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679.氷竜24

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「何をしても絵になるってこういうことを言うんだろうね」
キャロリーヌがため息をついてマリアンヌの後ろ姿を追った。

「まあ、それはキャロリーヌも同じだよ」
そう言いながらも誠一はリシェーヌのことを思い出していた。
どのような情景であっても彼女の振る舞いは、
絵画や物語の題材になるようであった。
絵心や文才があればなと残念に思う誠一だった。

ぐりぐりとキャロリーヌの人差し指が誠一の頬を押していた。
「まったく酒に全く興味はない代わりに
女にはご執心の婚約者様なんだんから。
女性は視線に敏感よ。
後ろからそんなにガン見していたら、
マリアンヌに気付かれるわよ」

マリアンヌは右手を上げて、軽く手を振った。
「遠慮せんでもいい。
そのようなねっとりと舐め回すような
いやらしい視線にはなれているからな」

ちょっと待て、そんな視線を送ったつもりはないぞ
と弁明をする前にキャロリーヌの冷たい視線を感じ、
慌ててマリアンヌから視線を外した。

こほん、咳払いを一つすると、
誠一はヴェルたちについて尋ねた。
「ヴェルたちはまだ、寝ているのかな」

「ヴェル、アミラ、シエンナ、それにサリナは
氷竜の巣で目ぼしいものを集めているわよ。
氷竜もあまり動けないことだし、
回復薬とシエンナの水系の回復魔術で
傷を癒しているところかしら。
数日したら動けるようになるそうだから、
そしたら村に戻ってくる予定。
剣豪様は、村でだらだらしているけど、
私、ロジェ、それにマリアンヌはヴェルたちが
集めた素材や魔石、お宝を村に搬送していたわ。
今日も向かうけど、アルは休んでいてね」

誠一は剣豪と二人きりだと暇を持て余すと思い、
キャロリーヌたちに同行することを伝えた。

少し心配そうな眼差しでキャロリーヌは誠一を見つめた。
「うーん、大丈夫?アレと一緒だと暇を持て余すけど、
安静にしておいた方が良いと思うけど」

「キャロ、そこまで分かっているなら、お願い」
誠一が拝み倒すと、キャロリーヌは渋々頷いた。
そんな微笑まし様子をマリアンヌは朝食を並べながら、
にこやかな表情で見守っていた。

「くっおいしい。
野宿での料理で左程の差はないと思っていたけど、
正直、負けたわ。マリ、あなた、完璧超人よね」

「ふっ淑女の嗜みとでも言っておこうか。
まあ、野宿と違って、ここでは下処理に手間を
かけられるからな」
珍しくどや顔で誇るマリアンヌだった。

食べて誠一も納得した。どれも臭みがなく食べやすかった。
「ふむ、これはこれは出汁をとっていますな。
一体、どこでその技術を学んだのか興味が湧くでござる」

いつの間にか現れて、当たり前のように朝食を取る剣豪であった。

「神よりご助力を頂いたのだよ。
どうらや剣豪殿の国の技らしいな。
流石に生魚をそのまま捌いて
食べることはできなかった」
昔を懐かしむ様な眼差しで
マリアンヌは独り言のように語った。
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