鏖の季節

阿波野治

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 それに続けて、早口気味に説明する。

 樹音たちが女王様気どりで君臨する教室は、世界一居心地が悪い空間だ。自宅も安息できる場所とは言いがたい。仕事の愚痴ばかり言う父親。諦めきった母親。どちらとも好き好んでいっしょにいたいとは思わない。
 身を置いていて一番落ち着くのは、小屋の前の作業空間。過ごしていて一番楽しい相手は、トモノリだ。
 だから、来られなくなったら困る。近い将来に死ぬ予定のトモノリは困らないかもしれないが、真理愛は困る。確実に困ってしまう。
 居場所を奪わないでほしい。

「だから、トモノリ、また明日もあなたに会いに来てもいい? ご両親の遺産、まだ当分はあるよね? 自殺の意思をわたしに明かしたからといって、明日死ぬわけじゃないよね?」
 まるでおもちゃを買ってくれとせがむ幼児だ。そんな否定的な想いを抱きながらも、口からあふれ出す懇願の言葉を抑えられない。きっと泣き出しそうな、媚びたような顔をしているのだろう。そう思うと頬が熱くなったが、それでも一心にトモノリの目を見つめる。
 彼の表情に変化らしい変化は観測できない。しかし、まばたきをする回数を減らして話を聞いてくれている。

 居場所を失いたくないのか。トモノリに自殺してほしくないのか。あるいは、その両方か。
 たしかなのは、これから先もずっとずっと、トモノリと交流する機会を持ちたい、という想い。

 想いを吐き出し終えると、沈黙が二人を包んだ。
 真理愛は気恥ずかしかった。同時に、不安でもある。「会いに来てもいい?」の問いかけに、すぐには返事をしない。つまり、「もうここには来ないほうがいい」というトモノリの考えは変わらない……?

「あの、トモノリ……さん」
 二つの感情に耐えかねて、真理愛は予定になかった言葉を口にしていた。
「さっき、つい呼び捨てにしちゃったんですけど、これからはそちらの呼びかたでもいいですか? 敬語だって直していきたいし。わたしたち、性別も年齢も生い立ちも全然違うけど、でも、友だちですよね? だから、そのくらいの馴れ馴れしさは許されるのかな、なんて思ったんだけど」

 言葉は徐々に薄れ、消えた。
 返答はない。たしかに唐突ではあるが、返答するのに時間がかからないはず。気恥ずかしさは消えたが、不安は据え置きだ。のみならず、次第に高まっていく。
 我慢しきれなくなり、なんでもいいからしゃべろうとした。そのタイミングでトモノリはやっと口を開いた。

「呼びかたと言葉づかいの件は、君が望むとおりでいいよ。でも、友だちという認識はどうなんだろうね」
「えっ?」
「君を責めているんじゃなくて、僕が君の友だちに値するかは疑わしい、という意味だよ。でも――そうだね。君がそう思う分には自由だから、僕は余計なことを言ってしまったかな。ごめんね。今の発言は忘れて」

 そのあと、思い出したように、「明日以降もここに来てももちろん構わないよ」と付け足した。それで話はおしまいだった。
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