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611.鍛冶師14

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「まあ何といいますか。
取り敢えず話もまとまったようですし、
工房に向かいますか?」

ラッセルの言葉に被さるようにカーリーの声が聞えた。
「まだだよな。少し運動したい。
アルフレート、相手をして貰う」

カーリーがその小柄な体躯と同じ位の
巨大な先切金槌を担いで歩いて来た。
庭の真ん中で立ち止まり、両手でそのハンマーを
ぶんぶんと振り回した。
鮮やかな槌の軌跡と共に砂埃が舞い上がった。

「ほう、これは」
マリアンヌが感嘆の声を上げた。

「アルフレート様、申し訳ありませんが、
少し妻の相手をして頂けませんか?」

身体を動かして、心を空っぽにしろということか。
ラッセルの意図に誠一は感謝した。

「それではカーリーさん。よろしくお願いします」
誠一は足場を確認すると、7面メイスを手に持ち構えた。

「じゃあ、始めるか」
カーリーは大きく槌を振り回すと、
誠一に向けて振り下ろした。

無論、誠一は躱した。
槌は大地を叩きつけたが、吸いついた様に
大地から槌は離れなかった。

「まじか」
誠一は素直に感嘆した。
あの勢いで叩きつけたにもかかわらず
反動で槌が全く動くことが無かった。

「それにしてもカーリーさん。殺す気ですか?
今の一撃を受けていたら、死んでますよ」
洒落にならないことになってはたまらないと思い、
大惨事が引き起こされる前に誠一は抗議の声を上げた。

「気にするな。ちょっとした挨拶替わりだ。
地面が揺れなかっただろ。心配するな。
手加減はしているぞ」

 巨大な槌の逆側は巨大な錐になっていた。
どちらも当たれば、容易に戦闘能力を奪えるはずであった。
訓練とはいえ、誠一の背中に冷たい汗が流れた。

7面メイスを力任せに強く振るのでなく、早く鋭く振るった。

「なっ、バカな」
外野でヴェルが唸った。

カーリーは片手で槌を器用に扱って見せた。

「ふううっ。
メイスというのは、左程の技術なく扱える上に
力任せに振るその破壊力こそに特徴があるのだがな」
誠一の攻撃を全て防ぎ切ったカーリーが
両手で槌を持つと攻撃に転じた。

「くっ」

強烈な一撃を誠一はメイスで受けてしまった。
その場で持ち堪えたが、メイスを吹き飛ばされそうなほどの衝撃を受けた。

「まあこういうことだ。
同系統の武器を持つ敵を前に己の破壊力を信じられなければ、
相手の力に容易に圧せられて、叩き潰されるぞ」

魔術を使っていないが、圧倒的な力の差を
見せつけられた誠一だった。
この人は一体、何者だという疑問が脳裏を霞めた瞬間、
追撃が誠一を襲った。
敢えて、カーリーは槌でメイスを叩きつけていた。
「訓練の最中に考え事か。
そんな余裕、その実力では10年早いわ」

誠一は、両手に響く衝撃で危うくメイスを
手放しそうになった。離したら負けだ。
良く分からない理屈が誠一の心を支配していた。

「うおおおおおっ」

誠一は全力で槌を弾き返した。
そして、力強く一歩を踏み出し、全速全力で
カーリーへ目がけて、メイスを振り下ろした。
カーリーは槌で受けたが、押し込まれ、
巨大な錐が地面に突き刺さった。

「それまで」

ラッセルがそこで二人を止めた。
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