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Extra Side Episode-005 その眼が見据えるもの
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迷宮編――の前に、一呼吸置いて。
********************************************
ツグナがリリアとシルヴィと再会を果たした数日後。リアベルの中心からほど近くにある大きな建物の中でその声は聞こえてきた――。
「……あ゛ぁ!? 何だと?」
肘掛イスに腰を下ろしていた男は近くにいた女性からもたらされた報告を耳にした瞬間、眉を上げつつ声を荒げていた。
赤と銀の刺々しい鎧が奏でる音が時折部屋に響き渡る。そんな金属音の甲高い音男の心情を象徴しているようでもあった。肘掛イスに座るこの男の名前はリベリオス=カリギュラスという。ここはリベリオスの拠点であるレギオン――「炎熱の覇者」のホームの一室である。リベリオスはギルドからの指名依頼を終え、つい先ほどリアベルの街へと帰還を果たしたばかりであった。
久々の遠出を伴うギルドからの指名依頼。ようやく依頼を達成し、ホームであるこの町へとやってきた彼にもたらされたのは、「ウチのレギオンに所属する者が、ギルドに登録したての新人の子供に負けた」という溜まった疲れも吹き飛ぶような驚くべき報告だった。
そして思わず口に出してしまったのが先ほどのセリフである。
燃えるような紅く短い髪に、獰猛さを秘める金色の眼。年齢は既に40歳近くになろうとしているが、その若々しい肉体と精悍な顔つきは20代後半と見間違えても無理はないほどの美しさを持っている。男性としては整った顔立ちにも拘らず、垣間見られる発言や行動はどこか「頼れる兄貴分」としての印象が強い。女性だけではなく男性からも一定の支持を受けているこのリベリオス=カリギュラスこそ、大型レギオン「炎熱の覇者」のレギオンマスターである。
「――それで? ウチのモンがその新人に負けたってのは、具体的にどんな感じでだ?」
リベリオスの口調からは怒りや恨みといったものは感じられない。むしろ、興味深々といった体で報告を行った近くの仲間に問いかけている。
「それが……。相手はまだ幼い子供らしく、二刀の短剣を用いての圧倒的な勝利だった、と」
「子供ねぇ……」
「えぇ。特徴は黒髪黒眼、名前は『ツグナ』と呼ばれている少年ですね」
恐る恐るといった様子で話す仲間をリベリオスは一瞥すると、ぽつりと呟きながら背もたれに身を預けた。ギシリと悲鳴を上げるイスを無視して、ただ頭の中で思索を巡らせていく。そんなリベリオスの思考を中断させるように、追加の情報がもたらされた。
「これはギルド側にも確認をとったのですが……。彼の少年の主武器は刀。また、先の決闘で魔法を使ったところは確認されていません」
「はぁ!? メインの武器が刀だと? おいおい、それはつまり『本調子じゃ無かった』ってことじゃねぇか……。いつからウチのレギオンは軟弱者の集まりになってんだよ。確か、相手したのは――」
「はい。リュック=タグラスです。彼は最近ギルドランクがC-となりましたね」
間髪いれずに答えたのはリベリオスの傍に立っていた青年――フォルグス=リェロンだ。彼がこのレギオンのサブマスとして実質的な組織運営を行っている。
リベリオスが依頼でこの街を離れていた間にレギオンを仕切っていたのも、このフォルグスという若い青年であった。
静かに告げるフォルグスとは対照的に、リベリオスは鼻で笑いながら、むしろ吐き捨てるように言葉を紡ぐ。
「C-に格上げになって浮かれてたってのか? 俺は弱い奴には興味がねぇな」
ため息をつきたい気分の代わりに、そんなことを言いつつリベリオスはギロリと鋭い視線を近くにいたサブマスへと投げた。
言葉では平静を装っているように見えつつも、その含む視線は若干の怒りが込められている。彼の性格を心得ているのか、「申し訳ありません」と頭を下げるフォルグス。
(刀を使う新人のガキ、か……。面白ぇ……)
