鏖の季節

阿波野治

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 衝撃だった。
 さびしい通りへと水色の自転車が消えたのを確認した時点で、「もしかして」という思いが湧いた。しかしまさか、それから十分もしないうちに、トモノリと肩を並べて会話する湯田真理愛を目撃することになるとは。

 無謀な尾行だという自覚はあった。なにせ隼人の通学手段は徒歩で、真理愛は自転車。彼女の後姿を視界に捉えるチャンスがあるのは、あとをつけはじめた直後くらい。ターゲットがことごとく赤信号に引っかかる幸運に恵まれたとしても、二・三分後には置き去りにされてしまうだろう。
 それでも隼人は計画を貫くことにした。神宮寺玲奈の悪意によってスカートの内側がさらけ出された一件は、彼を行動する人へと変身させたのだ。

 真理愛がトモノリの住まう小屋が建つ道を通ったのは、単に自宅までの近道だからだろうと考えた。彼女は転校生だ。トモノリの存在を知らないか、この町に長く住んでいる人間ほどトモノリに拒絶感を覚えていないからの選択なのだろう、と。
 ところが、小屋の前でなにやら話し込んでいる二人を目撃した。反射的に、近くにあった草むらに身を隠した。

 濃密な植物の匂いを嗅ぎながら、二人から目が離せなかった。心音が邪魔だった。目にする機会はめったにないが、噂にはよく聞く人物が活動している。それだけでも驚きなのに、想いを寄せる人と会話を交わしているなんて。やむを得ない理由なり事情なりがあって不承不承言葉を交わしているのではなく、ある種の信頼関係で結びつけられた者同士の会話に見えて、驚愕が冷めやらないうちから動揺してしまった。

 衝撃と驚愕と動揺の波状攻撃を食らったダメージは大きく、二人の様子を遠目からうかがうだけの時間が流れた。
 しかし、やがて、会話の詳細を把握したい欲求を無視できなくなった。

 草むらの中からでは二人の声は聞こえない。さりとて、自分から音源に近づく勇気はない。草むらから出た瞬間、たとえ葉擦れの音一つ立てなかったとしても、二つの首が同時に回って隼人を直視しそうな、そんな恐怖感があった。
 したがって、表情や身振り手振り、唇の動きなどから会話内容を推測するしかないのだが、木製の台が観察の邪魔をする。どちらの体も半分ほど隠れ、頭の位置が少し動いただけで表情が見えなくなる――そんな絶妙な位置に台は置かれているのだ。
 草むらは道に沿って数メートルにわたり続いている。その範囲内を移動しようかとも考えたが、動くことで盗み見がばれるかもしれない、という恐怖をどうしても消せない。もどかしい思いを噛みしめ、己の臆病さを呪いながら、その場で観察を継続するしかなかった。
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