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七夕週間
第十五話 七夕週間1
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七月一日。いつも通り大学に到着すると、神楽小路は異様な光景を目撃した。男女ともに浴衣を着ている。かといって、全員浴衣姿というわけではなく、普段通りの格好の者もいる。首をかしげていると、
「おはようございます、神楽小路くん」
と声をかけてきたのは駿河総一郎であった。彼も普段と変わらないカジュアルな服装だった。
「駿河総一郎、今日は祭りか何かなのか?」
「あぁ、七夕週間ですよ」
「七夕週間?」
「ちょうどあそこにポスターがありますよ」
一緒に建物に張られているポスターに近づく。彦星と織姫のイラストが描かれている。そこには『七夕週間(七月一日から七日まで) 浴衣で登校可! 着替え・着付けブース完備! 短冊書いて笹に飾ろう!』と書かれている。
「そういうことなのか」
「なんだかこういうのって芸術大学ならではな感じがしますね」
「ほお……」
家に引きこもっていた神楽小路にとって、イベントというものに縁がなく、以前であればこの七夕週間も「そんなものがあるのだな」と思うだけだった。
「駿河総一郎、お前は参加するのか?」
「僕は今のところ考えてないですね。でも、桂さんや佐野さんは興味あるんじゃないでしょうかね。女性の浴衣は種類が豊富で、選びがいもあるでしょうし」
「なるほど」
その日の二限終了後、
「神楽小路くん、こっちだよ~」
手を振りながらやってきた佐野は、小さなハートが散りばめられたワンピースに、ローヒールのサンダル姿だった。
「どうしたの? わたしの服に汚れついてる?」
「佐野真綾、お前は浴衣姿じゃないんだな」
「えっ?」と聞き直したあと、すぐに言われた意味を理解し、手をたたく。
「あぁ~、七夕週間なのにってことかな?」
神楽小路は大きく頷いた。
「わたし、浴衣持ってないんだよね。かわいいとは思うんだけど」
一食に向かう道すがら、元々「天の川通り」という名称の喜志芸のメインストリートである広い道を歩く。どうやらまだ飾り付けが完了してないようで、星に切り抜いたプラスチックや、天の川を表現しているであろうシルクの布を両端に建つ棟の窓から架けるなどの作業が行われている。
「神楽小路くんはよく着るの?」
「いや。一度も着たことはない。そもそも着るような機会もなかったからな」
「そっかぁ。小さい頃はおばあちゃんが仕立ててくれた浴衣で夏祭り行ったりしたけど。神楽小路くん、浴衣に興味があるの?」
「別に。たくさんいると、夏らしさがあると思っただけだ」
「たしかに! もうすっかり夏だね」
気温も湿度も上がり、風が肌に当たるたび、一気に体温が上がり汗も流れる。セミも徐々に鳴き始めている。
「そういえば、知ってる? 一食と二食に七夕週間限定のメニューがあるんだって」
「ほぉ」
「一食は冷やし中華で、二食はそうめん。どっちとも一日三十食限定らしいから食べれるか心配だよ~」
(佐野真綾にとっては浴衣より食い気か。それはそれで佐野真綾らしい)
「おはようございます、神楽小路くん」
と声をかけてきたのは駿河総一郎であった。彼も普段と変わらないカジュアルな服装だった。
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「ちょうどあそこにポスターがありますよ」
一緒に建物に張られているポスターに近づく。彦星と織姫のイラストが描かれている。そこには『七夕週間(七月一日から七日まで) 浴衣で登校可! 着替え・着付けブース完備! 短冊書いて笹に飾ろう!』と書かれている。
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「えっ?」と聞き直したあと、すぐに言われた意味を理解し、手をたたく。
「あぁ~、七夕週間なのにってことかな?」
神楽小路は大きく頷いた。
「わたし、浴衣持ってないんだよね。かわいいとは思うんだけど」
一食に向かう道すがら、元々「天の川通り」という名称の喜志芸のメインストリートである広い道を歩く。どうやらまだ飾り付けが完了してないようで、星に切り抜いたプラスチックや、天の川を表現しているであろうシルクの布を両端に建つ棟の窓から架けるなどの作業が行われている。
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「いや。一度も着たことはない。そもそも着るような機会もなかったからな」
「そっかぁ。小さい頃はおばあちゃんが仕立ててくれた浴衣で夏祭り行ったりしたけど。神楽小路くん、浴衣に興味があるの?」
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「ほぉ」
「一食は冷やし中華で、二食はそうめん。どっちとも一日三十食限定らしいから食べれるか心配だよ~」
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