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【番いのαから逃げたい話】
俺の番
.
――――「番」を持つまでは、それなりに平凡な毎日だった。
α、β、Ωという第二性の中でも、「発情期」に加え「フェロモン」という魔性を持つΩ性には実親でさえ戸惑うことが多い。
そして俺の母親は――Ω性と判明した息子(俺)を拒絶した。
(でも、マシな方だろ)
俺に父親はいない。物心ついた頃にはいなかった。
母さんは世間体を気にする性格で表立って俺に手を出すことはなかったし、嫌味を言っても家には置いてくれた。普通に高校に通えていた。俺は……幸運にも他のΩたちよりずっと発情フェロモンが薄い体質だった。
発情期が近づいても、誰にもΩだと気づかれない。
それと俺の顔は、容姿端麗とはほど遠い。
『地味で可愛くない』、『ΩらしくないΩ』。
俺はΩらしく、人を惹きつける美しさも可憐さも持ち合わせていない。人混みに紛れてしまえば誰の目にも留まらない。
発情期さえ終われば、βと偽ったってバレやしない。
――でも、それでよかった。
俺には、番なんて必要ない。
誰にも迷惑をかけず、ひっそり静かに暮らしたい。
そうであってほしいと、願っていたはずなのに……。
* * *
「……は、……はっ」
激しく脈打つ心臓。
熱を持った身体。
素っ裸のままベッドにうつ伏せになり、酒に酔ったみたいに視界がぐるぐると回る。
「ん……、あぁっ!」
つらい…っ
苦しくて、もう嫌だ……。
ほんの少し身動きしただけで、シーツに擦れただけで、身体がびくりと跳ねる。
忌々しいにも程がある。
熱に振り回されるしかないこの身体が、心底憎い。
「―――唯君。 まだ素直になれない?」
俺のベッドから二、三歩離れた椅子に座る“番”の声に、怒りが込み上げた。
素直だと?
ふざけるな。
ぎっと睨みつけても、俺の番――新野 俊哉は、涼しい顔でこちらを見つめている。
「それとも、俺に言いたいことでもある?」
「……ここから、出せよ…っ」
窓は、外の光を遮るように雨戸が閉め切られている。
寝室の扉も、万が一にも俺が逃げないよう、鍵がかけられていた。
「困ったなぁ。せっかく、いい子にしてると思ってたのに」
「………い‥から、外にッ」
俺はずっと、諦めたふりをしてきた。
毎日リモートでしか授業に参加できないから、必死で勉強した。
そのあとは「暇だから何かしたい」と願い出れば、家のことを任されるようになった。
寝室から少しずつ行動範囲を広げて、馴染むそぶりで勝ち取った信頼。
そしてようやくだ。長時間留守になる日を聞き出し、こっそりマンションを抜け出した――はずだったのに。
「出たい? そんなの、ダメに決まってるだろ」
「~~~~ひっ!? ああぁっ!」
乱暴に仰向けにされただけで、軽くイッてしまった。
甘くて、じんじんして、つらい……。
「やだ……っ、……ぁっ」
もじもじと足を動かしてしまうのは、熱を逃がしたいからじゃない。
もっと強い刺激を、身体が求めているからだ。
「唯」
―――だめだ。
頭の中が、勝手に気持ちいいことを欲しがってしまう。
思わず、縋るような目で番を見上げた。
「そんな身体で、どこに行くつもりだ?」
「……っ、ん……」
顔に触れられただけで、ぞくりと鳥肌が立つ。
その反応に満足したのか、クスクスと楽しげな笑い声が落ちてきた。
……叶うことなら、この綺麗な顔を、殴ってやりたい。
「唯くん。ぐずぐずで、かわいいね」
いやだ……。
どれだけ憎んでも、優しくて甘い「番」の声だ。距離が近づくほどに後ろの孔が疼いてしまう。
欲しいわけじゃないのに――
αのフェロモンに、身体がじわりと反応する。
もっと触って。
アンタの声を聞かせて。
番の匂いと熱が、俺の矜持を溶かしていく。
「いい匂いだ。全部、持っていかれそう」
「ごめ……なさ…、許して……っ…」
「うん。家出したことを反省できたならいいよ」
くそっ、 反省ってなんだよ…!
