一の身体に力が漲っていた。
神の啓示を受けた影響だろうと思った。

「おおっー神託が下された!
アル、行くぞ。
このまま、向こうに合流するか?」
ヴェルは勇んで、吠えた。

シエンナは両手を重ねて、祈っていた。

ラムデールはまじまじと誠一を見つめていた。

「シエンナ、祈るのは後で、
今はあの魔物を倒すことを考えよう」
シエンナは頷いた。
誠一は恨めしそうに天を見上げて、
誰にも気づかれないように舌打ちをした。
ちっ、余計なことをしやがってと!

「啓示には続きがある。戦うのは、僕だけだ。
3人は一緒に向かっても可能な限り防御に徹してくれ。
攻撃系の魔術や技は必要ない。
防御系と補助系の魔術と技に魔力、体力、
そして気力を割いてね。
いいね!これは神様からのお願いだよ」

三人は頷いた。
そして、誠一は更に指示を追加して、
それを守るように3人へ念押しをした。

 誠一が神の啓示を利用して、茶番劇を
演じる数分前、剣豪とキャロリーヌは、
魔物の一団を視界に捉えていた。

「あー結構、厄介なのもいるわねー。
まあ、あれをつかうかな。
一撃ではちょっと倒しきれないかも。
残りは任せるわよ」

「アレとは?」

「広域を攻撃する技よ。
限界まで体力と気力を使うから、
技を放った後は回復するまで
しばらく動けないわ」
キャロリーヌは、その場に留まり、
集中し始めた。

「あとは何とかしましょう。
見目美しい女性が魔物に蹂躙されるのを
見るのは心が痛みますからね」

「ぷぷっ、このむっつりスケベが!
あの時も覗いてたでしょ。
魔物に襲われても木陰から
覗くつもりでしょ、この変態」
軽口を叩きながらも集中力を
切らさないキャロリーヌ。

剣豪は頭を掻きながら、
その前を飄々と歩き始めた。

「ぐううっ」

キャロリーヌは弓の弦を限界まで引き絞った。
矢はキャロリーヌの真上を指していた。

「一本の矢よ。その矢尻へ神の拳を顕現させよ。
フォストゴッテスっー」

放たれた矢は、空を切り裂き、
天に突き刺さらんとする勢いであった。
人の視界より消えた矢は、神の拳を引き連れて、
魔人に向かって降下を始めた。
遠目には、矢の周りに発生している気流が
まるで巨大な拳が振り下ろされるように
見えたであろう。

 茶番劇を終えた誠一たちにも
その光景は見えていた。
技の迫力に圧倒され、呆然とするヴェル、
シエンナ、そしてラムデールだった。
誠一は呆然と立ち尽くす3人へ急ぎ、
向うことを促した。

巨大な拳が着弾すると、魔人を中心として、
直径50mほどの範囲の木々を打ち飛ばし、魔物を倒した。
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