秘密

阿波野治

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 湯から上がって部屋に戻ると、ただちに由佳に電話をかけた。

「由佳、今時間は大丈夫?」
「平気だよ。用件はなに? 住友みのり?」
「……超能力者かよ」
「声を聞けばわかるよ。遥斗は単純だから」

 なにもかもわかってくれる、この感じ。これも由佳に頼ってしまう要因の一つなのだろう。

「その住友さんだけど」
「言ったの? それとも言わなかった?」
「言ったよ。だけどね、住友さんの反応っていうのが――」

 僕のことならなんでも知っている由佳に、嘘は通用しない。苦い体験ではあったけど、包み隠さずに話した。

「遥斗、あんたアホなの?」
 話を聞きおえての第一声がそれだった。

「反論なしってことは、自覚はあるんだ。でも、具体的にどこがどうアホなのかは、アホだからわからないんでしょ、どうせ。ほんとアホだよね、遥斗は」
「マジでやめて。惨めすぎて泣きそうになるから……」
「わからないからあたしに泣きついてきたんだよね。僕はアホだから自力ではなに一つできないよー、秘密道具出してよー、って」

 言葉の選びかたは屈辱的だけど、指摘は的確だ。だから、なにも言い返せない。

「ま、アホはどう足掻いてもアホなままだから、アホアホ言ってもしょうがないよね。あたしの考えを言うと」
「うん」
「住友みのりは、みんなの前で言われたのが嫌だったんだよ。家庭の問題っていう推理は外れだったかもしれないけど、そっちの推理は絶対に正解。
 考えてもみて。休み時間に羽生田なんとかさんが声をかけたときと、放課後に遥斗が声をかけたときの共通点は、なに? 周りに他の生徒がいたことでしょ。
 そもそも、住友みのりは友だちに心配をかけたくないから、『悩みなんて抱えていない』って言い張ったわけだよね。
 そういう性格の人間に、他の人が聞いている前で言葉をかけても、『ご厚意痛み入ります。それでは、ありがたく相談させていただきます』とはならないから。なるはずがないから。言葉をかけた人間が善意でやったことだとしてもね」

 由佳の意見は百パーセント正しい、と僕は感じた。己の愚かさを思い知らされたようで、全身が熱くなる。

「汚名を返上する方法、教えてあげようか。住友みのりが一人きりのところを狙って、謝ればいいよ。みんなの前であんなことを言ってごめんね、声をかけるなら一人でいるときにするべきだったねって」
「でも住友さん、ずっと友だちといっしょにいるけど」
「そこは素直に『はい、わかりました』でしょ」
「いや、だって。チャンスがないのに、どうしようもないだろ」
「ゼロなんだったら、作ればいい。遥斗の創意工夫でね」
「創意工夫って、具体的にどうすればいいの?」
「それはあんたが考えるの。そこまで面倒見きれないって。保護者じゃあるまいし」
「それはまあ、そのとおりなんだけど」
「あたしにばかりに頼ってないで、たまには自分一人でがんばってみれば? あっ、でも、結果報告は怠らないでね。またねー」

 通話が切れた。
 僕は十秒ほど、スマホを耳に宛がったままの姿勢で固まって、ため息とともに右手を垂らした。
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