俺はそんなに悪いことをしたのか、と、情けなく涙がこぼれる。
もう無理だ……つらい。
早く、楽にしてほしい……。
―――この強烈な発情は、周期的なものじゃない。
番であるこの人に縋って、発散させてもらう以外に解消する方法がない。
「キツいだろ? 医療用の発情促進剤なんて、本来は子どもができない夫婦が使うものだしね」
「……っ、あ……っ、んぅっ」
「唯くん。どうしてほしい?」
「ねが、……」
お願いだ、俺に冷たくしないで―――
奥まで突いて、揺さぶって。
たくさん中に出して、安心させて――。
矛盾だらけの俺が、バラバラに壊れていく。
「……は…っ、や……やだ……っ、やだ……」
欲求と理性に挟まれ、
俺は恐怖に震えることしかできなかった。
――――「番」を持つまでは、それなりに平凡な毎日だった。
α、β、Ωという第二性の中でも、「発情期」に加え「フェロモン」という魔性を持つΩ性には実親でさえ戸惑うことが多い。
そして俺の母親は――Ω性と判明した息子(俺)を拒絶した。
(でも、マシな方だろ)
俺に父親はいない。物心ついた頃にはいなかった。
母さんは世間体を気にする性格で表立って俺に手を出すことはなかったし、嫌味を言っても家には置いてくれた。普通に高校に通えていた。俺は……幸運にも他のΩたちよりずっと発情フェロモンが薄い体質だった。
発情期が近づいても、誰にもΩだと気づかれない。
それと俺の顔は、容姿端麗とはほど遠い。
『地味で可愛くない』、『ΩらしくないΩ』。
俺はΩらしく、人を惹きつける美しさも可憐さも持ち合わせていない。人混みに紛れてしまえば誰の目にも留まらない。
発情期さえ終われば、βと偽ったってバレやしない。
――でも、それでよかった。
俺には、番なんて必要ない。
誰にも迷惑をかけず、ひっそり静かに暮らしたい。
そうであってほしいと、願っていたはずなのに……。
* * *
「……は、……はっ」
激しく脈打つ心臓。
熱を持った身体。
素っ裸のままベッドにうつ伏せになり、酒に酔ったみたいに視界がぐるぐると回る。
「ん……、あぁっ!」
つらい…っ
苦しくて、もう嫌だ……。
ほんの少し身動きしただけで、シーツに擦れただけで、身体がびくりと跳ねる。
忌々しいにも程がある。
熱に振り回されるしかないこの身体が、心底憎い。
「―――唯君。 まだ素直になれない?」
俺のベッドから二、三歩離れた椅子に座る“番”の声に、怒りが込み上げた。
素直だと?
ふざけるな。
ぎっと睨みつけても、俺の番――新野 俊哉は、涼しい顔でこちらを見つめている。
「それとも、俺に言いたいことでもある?」
「……ここから、出せよ…っ」
窓は、外の光を遮るように雨戸が閉め切られている。
寝室の扉も、万が一にも俺が逃げないよう、鍵がかけられていた。
「困ったなぁ。せっかく、いい子にしてると思ってたのに」
「………い‥から、外にッ」
俺はずっと、諦めたふりをしてきた。
毎日リモートでしか授業に参加できないから、必死で勉強した。
そのあとは「暇だから何かしたい」と願い出れば、家のことを任されるようになった。
寝室から少しずつ行動範囲を広げて、馴染むそぶりで勝ち取った信頼。
そしてようやくだ。長時間留守になる日を聞き出し、こっそりマンションを抜け出した――はずだったのに。
「出たい? そんなの、ダメに決まってるだろ」
「~~~~ひっ!? ああぁっ!」
乱暴に仰向けにされただけで、軽くイッてしまった。
甘くて、じんじんして、つらい……。
「やだ……っ、……ぁっ」
もじもじと足を動かしてしまうのは、熱を逃がしたいからじゃない。
もっと強い刺激を、身体が求めているからだ。
「唯」
―――だめだ。
頭の中が、勝手に気持ちいいことを欲しがってしまう。
思わず、縋るような目で番を見上げた。
「そんな身体で、どこに行くつもりだ?」
「……っ、ん……」
顔に触れられただけで、ぞくりと鳥肌が立つ。
その反応に満足したのか、クスクスと楽しげな笑い声が落ちてきた。
……叶うことなら、この綺麗な顔を、殴ってやりたい。
「唯くん。ぐずぐずで、かわいいね」
いやだ……。
どれだけ憎んでも、優しくて甘い「番」の声だ。距離が近づくほどに後ろの孔が疼いてしまう。
欲しいわけじゃないのに――
αのフェロモンに、身体がじわりと反応する。
もっと触って。
アンタの声を聞かせて。
番の匂いと熱が、俺の矜持を溶かしていく。
「いい匂いだ。全部、持っていかれそう」
「ごめ……なさ…、許して……っ…」
「うん。家出したことを反省できたならいいよ」
くそっ、 反省ってなんだよ…!
俺はそんなに悪いことをしたのか、と、情けなく涙がこぼれる。
もう無理だ……つらい。
早く、楽にしてほしい……。
―――この強烈な発情は、周期的なものじゃない。
番であるこの人に縋って、発散させてもらう以外に解消する方法がない。
「キツいだろ? 医療用の発情促進剤なんて、本来は子どもができない夫婦が使うものだしね」
「……っ、あ……っ、んぅっ」
「唯くん。どうしてほしい?」
「ねが、……」
お願いだ、俺に冷たくしないで―――
奥まで突いて、揺さぶって。
たくさん中に出して、安心させて――。
矛盾だらけの俺が、バラバラに壊れていく。
「……は…っ、や……やだ……っ、やだ……」
欲求と理性に挟まれ、
俺は恐怖に震えることしかできなかった。
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