鏖の季節

阿波野治

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 圧倒されながらも観察を進める中で、部屋の奥に二畳ほどの畳敷きになった領域が目にとまった。半分にあまりきれいとはいえない布団が敷かれ、もう半分にティッシュの箱や総菜パンの袋などの雑多な物品が置かれている。
 布団は無人だ。トモノリは男性としてはそう大きな体ではないが、掛け布団の内側に彼が隠れる余地は
ない。では他の場所に潜んでいないかと、棚を一段一段確認する。そのほとんどを工具、あるいは釘や螺子の類が占めていて、身を隠すのは物理的に難しそうだ。

 現在、小屋の中にトモノリはいない。そう判断するのが妥当な状況だ。
 では、どこに消えたのか。
 手がかりを探して周囲を見回したが、目にとまるようなものはない。強いて挙げるなら、空間のほぼ中央に置かれた木製の台、その上に並べられたいくつかの工具。そのほとんどが凶器としても使用可能な代物だというのが意味深だが、隼人が殺人が目的で小屋に乗り込んだからこそ、無作為な取り合わせに物騒な意味を見出しただけ、というのが真実なのだろう。

 ターゲットの不在という想定外の事態を受けて、隼人は計画の変更を余儀なくされた。
 待ち伏せしてみようか? 心躍る案ではあるが、トモノリが必ずしも今夜中に帰宅する保証はない。一・二時間くらいならば駄目元で待ってみてもいいと思ったが、
「……帰るか」
 照明を消して小屋を出た。

 トモノリが不在という肩透かしを食らった時点で、気持ちはかなり萎えていた。萎えた心で、帰ってこない敵を敵の本拠地内で待ちつづけるだけの気力は、とても捻出できないと隼人は判断したのだ。
 おあずけを食らったようで、腹立たしいし、もどかしい。しかし、今日のところは引き下がるしかない。
 二日連続で目的を果たせなかった精神的ダメージは、小屋から遠ざかれば遠ざかるほど膨んでいく。ただし、殺意は目に見えて萎むことなく健在だ。三度目の正直、という言葉もある。

 今日のところは帰ろう。寝よう。心身を休めよう。
 そして、明日こそ殺す。絶対に殺す。

 決意を新たにしてからしばらくのあいだ、隼人は重荷を下ろしたように軽い心でいられた。ただし、帰宅後、自室のベッドに体を横たえた直後、出し抜けに胸を過ぎった疑念には興奮せずにはいられなかった。
 あの男、まさかとは思うが、今ごろ俺のまりりんとセックスでもしているんじゃないだろうな?
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