幻影の終焉

阿波野治

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眠りに就く前に

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「君がチョコに針を刺した翌日――」

 静かに送り出した声が闇を微かに震わせた。僕は掛け布団と敷き布団との間で仰向けになり、天井の一点を凝視している。

「『エンブリオ』で君と再会した時、君の服装に苦言を呈しただろう。何であんなことをしたのか、ずっと疑問に思っていたんだけど、やっと謎が解けたよ」

 隣を窺うと、『戦争の足音』は目を瞑っていた。微笑し、顔を天井へと戻す。

「僕は、嫉妬したんだ」
「嫉妬? 誰に?」

 眠たげな声で『戦争の足音』が訊く。

「これまでに君が出会った全ての男に、だよ。君はいつも、上は白のタンクトップ一枚で出歩いているんだろう? 乳暈が透けているのもお構いなしに。それを発見した男は、君の胸をまじまじと見つめて、目に焼きつけて、後々その映像を思い返して楽しむ。僕はそれが我慢ならなかったんだ」
「あなたも、わたしの透けた乳暈を見て楽しんだの?」
「ご想像にお任せするよ」
「透けて見えた乳暈で楽しめるなら、半裸で樹の枝に縛られている姿なんて、とても刺激的だったんじゃない?」
「刺激的だったといえば刺激的だったけど、それよりも僕は――」
「気になる? どうしてわたしがあんな目に遭ったか」
「うん、気になる。でも、訊いたらきっと怒るよね。干渉するな、とか何とか言って。それとも、話してくれる?」

 再び隣を向くと、『戦争の足音』は僕に顔を向けていた。とろけたような目をしている。

「した後で説明するつもりだったんだけど、今日のところはもう寝かせて。何だか、とても眠くて」

 瞼を閉ざし、僕に顔を寄せてくるそれに応じて僕も顔を近づけ、唇を唇に軽く触れさせた。掛け布団の下の右手を右の乳房へ伸ばし、大きくも小さくもないそれを覆うように掌を載せる。伝わってくる温もりが優しい。
『戦争の足音』は掛け布団を顎まで引き上げる。その手を布団の下に潜らせ、右乳房の上に置かれた右手に重ねる。

「ねえ」

 さあ眠ろうかと、瞼を閉じようとした僕を、『戦争の足音』の声が引き留めた。

「どうかした?」
「どうでもいいことかもしれないけど、少し気になったから質問させて。あなたにとって、今夜が初めてのセックス?」
「ああ。そうだよ。女の人のあそこに性器を入れたっていう意味なら、今夜が初めて」
「……そう」

 一言呟いたのを最後に、『戦争の足音』は唇を閉ざした。僕は今度こそ瞼を下ろした。
 まあ、される方なら、一度経験があるのだけど。
 中学一年生の時に、保健体育の教科担任から、無理矢理。
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