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621.閑話 とある夜の会社の情景3

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千晴の話を聞くと、電話越しに壁山の声のトーンが
一段低くなった。
「そんな場合じゃないんだけど、
現場のことを分かってないでしょ。
さっさと戻って、処理しないさいよ」

「いえ、会社の就業規則ですので、少し待ってください」

千晴の話を聞くと、電話越しに壁山の声が
ヒステリックに響いた。
「いいからさっさと出社して、処理しなさいよ。
あんたら間接部門がのうのうとしてられるのも
私たちのお陰でしょ」

件名を軒並み赤字で終わらせる壁山のお陰でないことは
確かであった。
しかし、今の自分の会社での立ち位置を鑑みて、
無用に騒がれることは避けたかった。
消音モードにして千晴はため息をついた。
電話越しに壁山が何か喚き続けていた。

流石に壁山と二人っきりで、夜に仕事する気にはなれなかった。
察してくれればと思いながら、千晴は壁山に伝えた。
「壁山さん、今から戻ります。請求書を机に置いておいてください。
終わったら、改めて連絡します」

「おお、ありがとう。流石は佐藤さんだ。
書類は封筒に入れて置いておくから、終わったら連絡をください。
私は近場で食事でも取りながら連絡を待つとするよ」

そう言い残されて、電話はプツリと切れた。
一方的に言うことだけ言って、電話を切られた千晴は
あまりいい気がしなかった。
「あーあー、どうせまた協力業者と何か揉めたんだろうな。
上長の目を盗んで経理処理するつもりかな」
千晴は、嫌な思いに想像を巡らせた。
誰にも会わないと高を括って、化粧もおざなりに
千晴は服を着こんで会社に向かった。

湯冷めしそうな程度に気温は低く、
夜風はそれに拍車をかけた。
千晴はもう少し厚着をすれば良かったと後悔した。
会社の近くでホットコーヒーを購入して、
明り一つ灯していない会社のビルを見つめた。

「一応、清涼さんには報告しておくかな」
どうせゲームに夢中で出ないだろう思い、
メールで大まかな内容を送った。

ビルの正門でなく裏に回り、ドアの警戒を解除した。
千晴は念のため、警備会社に連絡した。
「すみません、30分から1時間ほど作業します。
終わり次第、施錠したら、連絡します」

「わかりました」

警備会社の社員の短い返答の後に千晴は
電話を切り薄暗い通路と階段を歩いた。

総務経理部の部屋の明かりを点けて、
自分のデスクに向かった。
壁山の連絡通り封筒が一通置いてあった。
封筒にはかなりの厚みがあった。

「ちょっ、これなによ」

千晴は壁山が溜め込んだ請求書の量に暗澹としてしまった。
厚みからして流石にこれを全て処理するのに
1時間は不可能と瞬時に判断した。
千晴は今晩、処理することを早々に諦めた。
開封して、内容確認後、清涼に相談して処理は明日以降に
することにした。
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