手の届かない君に。

平塚冴子

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3学期

王子の町娘奪還作戦1

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「葉月か?どうした。」
「…やっぱり、田宮さんと一緒でしたね。」
「ま、まあな。」
「携帯情報は生徒に教えないんじゃなかったんですか?」
うっ!そこ、突っ込むなよ~。
「イジワルだな。本当にすまない。」
「…手短に話します。
この前のメモ…見ました?」
「ああ、意味もわかってるつもりだ。」
「…助けて…くれますか?」

これは!!…そう言う事だよな。
メモを貰った時から薄々は感じていたが、デリケートな案件だけに、本人には確認を取っていなかった。
でも、大方予想はしていた事態だ。

「葉月…今どこに?」
「まだ…大丈夫です。
先生の携帯番号を転送して貰っていいですか?」
「わかった。送る。」
「では、後ほど情報を転送します。
もう、切ります。ごめんなさい。」
「あ!おい!葉月!?」
葉月からの電話は切れてしまった。

「田宮、僕のアドレスを葉月に転送してくれないか?」
「はい。」
田宮はすぐに葉月に僕の連絡先情報を転送した。

「先生…。葉月さんに何か…。
また、姉が…。」
彼女は怯えた眼差しで僕を見上げた。
「大丈夫だ。君とは関係ない案件だ。」
僕は笑顔で彼女の頬に右手を当てた。
彼女は震える両手を頬にある僕の手に重ねた。
震えてる…。

僕は左手腕でグッと彼女の身体を引き寄せた。
「心配性だな。ほら、おまじない。」
僕はそう言って、彼女のおデコに軽くキスをした。
「何も心配ない。約束する。
僕を信じてくれるね。」
「…はい。」

プルルルルプルルルル。
葉月からのメッセージだ。
『今夜10時 流石ゼミナール横 藤和銀行正面 。
黒のアタッシュケース。』
予備校の近く…。
なるほど…予備校の近くで補導されるリスクは少ない。
つくづく、頭の使い方があざとい!
これだから、下手に頭のいい奴ってのは厄介なんだ。
「ちょっと、職員室に行ってくる。」
僕は彼女を旧理科室に残して、清水先生と連絡を取るために職員室へと向かった。

清水先生は出勤予定ではない。
一応、職員室内を見回したが、やはりいない。
僕は自席に座って清水先生に電話を掛けた。
「おう!どうした武本。
お前が電話を掛けて来るなんて。」
「緊急事態です。
今夜10時に葉月がウリの客と会います。」
「…はああ?何だと!?」
「協力をお願いします。」
「金井先生に連絡は?」
「まだです。これからしようかと。」
「午後7時に学校で落ち合おう。
一旦作戦会議も必要だろ。」
「わかりました。
金井先生にも、そう伝えます。」
僕は清水先生の電話を切るとすぐに、金井先生に電話を掛けた。

「武本先生?どうしました?何か…。」
「昨日の今日でスミマセン。
葉月が緊急事態です。
今夜10時に1年3組の葉月がウリの客と会います。」
「何ですって?」
「助けを求めて来てます。
清水先生には連絡済みです。
午後7時に学校で落ち合おう事に…。」
「わかりました。
僕もそちらに向かいます。」
「宜しくお願いします。」
僕は電話を切って、再び旧理科室へと向かった。

田宮は掃除をしていた。
実験台を丁寧に拭いていた。
今の時間は午後5時。
「田宮…今日は早めに帰らないか?」
「ん?ここ、使いますか?」
「いや…そうじゃなくて。」
何て言ったらいいんだ…。

「先生…困るんですね。
じゃあ、帰ります。」
「あ、いや…邪魔とかじゃないんだ。
勘違いしないで欲しい。」
「わかってますよ。
私は、また明日来ればいいので。」
「…ありがとう。」
恋愛以外は察しがいいな…本当に。
「掃除道具を片付けてから帰ります。」
そう言うと、彼女は掃除道具を片付け始めた。
最後に手を洗い終えた彼女に僕は近寄った。
「田宮…あのさ…。」
これから…僕は葉月を助けに行かなきゃならない。
怖くないと言ったら嘘になる。
勇気が欲しい…少しでいいから。
僕は言葉を選んでいた。

「…先生。気を付けて。」
「…えっ…。」
彼女が急に僕の首に腕を伸ばし、僕の額と彼女の額をピタリとくっつけた。
「私も…見ています。
先生が見ていてくれるように。」
僕は目を伏せて礼を言った。
「ありがとう。…でも…できたら…。」
キスが欲しい…。
僕はその言葉を飲み込んだ。
好きでもない男に、そう何度もキスをするなんて…やっぱり可哀想だと思ったからだ。

「!!」
一瞬柔らかい彼女の唇が、僕の唇に触れ合った。
彼女からの3度目のフレンチキスだった…。
「これで元気出ますか?」
キスの内容なんかより、彼女からっていうのがたまらなく嬉しかった。
「…出た!すごく元気になった!」
「ふふふ。」
彼女は照れながら小さく笑った。
これで、俄然やる気が出てきた。

僕は彼女を帰宅させて、僕も一旦マンションに戻った。
格好から言えば、自分の方が怪しまれそうだ。
なんせモテない大学生だからな。ははは。
とりあえず、スーツを着てオールバックにして、前の視界も確保して黒のロングコートに着替えてから、僕は再び学校へと戻った。
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