まぁいいと気持ちを切り替え、リベリオスはその『ツグナ』という少年のことを思い浮かべた。相手の持つ得物、動き、スキル――そうした具体的な場面を脳裏に描くにつれ、彼の口元が緩んだものと変化していった。リベリオスがマスターを務めるこのレギオンは「実力主義」を第一に掲げるレギオンとして有名だ。確かにレギオンに所属することは自由ではある。だが、実際には当人の持つ実力がものを言う風土がこのレギオンの特徴であり強みである。
事実、高難度の依頼を達成している割合は「炎熱の覇者」が多くを占めている。そしてメンバーの入れ替わりが激しいという現実も。
ただしマスターであるリベリオス自身強い者にしか興味がなく、弱い者は所属したところで周囲の者たちに淘汰されて行くだけというのが本音のところなのだが。
「それで? そのガキは?」
リベリオスはちらりと視線を隣に立つフォルグスへと向ける。その問いを受け、フォルグスは口を開いた。
「現在はこの街を離れているようですね。また、その際――」
「何だ?」
言い淀むフォルグスに「つべこべ言わずにさっさと話せ」と目線で促すリベリオス。「やれやれ」とどこか諦めにも似たため息をこっそりと吐きながら、フォルグスは先を話した。
「その際『紫銀の魔術師』の姿も一緒だった、と」
報告を受けたリベリオスはゲラゲラと大声を上げて笑っていた。と同時に謎が一気に氷解する感覚とツグナに対する関心が大きくなっていく。
「なるほど。あの『紫銀』とつながりがある小僧か……。いいねぇ。ますます面白い」
ふつふつとリベリオスの内に湧き上がるのは興味と好奇心であった。あの紫銀と繋がりがあるのなら、強いことも一応の納得がいく。そして、そんな子供と一戦交えられたらどれほど面白いかとも思えてくるのだった。
「これならもっと早く帰ってくるべきだったな」
「そう言うと思いましたよ」
フォルグスの言葉を受け流しつつ、若干の悔しさを滲ませたリベリオス。彼が目を移した先には、自身の『相棒』とも呼べる幅広く豪壮な赤を基調とした両手剣が映っていた。この剣の銘は『カリガナティオ』という、リベリオスと並んでこのレギオンにとって象徴とも言うべき剣であった。
(この剣と打ち合えたら、どんだけ面白いだろうな……)
リベリオスは相手が子供ということを忘れ、ただただ自分と戦いを交えた時の光景を脳裏に思い描いて行く。口の端を持ち上げてかすかに笑う彼の金色の瞳には、激烈なまでの好戦的な色が宿っていた――。
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ツグナがリリアとシルヴィと再会を果たした数日後。リアベルの中心からほど近くにある大きな建物の中でその声は聞こえてきた――。
「……あ゛ぁ!? 何だと?」
肘掛イスに腰を下ろしていた男は近くにいた女性からもたらされた報告を耳にした瞬間、眉を上げつつ声を荒げていた。
赤と銀の刺々しい鎧が奏でる音が時折部屋に響き渡る。そんな金属音の甲高い音男の心情を象徴しているようでもあった。肘掛イスに座るこの男の名前はリベリオス=カリギュラスという。ここはリベリオスの拠点であるレギオン――「炎熱の覇者」のホームの一室である。リベリオスはギルドからの指名依頼を終え、つい先ほどリアベルの街へと帰還を果たしたばかりであった。
久々の遠出を伴うギルドからの指名依頼。ようやく依頼を達成し、ホームであるこの町へとやってきた彼にもたらされたのは、「ウチのレギオンに所属する者が、ギルドに登録したての新人の子供に負けた」という溜まった疲れも吹き飛ぶような驚くべき報告だった。
そして思わず口に出してしまったのが先ほどのセリフである。
燃えるような紅く短い髪に、獰猛さを秘める金色の眼。年齢は既に40歳近くになろうとしているが、その若々しい肉体と精悍な顔つきは20代後半と見間違えても無理はないほどの美しさを持っている。男性としては整った顔立ちにも拘らず、垣間見られる発言や行動はどこか「頼れる兄貴分」としての印象が強い。女性だけではなく男性からも一定の支持を受けているこのリベリオス=カリギュラスこそ、大型レギオン「炎熱の覇者」のレギオンマスターである。
「――それで? ウチのモンがその新人に負けたってのは、具体的にどんな感じでだ?」
リベリオスの口調からは怒りや恨みといったものは感じられない。むしろ、興味深々といった体で報告を行った近くの仲間に問いかけている。
「それが……。相手はまだ幼い子供らしく、二刀の短剣を用いての圧倒的な勝利だった、と」
