【1】胃の中の君彦【完結】

羊夜千尋

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変化

第十三話 変化4

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「あ、えみちゃん!」
「こないだはイラストの授業の時、絵具貸してくれてサンキューな」
「いいよ、あれくらい」
「これ、お礼のチョコ。昨日渡しそびれたから」
「ありがとう~! これ、もしかして最近天王寺に出来たお店のミルクチョコじゃない?」
「よく知ってんなぁ。そうなんだよ。TVで観て、ワタシも食べたかったんだよね。今、まだ一人一個までの購入制限かけられてるからさ、駿河連れてって買った」
「まったく、あの日は二時間も並ばされるとは思いませんでしたよ」
 後ろからやってきたのは駿河である。暑いのか紺色のポロシャツの裾を小さく持ち、パタパタと動かしている。
「駿河くんもありがとうね」
「いえいえ。佐野さんも絵具貸してくださってありがとうございます。忘れ物する桂さんが悪いというのに」
「ワタシが毎日忘れ物してるような言い方はいかんぞ、駿河」
「忘れ物常習犯の人が何を言うんですか」
「前よりは回数減ってんだからな」
 駿河は大きく息を吐いてから、
「神楽小路くん、すいませんね。騒がしくて」
 基本的におだやかで柔和な佐野や駿河とは違う、勢いと強さのある人間との遭遇をした神楽小路は黙って見ている。
「そうか。神楽小路とはまだ話したことなかったよな。どうも、同じ学科の桂咲だ。名前順だとオマエの後ろだ」
「ほぉ」
「その顔だと後ろにワタシがいることも知らねぇって感じだな」
「そうだな、初めて見る顔だ」
「本当に神楽小路って人に興味なさそうだな」
「あながち間違いではない」
 神楽小路がそう答えると、桂の表情が硬くなった。
「興味ねぇっていうのは勝手だが、真綾のこと泣かすなよ」
 神楽小路が口を開く前に、駿河と佐野が慌てる。
「はいはい、その辺にしておきましょうか」
「咲ちゃん、本当に昨日のことはわたしが勝手に泣いてただけだから! ね!」
 猛獣のような扱いの桂をよそに、
「俺は教室へ向かう」
 と神楽小路が荷物を手に立ち上がる。
「ったく、マイペースなやつだな」
「神楽小路くんと僕は次の授業が同じなので」
「真綾はワタシと同じイラストの授業だからな」
「一緒に行こうね」
 先に駿河と桂が会計をしている間、佐野は神楽小路の肩を軽くたたいた。
「あの、これ」
 くまのイラストが描かれたビニールの包みを神楽小路に渡す。
「昨日借りたハンカチ」
「ああ。早いな」
「帰ってすぐに洗ってアイロンもかけたよ。ありがとうね」
「うむ」
 かわいいラッピングを物珍しそうに四方八方から観察していると、佐野が意を決したように「あのね」と切りだす。
「昨日は急に泣いたり、ネガティブなことばかりでごめんね。神楽小路くんが褒めてくれた『思いの強さ』を持ち続けて、もっと良い文章書けるように頑張る」
「へこんでないとは思っていたが、佐野真綾、お前は強靭だな」
「褒めてくれてる?」
「俺なりに」
 そう言うと、佐野は晴れやかな笑顔を見せた。
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