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ソラ
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しおりを挟む彼は言葉通り、翌日も図書館に訪れた。
何ならこの一週間毎日来ている。
配架をしている俺の後ろから「愛してるよ」と囁いてきたり、返してきた本の裏面に「私の恋人になって欲しい」と書いたメモを貼り付けてきたり。
そのアプローチは人知れず、俺だけが燃えあがる熱烈なものだった。
「最近あの騎士様良く来るな」
カイトが隣から耳打ちをしてきた。
彼はただ本当にそう思っているだけだろう。勘繰ってないことなど分かるのに、俺は変に動揺してしまった。
「こ、ここが気に入っただけだろ。別に目的とかはないと思う」
「はあ? 何の話だよ?」
「あ、いや、何でもない。忘れろ」
俺は何をしているのだろうか。
そもそも俺にアプローチをする為に図書館に来ているという考え自体自惚れなのではないか。
恥ずかしさと惨めさで消えてしまいたい。
「すみません、この本を探しているんですけど…」
「ああ、少々お待ちください」
頭を抱えそうになったけれど、声をかけて来てくれた少年のお陰で、仕事に意識を戻せそうだ。
内心で感謝しながら、案内を全うすることにした。
それにしても綺麗な子だと、少年の顔を見遣りながら思う。
キサキから男らしさをなくしたら、こんな感じになりそうだ。体の線も、髪の毛の一本一本も全てが細い。
「ありがとうございます、助かりました」
「いえ、またいつでも声をかけてください」
ふわっと微笑んだ顔が儚くて、眩しい。キサキと同様凄まじい美貌の持ち主だ。
だけど、キサキに初めて会った時のような、唯一無二の衝撃は感じなかった。
ダメだ、このままでは、認めざるを得なくなる。
「ダメだ…」
「何がですか?」
「!」
驚いて肩が跳ねた。
キサキが読めない表情でこちらを見下ろしている。
「まだいらっしゃったんですね」
「何故です? 何か不都合でも?」
「いや、もう既に帰ったのかと…」
そうですか、と言ったきり、キサキは微動だにしなくなった。
それを恐ろしく感じて一歩後ずさろうとしたら、腕を物凄い勢いで掴まれた。
「?! キサキ…っ」
「すみません、私は思っていたより嫉妬深いようだ」
引っ張られて、彼の腕の中に閉じ込められる。
甘い香りと、厚い胸板から感じる早い脈動にクラクラした。
「付き合ってください…お願いですから」
縋るような声に胸が苦しくなる。結局俺もとっくに落ちていたのだ、気持ちに応えた途端夢が覚めてしまったら怖いから。
「…俺でいいんですか」
返事はなかった。代わりにますます強く抱きしめられた。
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