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第四章
国境越え、いざアルバ国入国へ⑥
しおりを挟む隣に座りたがる小太りジジイを、正面に座らせて、私はハーブティーを口に含んだ。
「旦那ぁ、アルバ国にご執心なんて、珍しいですよ。
確かに、勇者の治める国として始めは盛り上がっていましたよ。
民衆の期待値はMAXでしたからね。」
「単純だな。
勇者といえど万能な訳なかろう。
そもそも、元々の国の価値もあるだろう。」
「冷静に考えてみれば、その通り当たり前の事ですがね、あの時あの時代は狂気でしたからねー。」
「狂気?なんでだ?
魔王を討伐したんだろ?」
て、いうか、私だよ。
討伐されて落ちぶれたのは目の前にいる、この私。
「だからですよ。
魔王統治から解き放たれた民衆は、あからさまに『勇者ハイ』だったんですよ。」
「ぶほっ!ゲホ!うぉえっ。」
思わず、ハーブティーを噴き上げてしまった。。
勇者ハイだって?
正気な判断が出来なかったのか?浮足立ち過ぎて。
民衆の期待は想像以上に膨れ上がっていて、その中アルは国王として祭り上げられたって事なのか?
予想以上にヘビーな話しに、既に気力の3分の1を奪われてしまった。
「あらー!大変!
お洋服が!」
「だー!拭かなくていい!
自分で拭く!話しを続けろ!」
タオルを手に、ドサクサ紛れに身体を舐め回す様に弄ってきた団長を一喝した。
握った拳をグーパンしそうになり、フルフルと振るわせると団長は引き下がった。
「ざっくりとした噂ですが、1年と経たずに、国王の人気は下がり非難や不満が国中に広がってしまったとか。
経済が上手くいってないのが余計に民衆の不満を買ってる。
それなのに、国庫の為に税金を上げたり、1部の貴族に有利な政治を行うとか。
勇者も欲にまみれるっていうよくありそうな噂でして。」
「ンな訳ないだろ!ふざけるな!」
バン!
思わずテーブルに両手をついて立ち上がってしまった。
嗚呼クソっ!
何をイラついてるんだ私は。
確かにこの噂話でアルは悪者扱いされているようだ。
しかし、それが私とどう関係すると言うんだ?
私を討伐したせいで…いやいや、それはアルの問題だ。
私の問題ではない。
私がどうこう出来る問題でもないし、立ち入ってよい話ではない。
落ち着け、落ち着け。
私はもう魔王ではない。
人としても不完全な存在なんだ。
アルバ国に何ら関与できる身分ではないのだ。
「そんなご機嫌悪くなさって、安心して下さい。
明日の夕刻に我がサーカス団は入国審査で国境を越えられる予定です。
先に猛獣を乗せた馬車、動物、その後団員の審査がありますが、各まとまりごとに通してもらえるのです。
ま、疑わしく思われたら一芸でも見せておけば、文句は言われないでしょう。
審査の効率化らしいですよ。」
私は一呼吸して冷静さを取り戻した。
「宜しく頼む。
もう、噂話はこれ以上結構だ。
明日の夕刻前にまたここを訪れる。」
「ええええ。
もうちょっと、話しを。
あ、なんならお休み所を提供させていただきますよ。」
潤んだ瞳で私の事を下から舐め回すように見上げる団長に、私も我慢の限界に達した。
「いや、結構だ。
私も色々と1人で考えたい事もあるので、また。」
「そうですか。
お邪魔はしたくはないですぅ。
一時のお別れですね。
涙でハンカチを濡らして、待ってますぅ~。」
「…ああ、そう。」
はぁ、めんどくせぇ。
目を細めながらそう返事を返すと、私は立ち上がって、くるりと向きを変えテントを後にした。
さて、頭を切り替えよう。
アルが目覚める前に、通常の私に戻らねば。
何も聞かなかった事にしなければ。
キャラバンテントの間を縫うように抜けてアルの眠る小高い丘へ向かった。
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