鏖の季節

阿波野治

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「日曜日に二人で遊ばない?」
 真理愛は弁当箱から卵焼きを掴み出そうとしていた箸を止め、玲奈の顔を見つめた。見つめられたほうは、手にしているレタスとチーズのサンドウィッチを一口かじってから理由を説明する。

「放課後いっしょに帰るとか、こうしてお昼をいっしょに食べるとかはあるけど、どっちも短時間でしょ。だから一回、がっつり遊んでみたいなって。まりりんはどう思う?」
「遊びたい! むちゃくちゃ遊びたいよー、玲奈といっしょに」
 静かな興奮が全身を覆っている。性質と同じように静かに、徐々に高まっていく類の興奮だ。

 いっしょに遊ぶ。それができる関係こそが友だちだ、と真理愛は思う。
 休み時間に会話を交わすクラスメイトであれば、転校する前の中学校にもいた。玲奈と昼食をともにしたときも、下校をともにしたときも、うれしかったし心が昂ったが、交流を重ねていけば必然に体験できるイベントだという認識だった。
 しかし、「休日にいっしょに遊びに行く」は一味違う。大げさな表現を用いるなら、一線を越える行為だと感じる。

「玲奈、この町に遊べる場所ってどこがあるの? 引っ越してからあちこち遊びに行ったわけじゃないから、全然詳しくなくて」
「町内? 違う、違う。町を出るんだよ。この町にろくな商業施設なんてないから、街まで遠征するの。街というのはT市のことね。この町の中学生は、休日に出かけるときは必ずそうするよ。だから私たちもそうするの」

 町を出る。
 真理愛はその一言から、玲奈が伝えたかっただろう以上の意味を受けとった。可能ならば、話の続きをいったん待ってもらい、区切りがいいところまで考え込みたい気持ちですらあった。

 町を出る。
 トモノリと知り合う以前――家族への不満を募らせ、樹音たちからのいじめに心を陰らせるばかりだった暗黒時代――真理愛はその発想を一度たりとも抱かなかった。

「まりりんはS市出身だったよね。T市駅前にはあまり行かなかった感じ?」
「そうだね。一番発展しているのはT駅周辺だけど、S駅前もそれなりに充実しているから、それで満足しちゃって」
「まあ、距離の違いもあるしね。そういうことなら、いい感じのお店、私が紹介してあげるよ」
「ありがとう。楽しみにしてるね」
「ということは、オッケーなんだね。いっしょに遊んでくれるんだ」
「もちろん!」

 玲奈の表情が一段と明るくなった。
 その胸がときめくような愛らしさに、真理愛は思わず箸を放り出して両手で握手を求めた。玲奈は面食らったような表情の変化を見せたが、すぐに彼女らしい朗らかな笑顔を取り戻し、差し出された手を握りしめた。
 二人は見つめ合い、まずは玲奈が噴き出した。ツボに入ったのか、校庭の隅まで届きそうな声で笑うので、真理愛も釣られて笑ってしまった。

 はじめて、休日に友だちと遊びにいく。
 K町に引っ越してはじめて、K町の外に出る。
 ただ二人で遊んで「楽しかったね」だけではおさまらない、大きな収穫を得られる一日になりそうな予感がする。
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