鏖の季節

阿波野治

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 真理愛は犯行がばれる気がしなかった。
 埋葬は完璧ではなかったと思う。もちろんベストは尽くしたつもりだが、それでも完璧には達しなかっただろう。よく見れば、あるいはそう注意深く見ずとも、穴が掘られた箇所がわかるような、杜撰な仕上がりになっているはずだ。
 それでも、なぜだろう、ばれる気がしない。まったくしない。

 いくら孤独な変人といえども、長らく姿を見ないとなれば、行方を案じる人間が現れるはずだ。

 小屋を訪問したX氏はトモノリの不在を確認したあと、しばし途方に暮れたのちに外に出て、前方斜め右の地表に残る不自然な痕跡に気がつく。まるで穴を掘って元どおりに埋めたかのような痕跡を。
 トモノリは財産らしい財産を持っていない。一風変わった性格だが、孤独を好み、他人に極力迷惑をかけないように生きてきた。誰かに殺される理由なんて、ないのに。
 そう思いながらも、地中に埋まっているトモノリの変わり果てた姿を頭から追い払えない。
 壁に立てかけられたシャベルを見つけ、X氏は埋められた跡を掘り返してみる。深く、根気強く、掘り返してみる。
 そして、側頭部を陥没させ、ナイフを胸に突き刺したトモノリを発見する。

 今後、現実世界でそのような展開となる可能性はある。
 しかし、それでもやはり、犯行がばれるとは思えない。トモノリは孤独な人間だから、X氏のような存在がそもそも現れるはずがないと、腹の底では高を括っているからではなくて。

 この不自然なまでの自信はなんなのだろう?
 心がかつてないほど昂っている。今夜は一睡もできそうにない。人を殴って、刺して、埋めて。心も体も死ぬほど疲れているのに。明日はまた人を殺さなければならないのに。

 明日は川真田樹音の家に泊まりに行く日だ。ためにためた憎悪と殺意を解き放ち、復讐を成就させる記念日。鏖の決行日だ。
 今の自分ならなんだってできる気がする。総勢六名のいじめっ子を一人残らず殺すなど、緩慢に地を這う虫を踏みつぶすようなものだ。ナイフの柄を握るまでの児戯に付き合うのがいささか煩わしいが、所詮は足を高く持ち上げるのが億劫なだけ。乗り越えること自体に失敗するとは思えない。

 こんな気持ちになれたのも、彼を殺したことで度胸がついたからだ。
 彼は最後の最後に、友だちである真理愛に最高のプレゼントを贈ってくれたのだ。

「――殺そう。鏖にしよう」
 樹音たち六人を。死んでしまった友だちであるトモノリのためにも。
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