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「……なんだよ。そんな一方的な決定、おかしいだろ。勝手なこと、言うなよ。僕はまだ由佳にそばにいてほしいんだ!」
「おっ、珍しく熱くなってるね。でも、もらっておくのは気持ちだけにしておく。あたしの決意は揺るぎないから」
「違うだろ。『あんたがそこまで言うなら、やっぱりこれからもそばにいてあげる』とか、そういうセリフを返す場面だろ。由佳らしくないな」
「今日でもうおしまいなんだから、らしくなくて当然だよ。ほんとうのほんとうにおしまいだから」
「ふざけるな! もっとそばにいてくれよ。消えるなんて、僕の断りもなく決めるなよ。……なんで。なんでそう、消えたがるんだよ」
「理由なら言ったでしょ。役目はもう終わったからって。お人形遊びをいつまでも続けるのは異常だからって」
「僕が必要としているんだから、まだ役目は終わっていないだろ。ていうか、異常でもいいよ。世間からそう見なされる関係だとしても、僕は一向に構わない。ていうかさ、由佳のことは僕と由佳と住友さんの三人しか知らないんだから、三人だけの秘密にすればよくない? それじゃだめなの?」
「必要としているって言うけどね、遥斗、ちょっと冷静になって考えてみて」
「え?」
「だから、冷静に考えるの。あたしはもう一人の遥斗でしょう。そのあたしが別れを望んでいるということは、遥斗もあたしとの別れを望んでいるってこと。あたしとの関係に甘えて同じ場所に留まりつづけるんじゃなくて、前に進みたい。住友みのりとの関係をよりいっそう深めるにあたって、あたしの存在は邪魔になる。だらだらと関係を続けるくらいなら、きれいさっぱり決別して、新たな一歩を踏み出したい。それが遥斗の本音なの。消えてほしくない気持ちもあるけど、消えてほしい気持ちのほうが強い。それが真実なの」
なにも言えなかった。おそらくは、薄々自覚していたから。
邪魔というのはきつい表現だけど、ニュアンスとしてなに一つ間違っていないのだろう。
僕は前に進みたがっている。普通の道を歩みたがっている。
別れはつらいけど、その感情は決して弱くないけど、
でも、それが僕の正直な気持ちなのだ。
「あたし、軽やかに爽やかに消えたいって言ったよね」
陰りのない声で、どこか淡々と由佳は言う。
「それってつまり、遥斗もそう願っているということでしょ。だったら、そうしようよ。また明日ね、みたいな感じで、さらっと気持ちよく別れようよ。付き合いの長さを考えたらあっさりしすぎかもしれないけど、あたしたち二人が望んだ形なんだから、まあいいんじゃない?」
「ほんとうにお別れ、なんだね」
「おっ、やっと現実を受け入れる気になったね。偉い、偉い」
由佳が僕に対してよくやる褒めかただ。未熟者の遥斗にしてはよくやっている、よくやった。目頭がじわりと熱くなる。
「だらだら話してると長くなっちゃいそうだから、すぱっと終わろう。最後になにか一つ、あたしに言いたいことはある?」
なにか一つ、言いたいこと。
難しい問いにも思えたけど、問われてすぐに胸に浮かんできた一言があった。人間が突然、大切な人と永遠にお別れしなければならなくなったとき、相応しい言葉はきっとこれしかない。
「由佳、今までありがとう」
「こちらこそありがとう、遥斗」
その言葉を最後に、声が聞こえなくなった。というよりも、話し相手の気配が消失した。息を呑んで画面を見ると、通話は途切れている。
「もしもし? 由佳?」
一縷の奇跡にすがりつくように呼びかけたけど、返事はない。
こうして僕は由佳と別れた。
「おっ、珍しく熱くなってるね。でも、もらっておくのは気持ちだけにしておく。あたしの決意は揺るぎないから」
「違うだろ。『あんたがそこまで言うなら、やっぱりこれからもそばにいてあげる』とか、そういうセリフを返す場面だろ。由佳らしくないな」
「今日でもうおしまいなんだから、らしくなくて当然だよ。ほんとうのほんとうにおしまいだから」
「ふざけるな! もっとそばにいてくれよ。消えるなんて、僕の断りもなく決めるなよ。……なんで。なんでそう、消えたがるんだよ」
「理由なら言ったでしょ。役目はもう終わったからって。お人形遊びをいつまでも続けるのは異常だからって」
「僕が必要としているんだから、まだ役目は終わっていないだろ。ていうか、異常でもいいよ。世間からそう見なされる関係だとしても、僕は一向に構わない。ていうかさ、由佳のことは僕と由佳と住友さんの三人しか知らないんだから、三人だけの秘密にすればよくない? それじゃだめなの?」
「必要としているって言うけどね、遥斗、ちょっと冷静になって考えてみて」
「え?」
「だから、冷静に考えるの。あたしはもう一人の遥斗でしょう。そのあたしが別れを望んでいるということは、遥斗もあたしとの別れを望んでいるってこと。あたしとの関係に甘えて同じ場所に留まりつづけるんじゃなくて、前に進みたい。住友みのりとの関係をよりいっそう深めるにあたって、あたしの存在は邪魔になる。だらだらと関係を続けるくらいなら、きれいさっぱり決別して、新たな一歩を踏み出したい。それが遥斗の本音なの。消えてほしくない気持ちもあるけど、消えてほしい気持ちのほうが強い。それが真実なの」
なにも言えなかった。おそらくは、薄々自覚していたから。
邪魔というのはきつい表現だけど、ニュアンスとしてなに一つ間違っていないのだろう。
僕は前に進みたがっている。普通の道を歩みたがっている。
別れはつらいけど、その感情は決して弱くないけど、
でも、それが僕の正直な気持ちなのだ。
「あたし、軽やかに爽やかに消えたいって言ったよね」
陰りのない声で、どこか淡々と由佳は言う。
「それってつまり、遥斗もそう願っているということでしょ。だったら、そうしようよ。また明日ね、みたいな感じで、さらっと気持ちよく別れようよ。付き合いの長さを考えたらあっさりしすぎかもしれないけど、あたしたち二人が望んだ形なんだから、まあいいんじゃない?」
「ほんとうにお別れ、なんだね」
「おっ、やっと現実を受け入れる気になったね。偉い、偉い」
由佳が僕に対してよくやる褒めかただ。未熟者の遥斗にしてはよくやっている、よくやった。目頭がじわりと熱くなる。
「だらだら話してると長くなっちゃいそうだから、すぱっと終わろう。最後になにか一つ、あたしに言いたいことはある?」
なにか一つ、言いたいこと。
難しい問いにも思えたけど、問われてすぐに胸に浮かんできた一言があった。人間が突然、大切な人と永遠にお別れしなければならなくなったとき、相応しい言葉はきっとこれしかない。
「由佳、今までありがとう」
「こちらこそありがとう、遥斗」
その言葉を最後に、声が聞こえなくなった。というよりも、話し相手の気配が消失した。息を呑んで画面を見ると、通話は途切れている。
「もしもし? 由佳?」
一縷の奇跡にすがりつくように呼びかけたけど、返事はない。
こうして僕は由佳と別れた。
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