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朔也はもう一度冒険者モードで遊んでみようと思い立った。
塔モードに飽きたわけではない。初心者のころは上手くいかなかったが、塔モードをやり込んで培った数々を、システムは異なるが世界観を同じくする冒険者モードに応用できるのでは、と考えたのだ。
モードを切り替えた朔也は、主人公のパラメータを決める作業に時間を費やした。はじめて遊んだときは、各能力がゲーム中でどの程度重要なのかが分からず、ほぼ初期設定のまま遊びはじめた。しかし、心機一転再チャレンジするのだから、こだわれる部分はこだわりたい。
出し抜けのノックの音が集中力を台無しにした。
はっとして振り向くと、ドアがひとりでに開いた。現れたのは輝夜の顔で、むっとした顔をしている。
鍵をかけていたはずのドアがなぜ外側から開いたのか、朔也は不可解に思った。そして、輝夜が怒りを面にしている珍しさに呆気にとられた。それとも、姉はいつも僕の機嫌をとるような声音を常用しているが、その実、ドアの向こうでは怒りを湛えた顔をしているとでもいうのか?
「朔也、お昼ごはんは?」
感情を押し殺した声で問われた瞬間、ケチャップの匂いが鼻孔をくすぐった。ポークチャップとポテトサラダと味噌汁と白米と冷たいウーロン茶で構成された献立が、ハローキティが描かれた白いトレイに収まり、輝夜の足下に置かれている。どの器からも湯気は立ち昇っていない。
「どうして食べてくれないの? もう、持って来てから一時間が経ってるよ? いつもはちゃんと食べてくれるのに、どうして今日は手つかずなの? 体調が悪いとか、食欲がないとかじゃないよね?」
攻めることに慣れた人間にありがちなことだが、いざ攻められると怯んでしまい、朔也は沈黙する。いつものように、ゲームを邪魔された怒りが込み上げてくることもない。『塔』購入から二週間、今となってはすっかり慣れ親しんだ音楽が酷く余所余所しい。開け放たれたドアから入ってくる空気が冷たい。
きょうだいの関係は転換点に差しかかっていた。両親がロンドンへ赴任することが決まったとき以来の、人生を左右しかねない重大な転換点に。
問い質した時点で、優勢なのは明らかに輝夜だ。常套手段である、声を荒らげて退場を迫る一手さえ打てない以上、効果的に攻められれば、反撃すらできないまま白旗を揚げさせる可能性すらあった。
しかし、輝夜は攻め方を誤った。己に圧倒的に有利な状況に有頂天になり、調子に乗ったためではない。「これが正しい」と無意識に信じ、盲目的に述べ立てた言葉の羅列、それが誤りだった。言うなれば、必然の敗北。
塔モードに飽きたわけではない。初心者のころは上手くいかなかったが、塔モードをやり込んで培った数々を、システムは異なるが世界観を同じくする冒険者モードに応用できるのでは、と考えたのだ。
モードを切り替えた朔也は、主人公のパラメータを決める作業に時間を費やした。はじめて遊んだときは、各能力がゲーム中でどの程度重要なのかが分からず、ほぼ初期設定のまま遊びはじめた。しかし、心機一転再チャレンジするのだから、こだわれる部分はこだわりたい。
出し抜けのノックの音が集中力を台無しにした。
はっとして振り向くと、ドアがひとりでに開いた。現れたのは輝夜の顔で、むっとした顔をしている。
鍵をかけていたはずのドアがなぜ外側から開いたのか、朔也は不可解に思った。そして、輝夜が怒りを面にしている珍しさに呆気にとられた。それとも、姉はいつも僕の機嫌をとるような声音を常用しているが、その実、ドアの向こうでは怒りを湛えた顔をしているとでもいうのか?
「朔也、お昼ごはんは?」
感情を押し殺した声で問われた瞬間、ケチャップの匂いが鼻孔をくすぐった。ポークチャップとポテトサラダと味噌汁と白米と冷たいウーロン茶で構成された献立が、ハローキティが描かれた白いトレイに収まり、輝夜の足下に置かれている。どの器からも湯気は立ち昇っていない。
「どうして食べてくれないの? もう、持って来てから一時間が経ってるよ? いつもはちゃんと食べてくれるのに、どうして今日は手つかずなの? 体調が悪いとか、食欲がないとかじゃないよね?」
攻めることに慣れた人間にありがちなことだが、いざ攻められると怯んでしまい、朔也は沈黙する。いつものように、ゲームを邪魔された怒りが込み上げてくることもない。『塔』購入から二週間、今となってはすっかり慣れ親しんだ音楽が酷く余所余所しい。開け放たれたドアから入ってくる空気が冷たい。
きょうだいの関係は転換点に差しかかっていた。両親がロンドンへ赴任することが決まったとき以来の、人生を左右しかねない重大な転換点に。
問い質した時点で、優勢なのは明らかに輝夜だ。常套手段である、声を荒らげて退場を迫る一手さえ打てない以上、効果的に攻められれば、反撃すらできないまま白旗を揚げさせる可能性すらあった。
しかし、輝夜は攻め方を誤った。己に圧倒的に有利な状況に有頂天になり、調子に乗ったためではない。「これが正しい」と無意識に信じ、盲目的に述べ立てた言葉の羅列、それが誤りだった。言うなれば、必然の敗北。
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