「子供ねぇ……」
「えぇ。特徴は黒髪黒眼、名前は『ツグナ』と呼ばれている少年ですね」
恐る恐るといった様子で話す仲間をリベリオスは一瞥すると、ぽつりと呟きながら背もたれに身を預けた。ギシリと悲鳴を上げるイスを無視して、ただ頭の中で思索を巡らせていく。そんなリベリオスの思考を中断させるように、追加の情報がもたらされた。
「これはギルド側にも確認をとったのですが……。彼の少年の主武器は刀。また、先の決闘で魔法を使ったところは確認されていません」
「はぁ!? メインの武器が刀だと? おいおい、それはつまり『本調子じゃ無かった』ってことじゃねぇか……。いつからウチのレギオンは軟弱者の集まりになってんだよ。確か、相手したのは――」
「はい。リュック=タグラスです。彼は最近ギルドランクがC-となりましたね」
間髪いれずに答えたのはリベリオスの傍に立っていた青年――フォルグス=リェロンだ。彼がこのレギオンのサブマスとして実質的な組織運営を行っている。
リベリオスが依頼でこの街を離れていた間にレギオンを仕切っていたのも、このフォルグスという若い青年であった。
静かに告げるフォルグスとは対照的に、リベリオスは鼻で笑いながら、むしろ吐き捨てるように言葉を紡ぐ。
「C-に格上げになって浮かれてたってのか? 俺は弱い奴には興味がねぇな」
ため息をつきたい気分の代わりに、そんなことを言いつつリベリオスはギロリと鋭い視線を近くにいたサブマスへと投げた。
言葉では平静を装っているように見えつつも、その含む視線は若干の怒りが込められている。彼の性格を心得ているのか、「申し訳ありません」と頭を下げるフォルグス。
(刀を使う新人のガキ、か……。面白ぇ……)
まぁいいと気持ちを切り替え、リベリオスはその『ツグナ』という少年のことを思い浮かべた。相手の持つ得物、動き、スキル――そうした具体的な場面を脳裏に描くにつれ、彼の口元が緩んだものと変化していった。リベリオスがマスターを務めるこのレギオンは「実力主義」を第一に掲げるレギオンとして有名だ。確かにレギオンに所属することは自由ではある。だが、実際には当人の持つ実力がものを言う風土がこのレギオンの特徴であり強みである。
事実、高難度の依頼を達成している割合は「炎熱の覇者」が多くを占めている。そしてメンバーの入れ替わりが激しいという現実も。
ただしマスターであるリベリオス自身強い者にしか興味がなく、弱い者は所属したところで周囲の者たちに淘汰されて行くだけというのが本音のところなのだが。
「それで? そのガキは?」
リベリオスはちらりと視線を隣に立つフォルグスへと向ける。その問いを受け、フォルグスは口を開いた。
「現在はこの街を離れているようですね。また、その際――」
「何だ?」
言い淀むフォルグスに「つべこべ言わずにさっさと話せ」と目線で促すリベリオス。「やれやれ」とどこか諦めにも似たため息をこっそりと吐きながら、フォルグスは先を話した。
「その際『紫銀の魔術師』の姿も一緒だった、と」
報告を受けたリベリオスはゲラゲラと大声を上げて笑っていた。と同時に謎が一気に氷解する感覚とツグナに対する関心が大きくなっていく。
「なるほど。あの『紫銀』とつながりがある小僧か……。いいねぇ。ますます面白い」
ふつふつとリベリオスの内に湧き上がるのは興味と好奇心であった。あの紫銀と繋がりがあるのなら、強いことも一応の納得がいく。そして、そんな子供と一戦交えられたらどれほど面白いかとも思えてくるのだった。
「これならもっと早く帰ってくるべきだったな」
「そう言うと思いましたよ」
フォルグスの言葉を受け流しつつ、若干の悔しさを滲ませたリベリオス。彼が目を移した先には、自身の『相棒』とも呼べる幅広く豪壮な赤を基調とした両手剣が映っていた。この剣の銘は『カリガナティオ』という、リベリオスと並んでこのレギオンにとって象徴とも言うべき剣であった。
(この剣と打ち合えたら、どんだけ面白いだろうな……)
リベリオスは相手が子供ということを忘れ、ただただ自分と戦いを交えた時の光景を脳裏に思い描いて行く。口の端を持ち上げてかすかに笑う彼の金色の瞳には、激烈なまでの好戦的な色が宿っていた――。
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