切言屋

阿波野治

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図書館の天啓②

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 図書館に向かう時間帯は週によってまちまちだが、今日はのどかの希望に沿い、朝食を終えて一時間もしないうちに家を出た。自分の心が、よく言えば前向きに、意地悪な表現を使うならば前のめりになっているからこその早い出発だ。
 車窓から朝陽が射し込む市バスの車内は、乗客はそう多くなく、居眠りをしたくなるような弛緩した空気に満たされている。

 最後列の席に陣取った武元親子は静かに言葉を交わす。
 昨日のどかが購入した『サンクチュアリ』の感想から始まり、今日図書館で借りたい本について語ったのに続いて、美咲とのどかの対話の模様に話が飛んだ。流れに身を任せた結果その話題に移行したというよりも、飛躍したという印象だ。
 美咲との対話の結果は逐一報告させていたが、第一回から直近の回までについて改めて聞くという形をとる。

「面倒くさいかもしれないけど、くり返し聞けば見えてくるものがあるかもしれないからね。迷惑かけてごめんだけど、依頼を成功させるため、お金を得るためだと思って、ね?」

 そんな草太朗の言葉に、のどかはうんざりした表情で黙り込んだが、すぐに気を取り直して話しはじめた。
 移動中で他にやることもないから話す気になったのか。気乗りはしないが、仕事に協力するのは義務のようなものだから仕方ない、という諦念が原動力なのか。無表情に近い顔から内心は読みとれない。
 淡々とした口ぶりでののどかの報告は、細かな言い回しまで、前回の報告とまったく同じのように草太朗には感じられた。新しい発見は特になかった。

 血の繋がりがある女親とでさえ筆談で最小限の会話しか交わしてこなかった美咲が、赤の他人ののどかと会話できたのは、冷静に考えてみれば奇妙だし、驚くべきことだ。
 そんな思いが今さらのように湧いた。

 美咲にとって母親以外で初となる筆談を交わす相手が、武元のどかである必然性はあったのだろうか?
 それとも、会話の意欲が復活したところにコンタクトをとったのがたまたまのどかだっただけ?
 たとえば、草太朗がのどかとは年齢も性格もまるで違う女性を臨時に雇用して説得にあたらせたとして、美咲はその女性相手にも口をきくだろうか?

 最後の疑問に対して、草太朗は自信を持って肯定も否定もできないが、どちらかと言えば後者が正しいのではないかと考える。
 のどかは自分から余計な発言をせず、人の話は黙って聞くから、聞き役としては非常に有能だ。のどかに話しやすい雰囲気を感じたからこそ、美咲は殻の中から顔を出した。その可能性が高い気がする。
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