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「ごめんね。湯田さんが後ろ通ってるの、話に夢中で気づかなかったよ。怪我はない?」
玲奈は上体を屈めて真理愛と目を合わせ、栗色の髪の毛を耳にかけながら謝罪した。さも申し訳なさそうに眉根を寄せるという、謝る側としては模範的な顔つきで。
真理愛が引きつった顔で「平気」と答えると、玲奈は表情を大きく緩めてみせ、友人たちとの会話に戻った。
神宮寺玲奈は感情表現にめりはりがある少女だ。言葉づかいは乱暴ではなく、他のグループの女子生徒や男子生徒とも良好な関係を維持している。一見、性格が明るくて心根が善良な、ごく普通の女子中学生。クラスメイトに対して常習的にいじめをするグループに属しているようにはとても見えない。
しかし実際の玲奈は、樹音の右腕、あるいは太鼓持ちのようなポジションにいる。
いくら仲間やその他の人間には愛想がよくても、真理愛の悪口はしっかりと言うという意味では、樹音のグループに属する他の女子と同じだ。さらには、腹に一物あって、邪な企みを隠蔽するためにあえて快活に振る舞っているような、そんな印象を受けることが真理愛は多々ある。
川真田樹音のグループの女子は全員大嫌いだが、樹音の次に嫌いなメンバーは誰かと問われたならば、真理愛は間髪を入れずに玲奈の名を挙げるだろう。
真理愛の心に決定的な影響を及ぼす出来事は放課後に起きた。
「ねえ、湯田」
手早く支度を整え、さあ帰ろうというときになって、真理愛に話しかけてきた女子生徒がいる。
「前々から思っていたんだけどさ、それ、かわいいよね」
川真田樹音だ。樹音がいるのは自分の机で、いつものメンバーも彼女のもとに集っている。
放課後に教室に居残り、無駄話に耽るのを樹音たちは習慣としている。そのおかげで、真理愛は帰宅の邪魔をされたことがめったにない。だからこそ虚を衝かれたし、動揺した。
「えっと、それ、というのは……」
「わからない? 鞄についてるやつだよ」
樹音が指差したのは、真理愛のスクールバッグについている小さなクマのぬいぐるみ。銀色の短いチェーンが背中から伸びていて、バッグの肩紐の付け根に結びつけてある。トースト色の体毛に、右耳を飾る真っ赤な花飾り。真理愛が小学生のとき、家族三人で遊びに行った遊園地でお土産として買ってもらったものだ。
樹音たちがぞろぞろと歩み寄ってくる。真理愛は身構えた。入学式のときからずっとつけているクマのぬいぐるみに、彼女たちはなぜこのタイミングで着目したのか。唐突すぎて、不可解で、嫌な予感しかしない。
玲奈は上体を屈めて真理愛と目を合わせ、栗色の髪の毛を耳にかけながら謝罪した。さも申し訳なさそうに眉根を寄せるという、謝る側としては模範的な顔つきで。
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神宮寺玲奈は感情表現にめりはりがある少女だ。言葉づかいは乱暴ではなく、他のグループの女子生徒や男子生徒とも良好な関係を維持している。一見、性格が明るくて心根が善良な、ごく普通の女子中学生。クラスメイトに対して常習的にいじめをするグループに属しているようにはとても見えない。
しかし実際の玲奈は、樹音の右腕、あるいは太鼓持ちのようなポジションにいる。
いくら仲間やその他の人間には愛想がよくても、真理愛の悪口はしっかりと言うという意味では、樹音のグループに属する他の女子と同じだ。さらには、腹に一物あって、邪な企みを隠蔽するためにあえて快活に振る舞っているような、そんな印象を受けることが真理愛は多々ある。
川真田樹音のグループの女子は全員大嫌いだが、樹音の次に嫌いなメンバーは誰かと問われたならば、真理愛は間髪を入れずに玲奈の名を挙げるだろう。
真理愛の心に決定的な影響を及ぼす出来事は放課後に起きた。
「ねえ、湯田」
手早く支度を整え、さあ帰ろうというときになって、真理愛に話しかけてきた女子生徒がいる。
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