番いのαから逃げたいΩくんの話

田舎

文字の大きさ
3 / 52
【番いのαから逃げたい話】

2

しおりを挟む

今でも思い出す…

いくら存在感の薄い発情フェロモンでも、腐ってもΩだと自覚はあった。
だから決められている以上毎日抑制剤を飲んでいたんだ。

なのに、あの日の放課後
普段使っていた抑制剤が効かないまま発情を迎えてしまった。



「はっ、ぁ… な、んでだよっ…!」

さすがに教室はマズい…
クラクラする頭と体を叱咤して、なんとか近くの空き教室に逃げ込んだ。

スマホも抑制剤も鞄の中で教室に置いてある。
この発情が収まるまでここにいるしかない


苦しい
犯されたい

αじゃなくたっていい、βでも、誰でもいいから……

はぁーはぁー…と熱い吐息と、激しく戸惑う心。


「ん、ぅ、ぁ…、あぁ」

ダメだダメだと分かっていても耐えきれず、俺はひとりで泣く泣く惨めな自慰に耽り続けた。

そして、周囲も暗くなったころ
当日の見回り担当だった新野先生 

"α"に見つかったのが運の尽きだった。





「頑張り屋の唯くんの為に、俺も頑張って手続きを済ませてきたよ」
「…っ、!!」
「そんな悲しそうな顔しないで。これで君を縛るものは、なにもないんだ」

ーー違う!そんなことはない!
こんな互いが望まない番い関係を、解消をしたい…

……… したかったんだ。

それが俺にできる最善の手段だったから


「泣かないで唯君」


どんなに泣いても、伝わっちゃくれない

「や、やだぁっ、いや、っ…ひ、あ、」

慰めているつもりなのかもしれない。それでも、背中をさすられるだけで甘く身体が痺れる。

なんでだよ… 俺みたいな番いが離れたところで、αである貴方にはなんら支障ないはずだ。
何度も何度も俺は嘆願した。
けれど返ってくる返事は、俺が期待したものじゃない。

「唯が何を考えてるか当てるのは簡単だけど、最初から最後まで俺の気持ちを無視するなんて、酷いね」
「…ひっ!?」

重く、ピリッとした空気。
番いの怒りを感じたのか 息が詰まりそうになる

(なんで…、怒るんだよ…っ)

怒りたいのは俺の方なのに…、俺は話を聞いてもらいたいだけなのに、胸が張り裂けるくらい悲しくなってしまう。


「っ、ごめんな、さい…ッ、ごめんなさい…」

情けなく口走る謝罪と、縋り付くように自ら番いに手を伸ばした。

「ごめんな、さい…っ、怒らないで…」
「番い解消しようなんて悲しいことを、二度と考えないくらい反省した?」
「あ、…っ」

そっと顎を持ち上げられると、はっきりと番いの顔が視界に映る。

ニコリと、綺麗で優しい笑顔だ…
怒ってなんかいないと、すぐ理解して、安心する。


馬鹿なのは俺だ
どうして、この番いから逃げられるって言うんだ?


だって、俺は……





「ほんと、君はどうしようもない」
「っ、ぅ、…、」

うんうんと何度も頷く。
早く楽にして欲しい、後ろが疼いて仕方がない。
これ以上、本能に支配されると自分が自分でなくなる。

「俺だけだって言ってごらん?俺だけが欲しいって」
「しや…、俊哉さんだけ、……ここに、……欲しい、奥まで、挿れて」

お願いだ、もう我慢したくない…っ
泣き腫らした目で自分の番いを見つめながら、ぐっと普段なら何があっても触らない場所を開く。


「はやく…、ちょうだい…、奥いっぱいにして、ほしい…っ」
「やっと素直になった」

薬のせいだということは承知の上だが、必死に番いを誘う姿を見て、満足げに微笑む男。

(どうしようもなくて、かわいい俺の番いだ)

きっと理性が戻れば、唯はまた泣いて番い解消のための話を持ち出そうとするんだろう。
だけど今だけは一心不乱にαを求めている。
新野という唯一の番いに触れてもらいたくて、甘いフェロモンで懸命に求愛してくるのだ。


身も心も快楽と愛情を強請って

欲しくて欲しくて、悶えている。


「としや、さんっ…」


はやく、と
弱々しい声に、ゾクゾクと震え立つ。



「かわいいね」



ぎしっと軋むベッド。
覆いかぶさる番いの背中に、唯は躊躇うことなく腕を回した―――。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

カメラ越しのシリウス イケメン俳優と俺が運命なんてありえない!

野原 耳子
BL
★執着溺愛系イケメン俳優α×平凡なカメラマンΩ 平凡なオメガである保(たもつ)は、ある日テレビで見たイケメン俳優が自分の『運命』だと気付くが、 どうせ結ばれない恋だと思って、速攻で諦めることにする。 数年後、テレビカメラマンとなった保は、生放送番組で運命である藍人(あいと)と初めて出会う。 きっと自分の存在に気付くことはないだろうと思っていたのに、 生放送中、藍人はカメラ越しに保を見据えて、こう言い放つ。 「やっと見つけた。もう絶対に逃がさない」 それから藍人は、混乱する保を囲い込もうと色々と動き始めて――

こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡

なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。 あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。 ♡♡♡ 恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!

番に囲われ逃げられない

ネコフク
BL
高校の入学と同時に入寮した部屋へ一歩踏み出したら目の前に笑顔の綺麗な同室人がいてあれよあれよという間にベッドへ押し倒され即挿入!俺Ωなのに同室人で学校の理事長の息子である颯人と一緒にα寮で生活する事に。「ヒートが来たら噛むから」と宣言され有言実行され番に。そんなヤベェ奴に捕まったΩとヤベェαのちょっとしたお話。 結局現状を受け入れている受けとどこまでも囲い込もうとする攻めです。オメガバース。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

隣の番は、俺だけを見ている

雪兎
BL
Ωである高校生の湊(みなと)は、幼いころから体が弱く、友人も少ない。そんな湊の隣に住んでいるのは、幼馴染で幼少期から湊に執着してきたαの律(りつ)。律は湊の護衛のように常にそばにいて、彼に近づく人間を片っ端から遠ざけてしまう。 ある日、湊は学校で軽い発情期の前触れに襲われ、助けてくれたのもやはり律だった。逃れられない幼馴染との関係に戸惑う湊だが、律は静かに囁く。「もう、俺からは逃げられない」――。 執着愛が静かに絡みつく、オメガバース・あまあま系BL。 【キャラクター設定】 ■主人公(受け) 名前:湊(みなと) 属性:Ω(オメガ) 年齢:17歳 性格:引っ込み思案でおとなしいが、内面は芯が強い。幼少期から体が弱く、他人に頼ることが多かったため、律に守られるのが当たり前になっている。 特徴:小柄で華奢。淡い茶髪で色白。表情はおだやかだが、感情が表に出やすい。 ■相手(攻め) 名前:律(りつ) 属性:α(アルファ) 年齢:18歳 性格:独占欲が非常に強く、湊に対してのみ甘く、他人には冷たい。基本的に無表情だが、湊のこととなると感情的になる。 特徴:長身で整った顔立ち。黒髪でクールな雰囲気。幼少期に湊を助けたことをきっかけに執着心が芽生え、彼を「俺の番」と心に決めている。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

処理中です...