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326.竜公国6

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 しばらくするとドアがノックされて、
2人ほどの騎士を従えて、1人の男が入室した。
服の上からでも分かるほど隆起した筋肉、精悍な顔つき、
一度見れば忘れられぬほどの強い眼差し、
誰が見ても只者でないと分かる雰囲気を纏っていた。

男は騎士を押しのけて、竜人の前に立った。
「グロウ、これはどういうことだ!
客人として迎え入れよと言ったはずだ。
その客人に茶も出さず、ましてや立たせておくとは
一体どういう料簡だ」

誠一たちにも分かるほどに竜人の表情が強張っていた。

「釈明もできぬとは、腕っぷしだけでは
どうにもならぬと何度言ったら分かる」
男がため息をついて、竜人の肩を軽く叩いた。

「グロウ、客人に茶を。いいな」

グロウは短く返答すると居間を出て行った。
余程、緊張してしまったのか、
右腕と右脚、左腕と左脚が同時に動いていた。

「あいつにも困ったもんだ。好漢ではあるのだがな。
どうも竜公国が至上であるという矜持が
色々と視野を狭くしているもので。気を悪くしないでくれ。
俺はエドワード・スレイヤー・ドラゴン。
聞いたことある名前かもしれないが、この場は非公式だ。
あまり気にしないでくれ」

竜公国の現国王エドワード・スレイヤー・ドラゴン。
竜を駆る者であり、竜を狩る者であった。
強大な力を持つ竜を従える力のある王族の中で
最強の力を持つ者が名乗ることを許される名であった。

誠一たちはその名を聞いて、緊張が走った。
突然の王の登場、自分たちの行動が監視されていること、
それらのことが誠一たちから余裕を奪っていた。
どかりとソファーに腰を下ろすエドワード。
流石に非公式とはいえ、見下ろすかたちになることを
憚ったが、さりとて今更、片膝をついて挨拶をするもの
どうかと悩んでいるところにグロウが使用人を伴って、
戻ってきた。

 入るなり、分かりやすい位にグロウが憤怒の形相となった。
こめかみと思わしき辺りに青筋がたっている様に見えた。
「きっ貴様ら、ききっ」
まともに呂律が回っていなかった。
何か喚いているが誠一たちにはよく聞き取れなかった。

それはエドワードも同じようであった。
「グロウ、落ち着け。何をいっているかよく聞き取れないぞ」

グロウは口を大きく開け、一度、大きく息を吸い込んだ。
「おまえら、王の御前であるぞ。膝をつかぬか。一体、何様のつもりか」

誠一はグロウの言うことを理解してこの場を収めるために
慌てて片膝をつこうとしたが、エドワードに止められた。

「よい、さっさと座れ。公式の会見ではそうしてくれ」
誠一たちは名を名乗りながら、席についた。
エドワードは鷹揚に頷いていたが、
何故かキャロリーヌの時だけ挨拶がてら立ち上がり
握手を求めていてことが誠一は気に入らなかった。
それは、グロウも同様のようであった。
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