示現流見届け人

工藤かずや

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2 示現流の威力

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「織部、こっちを向け!俺が今から打ち込む。
それを受けてみろ!」

織部は軽く答えた。
「ああ。いつでも来い!隙があったら、こっちから
打ち込んでやる」

「できるのならやってみろ!」
右門はつぶやいた。
防具、それも面をしっかりつけていないと、
織部は死ぬ!

それを右門は確かめた。
大丈夫だ!
織部は正眼に竹刀を構えている。

竹刀を八双にあげながら、右門は想った。
やつは死にはしないが、しばらくは起き上がれないはずだ。

まだ門弟は四、五人しか来ていない。
それもすべて防具をつけずに、
壁へ向かって座禅を組んでいる。

師範代が来るのは、もっとあとだ。
今のうちにここでやるか!
「教やってやる。だが、おりれから見たと
絶対口外するな」

織部に念を押した。
「わかってる、わかってる。約束する!
師範代が来る前に始めよう」

織部は防具のまま立ち上がった。
全くなんて奴だ!
右門は防具はつけず、竹刀を取った。
「お前は防具なしか」

「ああ、この意味が今にわかる」
そう言って右門は織部に指示した。
「道場の真ん中に、俺に向かって立て!」

道場内は門弟の座禅で、シンと静まり返っている。
防具をつけ、竹刀を手にした織部がこちらを向いて
道場の中央に立った。

右門は防具をつけず、竹刀だけ手にして
道場の角隅へ向かった。
き上がれない!
それくらい示現流の打ち込みは強烈だ!
示現流の怖さを嫌というほど思い知らせてやる。

織部には形だけ習ったと言ったが、
実は短い間だが竹刀を取って稽古もしていた。
だから、示現流の威力は嫌というほど
身に染み付いていた。

右門は八双のまま低く言った。
「行くぞ」
「来い!」

織部が張り切って応えた。
「きえェェーーーッ!」
右門の口から人間のものとも思えぬ
奇声が発せられた。
門弟たちがびっくりした。

そしてそのまま織部へ向かって走り出した。
奇声が道場内に響き、座禅を組んでいた門弟
たちがなにが何事かと振り向いた。

織部は正眼でそれを迎え撃った。
だが、あの物静かな右門が、人間とも思えぬ
気合いを発することに度肝を拭かれた。

右門は八双に竹刀を構えたまま、
一直線に織部へ向かって走って疾駆して来た。
次第に早くなり加速度がついた。
その声と形相と動きに織部は恐怖した。

こんな右門は、いやどんな奴でもこんなのに
今まで出会ったことがない。
接近しながら右門は八双から竹刀を
渾身の力で織部の頭上へ振り下ろした。

助走の勢いがあり、普とても普通の打ち込みではなかった。
竹刀は唸りを上げて伊織の頭上を襲った。
本能的に伊織は竹刀を上げてこれを受けた。

体重を乗せた右門の一撃が頭上へ入った。
伊織の竹刀を跳ね飛ばし、その頭上を強打した。
仰向けに倒れた。その伊織の体を踏みつけ
右門はそのまま走り続け道場出口へ姿を消した。

門弟たちは初めて見る示現流の凄まじさに
声もなく体を固まらせた。
倒れた織部はそのまま動かなかった。

「死んだのかな!」
若い門弟たちは座禅を中止して、
織部の周りに集まった。
白目を剥いて織部はビクともしない。

竹刀を手にした右門が道場へ入って来た。
無造作に倒れている織部の腕を、引き起こした。
やっと立ち上がる織部。

しかし、ふらついてまったく歩けない。
右門が周囲の門弟たちに言う。
「このことは先生にも師範代も言うな!」

「はい、しかし今の技はなんと言う技ですか」
「忘れろ!!座興でやっただけだ。他言無用!」
それきり門弟たちは座禅の場所へ戻った。

右門はふらつく織部の面を取り
元の場所へ座らせた。
耳もとへ言う。

「これが示現流だ!まだやりたいか」
「やる!!」
「先生に知れたら、即刻波紋もんだぞ!」

「やり・・・たい!」
織部のろれつが回らなかった。
「今日は家へ戻って休め」

一人では防具を取れず、
右門が手伝ってやって防具を脱いだ。
一人で家へ帰れるか心配だった。













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