沈むカタルシス

A奈

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ソラ

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 想いが通じ合ってから三日が経過したけれど、思っていた以上に幸せだった。

「ああ、ソラ。今日も可愛い」
 
 彼が泊まっている宿の前で、早朝に逢瀬を重ねている。
 会う度にそう言ってぎゅっと抱きついてくるキサキが愛おしい。
 俺より歳上の人なのにこんな可愛く思うなんて。

「可愛くないですよ、俺なんか」
「なんかじゃない。俺にとっては世界一だよ」

 キサキは敬語をやめ、一人称も「私」から「俺」になった。
 その方が距離が縮まった気がして凄く嬉しかった。俺の冴えない人生にこんな幸運が訪れるとは。

「今日も図書館に来るんですか?」
「うん、丁度読みたい本もあるし。ソラにも会えるから」

 ソラが仕事中、眼鏡をかけているところを見るのが好きなんだ。とキサキはそう教えてくれた。
 恋人との甘いやりとりを自分が経験する日が来るなんて思わなかったから、未だに夢じゃないかと疑っている。

 
 だけど、幸せは長く続かなかった。





「え、王都に?」
「戻ることになってしまったんだ。もう気軽には会えなくなる」

 気分が落ち込む反面、仕方ないよなと納得した。

 彼は騎士団の人間なのだ。ずっとここにいるわけにはいかない。

「そっか…」

 でもどうしても弱々しい声しか出ない。
 ここから王都はずっと遠いし、大好きなキサキの声も聞けなくなる。ぎゅっと服を握りしめていた手を取られて、キスされた。

「手紙送るから。俺のこと待ってて欲しい」

 その声は切実だった。

 彼の誠実さを感じて、俺はうん、と頷いた。


 出発の日、馬車から手を振ってくる彼を見て泣きそうになった。
 信じてないわけじゃないけれど、王都に帰ったら俺よりもずっと魅力的な人にアプローチされて、俺のことなんて忘れてしまうんじゃないだろうか。






「どうした? 元気ないなあ」

 カイトが俺の顔を覗き込んできた。
 まさか理由なんて言えるはずもないから「ちょっとな」と返して適当にあしらった。

「あ、そうだ。今週の土曜町にいかないか?」
「町?」

 ここから少し離れた場所にある町はこことは違ってそこそこ栄えている。
 週末には買い出しに行くことが多い。

「そ。この前美味しいレストラン見つけたんだ。お前も行こうぜ」

 カイトなりに俺を元気づけようとしてくれているのが伝わって、自然と笑顔になった。
 お誘いは勿論受け入れた。気分転換も必要だと思ったから。



 でも、それが絶望の引き金になるなんて思わないだろ?









 
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