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口をつぐんで、足音を殺して通り過ぎよう。そう方針を固める。トモノリは作業に没頭しているようだから、その隙に。
真理愛の脳内では、LED電球が暗い光を放っている。電球は、トモノリとの距離がある程度縮まったのを境に明滅しはじめた。近づけば近づくほど、痙攣が走る間隔が縮まっていく。
彼女は昨日の夕食時、電球を一瞬にして明るいものに交換する魔法を願ったが――。
「その自転車、パンクしてるね」
透明感のある低い声に、真理愛のローファーの靴底は路面に吸いつけられて停止する。同時に、脳内で明滅していた電球が消えた。
心臓は破裂しそうなくらいに激しく拍動している。口腔の唾を飲み下すことさえできない。
ばれた。声をかけられた。トモノリに。素性が知れない、犯罪歴があると噂されている人物に。周囲には人家も人気もない場所で。
トモノリは自転車、真理愛の顔の順番に視線を注ぎ、
「前輪かな。押して歩くのも大変だっただろう。K中学校からだとすると、なかなかの距離を歩いたことになる」
顔は青白く、表情と呼べるものは浮かんでいない。二十歳と言っても通用しそうだし、五十歳と言われればそう見える、不思議な顔立ちだ。砂埃がかかっているのか、白髪が混じっているのか、丸刈りにした頭がところどころ銀色に輝いていて、それが奇妙な印象を強化している。
見つめられて、声をかけられても、真理愛はトモノリが怖いとは思わなかった。なにをしてくるかわからないという意味で緊張はあるが、攻撃的な雰囲気が皆無で、危害に加えてくる気配を感じないのだ。
「君がよければ、僕がパンクを修理してあげる。少しのあいだ、僕に自転車を預けてくれないかな。十五分もあれば済むと思う」
「え……」
「道具は揃っている。小屋の中にいろいろと置いてあるんだ。タイヤのパンク修理のための道具もね。僕のことが怖いなら、自転車だけこちらに渡して、君は少し離れた場所から見ているといい。もちろん、僕は君にも自転車にも損害を与えるつもりはないよ。どうしても怖いのなら、断ってくれても構わない。どちらを選ぶかは君の自由だ」
トモノリは抑揚をつけずに淡々としゃべる。信頼できる人物なのでは、とも思ったし、罠にかけようとしているのでは、とも疑った。真理愛はまたしても二者択一を突きつけられたのだ。
彼女は十数秒にわたって逡巡し、口腔にたまった唾を呑み下した。
そして、それを合図に、自転車とともにトモノリへ向かう。
真理愛の脳内では、LED電球が暗い光を放っている。電球は、トモノリとの距離がある程度縮まったのを境に明滅しはじめた。近づけば近づくほど、痙攣が走る間隔が縮まっていく。
彼女は昨日の夕食時、電球を一瞬にして明るいものに交換する魔法を願ったが――。
「その自転車、パンクしてるね」
透明感のある低い声に、真理愛のローファーの靴底は路面に吸いつけられて停止する。同時に、脳内で明滅していた電球が消えた。
心臓は破裂しそうなくらいに激しく拍動している。口腔の唾を飲み下すことさえできない。
ばれた。声をかけられた。トモノリに。素性が知れない、犯罪歴があると噂されている人物に。周囲には人家も人気もない場所で。
トモノリは自転車、真理愛の顔の順番に視線を注ぎ、
「前輪かな。押して歩くのも大変だっただろう。K中学校からだとすると、なかなかの距離を歩いたことになる」
顔は青白く、表情と呼べるものは浮かんでいない。二十歳と言っても通用しそうだし、五十歳と言われればそう見える、不思議な顔立ちだ。砂埃がかかっているのか、白髪が混じっているのか、丸刈りにした頭がところどころ銀色に輝いていて、それが奇妙な印象を強化している。
見つめられて、声をかけられても、真理愛はトモノリが怖いとは思わなかった。なにをしてくるかわからないという意味で緊張はあるが、攻撃的な雰囲気が皆無で、危害に加えてくる気配を感じないのだ。
「君がよければ、僕がパンクを修理してあげる。少しのあいだ、僕に自転車を預けてくれないかな。十五分もあれば済むと思う」
「え……」
「道具は揃っている。小屋の中にいろいろと置いてあるんだ。タイヤのパンク修理のための道具もね。僕のことが怖いなら、自転車だけこちらに渡して、君は少し離れた場所から見ているといい。もちろん、僕は君にも自転車にも損害を与えるつもりはないよ。どうしても怖いのなら、断ってくれても構わない。どちらを選ぶかは君の自由だ」
トモノリは抑揚をつけずに淡々としゃべる。信頼できる人物なのでは、とも思ったし、罠にかけようとしているのでは、とも疑った。真理愛はまたしても二者択一を突きつけられたのだ。
彼女は十数秒にわたって逡巡し、口腔にたまった唾を呑み下した。
そして、それを合図に、自転車とともにトモノリへ向かう。
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