鏖の季節

阿波野治

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 雑草を踏みしめ、枝葉を押しのけながら、真理愛は道に出た。
 おもむろに、右手に提げていたものを放り投げる。

 突如として、円盤状の刃がうなりを上げて回転した。ガラスが破砕する音が響き、砂があふれ出す。緩やかに四方に広がる流砂はほどなく動きを止め、薄れ、「青春」の二字がしたためられた書道作品の数々へと姿を変える。それらはサツキツツジの花弁のようにいっせいに舞い落ち、音もなく床に貼りつく。すべて裏面を上にしているが、一枚だけ表を上に向けている。その一枚に焦点を定めた瞬間、幻視は跡形もなく消滅した。

 真理愛の視界の中央に映し出されているのは、仰向けに路面に転がった隼人の生首。
 虚ろな二つの瞳は限界近くまで見開かれ、夜空を仰いでいる。口は不満を訴えようとするかのように歪に開いている。顔や髪の毛は血で赤黒く汚れている。

『嫌だ。俺はまりりんといっしょに生きたい。どうして死にたいと思うの? 理由を教えて。簡単に諦めないで、二人で協力して解決策を探そうよ。だって、俺たちは恋人同士でしょ? 友だち以上の関係でしょ?』
 それが「心中がしたいから、先に死んで」に対する隼人の返答だった。

 真理愛は作り笑いを浮かべ、包丁を渡すよう手振りで促した。意思を翻し、隼人とともに生きる決心がついたと解釈したのだろう。彼は表情を明るくさせて凶器を手渡した。とたんに真理愛は笑顔を引っ込め、包丁の刃でクラスメイトの心臓を貫いた。それが森嶋隼人の最期だった。
 隼人を刺殺したのは、真理愛の言うことを聞かなかったからだ。そんな人間、恋人はもちろん、友だちにすらなれるはずがない。だから、殺した。

 殺害後、隼人のあとを追って死のう、という気分にはならなかった。彼が失望させるような返答をしたために、心中のパートナーから降格したのではない。真理愛は最初から死にたくなかったし、隼人が運命をともにするのにふさわしい相手だと見なしてもいなかった。

 真理愛はどこまでも一人で生きたかった。
 本当は、友だちなんて欲しくなかった。
 いじめっ子に復讐するよりも、平穏がほしい――。
 わたしは、一人きりでも構わないから、平穏に生きたかっただけなのだ。それを阻害する人間がいれば、殺してでも平穏を手に入れようとする、それがわたしという人間なのだ。
 湯田真理愛は、なんてさびしい人間なのだろう。

 たまらない気持ちになり、隼人の遺体を包丁でめった刺しにした。すぐに息が切れ、我に返り、落ち着けと自分に言い聞かせた。なぜかは自分でも説明できないが、感情的になるのは避けたほうがいいと思った。心を落ち着かせるには単純作業がいいということで、隼人の頭部を切り離しにかかった。
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