塔を目指す冒険

阿波野治

文字の大きさ
6 / 15

6

しおりを挟む
「ごはんを食べるくらい、ちゃんとしてよ。それも人並みにできないなんてことになったら、朔也、もう戻ってこられなくなるよ? お姉ちゃん、そんなの嫌だからね。なにがなんでも食べてもらうから」

 敗因は、余計な一言を言ってしまったこと。
 人並みにできないと、もう戻ってこられない――。
 コントローラーを床に叩きつけた。鈍い衝突音が鳴り、いくつかの軽量のごみが宙に躍った。輝夜は肩を竦め身を竦め、見開いた瞳で弟を見据える。憤怒に滾る双眸が視線を撥ね返す。無意識に強く噛み合わされた奥歯が軋る。

「……お前が」
 口にしかけていた言葉が止まる。二秒弱の間を挟んで継がれる。

「お前が邪魔をするから、いつまで経っても塔に上れないじゃないか!」
 今度は拳を床に叩きつけた。叫ぶ朔也の口から唾が飛ぶ。
「出て行けよ、邪魔者! 足手まとい! お前なんか――死んでしまえ!」

 瞬間、容器の底が抜けて中の液体が一気に流出するように、輝夜の顔から一切の表情が消え失せた。
 感情的に言葉を吐き散らした一秒前の過去も忘れて、朔也は息を呑んだ。原因は、発言のおぞましさを自覚したからなのか、姉が見せた表情の変化なのか、自分でも分からなかった。

 輝夜は回れ右をし、弟の視野からフレームアウトした。階段をゆっくりと下りる足音が遠ざかっていく。追いかけたい気持ちはあったが、朔也の両足は鋲でとめられたように動かない。
 数十秒にわたって立ち尽くしたのち、彼は散乱するごみを避けながらドアのところまで行き、閉めた。昼食のトレイは廊下に置いたままにした。食事をする気分ではなかったし、空腹でもなかった。



 ゲームの続きを始めたが、まったく身が入らない。
 なんでこんなに静かなのだろう、と思う。ゲーム音はうるさいくらいなのに、それ以上に外界の静寂が強烈な存在感を放っている。静けさの中に身を置く輝夜のことを否応にも意識してしまう。姉は物理的にもそうだが、それ以上に精神的に孤立し、追い詰められている気がしてならない。

 下に下りてみようか、と思い始める。
 料理は冷めていて食べる気がしないから、新しく作ってもらうことにした。言い分としてはそんなところだろうか。あるいは、正直に「謝りに来た」と言ってもいい。集中しきれないまま時間を消費するくらいなら、いつも通りを崩す方が心理的に楽だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...