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600.鍛冶師3

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「お久しぶりです、ヨークさん」
誠一は丁寧にあいさつをした。

しかし、ヨークは虚勢を張るように声を張り上げた。
「なんじゃ何の用だ。
あの時は子供だからと言って大目に見てやったが、
用があるなら、商会を通してから来い。
話はそれからだ。いいな」

誠一は追いやられるようにヨークから押し出されると、
ドアはバタンと大きな音を立てて閉められた。
内側からは、まるで牢獄に施錠される時の様な
重く嫌な音がガチャリと聞えた。

「なんなんだよ、一体」
ヴェルが愚痴を零すと、キャロリーヌが窘めた。
「ヴェル、彼の態度は頂けないけど、
確かに彼の言っていることは、
ここに鍛冶場を構える鍛冶屋の規則だから、
間違いはないわ。まあ、あの態度は頂けないけどね。
それよりアル、どうするの?」

「取り付く島もなかったから、仕方ないかな。
武具は温泉街に乱立する武器屋や防具屋を覗いてみましょう。
ヴェルのハルバートが入手できないは痛いけど、ヴェルどうする?」

ヴェルは納得できないのか、
アミラ相手にぶつくさと愚痴を言っていた。
若干、辟易気味のアミラであったが、
愚痴を聞くのも恋人の務めとばかりに
うんうんと頷きながら、
ヴェルの零す愚痴と怒りに相槌を打っていた。
「まったくラッセルさんは使い勝手について
教えてくれとか言っていた癖になんなんだよ。
あの態度は!ちょっと景気が良くなるとアレかよ。
元々、品性劣悪だったんだな。
ってアル、俺の武器か!
多少、扱いが変わっちまうけど、槍でも探すかな」

「ヴェル、落ち着いて、今のはヨークさんだし、
ラッセルさんは違うかもしれないだろ!
金銭を前にして様変わりする人なんて
幾らでもいるから気にするなよ。
それよりシエンナにどこか信頼の置けるお店を
紹介して貰おう」

誠一の言葉に若干の落ち着きを取り戻すヴェルであった。
どうやらアミラの相槌はヴェルの怒りに油を
注いでいただけのようであった。

「それもそうだな。アル、宿に一旦、戻るのか?」

「そうだね、戻りながらお店を覗いてみようか」
誠一はヨークの鍛冶屋を一瞥して、歩き出した。

ヴェルも同様に一瞥すると一切振り向かずに
アミラを相手に新しい武器の話をしながら歩き始めた。

乱立する商店の扱う品々は、この地の鍛冶場から
生み出される武器や防具だけではなかった。
生活に必要とされる鍋、やかん、包丁等も
お店でふんだんに扱われていた。

「おおっアル、アル。あれ、野営の時に使ってみたくないか?
クランの予算で買おうぜ。絶対に役に立つはず」
野営用の様々な道具もあり、ヴェルは目を輝かせていた。
シンプルなアイテムから凝った造りの物まで所狭しに並べてあった。

「いやいや、絶対に必要ないって」
絶対にヴェルは新しい野営アイテムを見つければ、
使いたくなるタイプだと誠一は断定した。
この手のタイプは、アイテムを使いたいがために
野営をするに違いないと思い、誠一は財布の紐を緩めなかった。

「本当に変わった野営のアイテムがあるです」
アミラもヴェル程でもないが、興味があるようだった。

「おおっアミラにもこの道具の良さが分かるか」
ヴェルは上機嫌でアミラに道具の説明をしていた。
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