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第二話 紅梅《最後の願い》
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劉珠宝店に行き、あの手鏡を見ていると、劉さんが声をかけてくれた。
手持ちの金を見せると、「十分ですよ」と微笑んで、銅銭を数えて勘定を済ませてくれた。もっとも多く持っていかれても俺はわからないかもしれないけど、劉さんはそんなことはしない気がする。
きれいな箱に入れてもらい、それを懐に入れて店を出る。今日はお菓子はくれないみたいだ。そりゃ毎回ってわけにはいかないよな。
お金の袋は随分軽くなったけど、秋櫻へのプレゼントが買えたのは嬉しい。まだ時間にもお金にも余裕はあるし、なにか買い食いでもしていこうかと辺りを見回していると。
目の端に、ぬっと赤い棒状の何かが突き出された。次いで甘い香りがする。
……なに?
思わずそちらを見ると、なにやら赤いものが陽の光を浴びてきらきら光っていた。
「ほらほら。子供は飴が好きだよな?」
屋台で売ってるいちご飴みたいな、丸い果実に飴がコーティングされたものが、長い串にびっしりささっている。果実の大きさはミニトマトくらいだろうか。なんだろうこれ。しかし砂糖の甘い匂いに、思わず唾がわきだしてくる。
じっと見つめると、持ち主はぐいと飴の串を差し出してきた。それは朝別れたばかりの洸永遼だった。
「食べていいよ。君のために買ったから。ほら」
「そんなわけには、」
口を開いた瞬間、飴が差し出された。口に入ったそれを思わず噛み締める。ふわっと甘い香り、ぱり、と飴が割れる音。ついで爽やかな酸味が口中に広がった。飴の甘さと酸っぱさが口の中でブレンドされて、とても美味い。
「ん……」
思わずかみしめる。次の瞬間、竹串が抜かれて、飴だけが口に残った。
「ふふ。何やら性的な眺めだな」
にこにこしながらけしからんことを言う。一体何が性的なのか説明してほしい、いやいらないが。
「ふぉうふぁん……」
口のなかの飴をもごもごと咀嚼しながら言う。彼の手元の竹串にはまだまだ飴が刺さっている。それを見つめていると、洸永遼は飴を持っていない方の手で近くの店を指して言った。店先には串に刺さった飴がたくさん売られている。
「この飴はその店で買ったから、中で茶でも飲まないか?」
反射的に頷いてしまった。……いつか俺は食い意地で身を亡ぼす気がしてならない。
茶店のテーブルに向かいあって座る。渡された飴を右手に持っていると、茶を運んできてくれた店の人が皿を出してくれた。これで置くことができる。なにせ竹串に結構な量の飴が刺さっているし、ぜんぶ食べるのは時間がかかりそうだ。
串を皿に置いて、淹れてもらった茶を飲んだ。口の中の甘さが洗い流されて爽快だ。
「あー、うまい。ありがとうございます」
とりあえず礼を言うと、洸永遼はうん、と頷いた。
「なんだか、小鳥に餌をやっている気分だな」
楽しそうに呟く。完全に遊ばれている気がするが、とりあえず機嫌がよさそうなのでいいだろう。
「またお会いするなんて、奇遇ですね?」
若干疑いながら聞いてみた。また俺の跡をつけたりしていないだろうな、そんなに暇でもないだろうけど。
「私の仕事相手はこの街の商店ほぼ全部だからね。久しぶりだし、挨拶周りも大変なんだよ。そうしたらまた君があの店から出てくるじゃないか」
洸永遼は肩をすくめ、皿の上の飴を指し示す。
「君の気を引きたくて、これを買った」
「……これは何の飴ですか?」
なんだか気まずくて、聞いてみた。中学英語の例文みたいだ。しかし俺は食べたことがない味だったので気になった。
「山査子だよ。私も小さいころ好きだった。この時期まで食べられるとは驚いたが。去年の収穫分を残しているのかな」
呟くように言う。
サンザシ。ドライフルーツの菓子なら食べたことがあるが、果実の状態では見たこともない。
「初めて食べました。すごくおいしいです」
素直に言うと、彼は机に頬杖をついて嬉しそうに笑った。いちいちそんな姿も様になっている。
「でも……僕に何の用ですか?」
「おいおい。つれないな、一緒に寝た仲なのに。……仕事中、街で君を見つけた私の気持ちも考えてみてくれよ」
長めの前髪をかき上げ、照れたように笑う。男女問わず思わず目を奪われそうな笑顔だ。しかし、ゲームでの彼のキャラを知っている俺としては、そう簡単に彼に落ちたりはしない。俺は黙って飴の串を手に取り、一つ口に入れた。すると洸永遼がぽつりと言った。
「実は。純愛っていうのに、興味があってね」
……ぐっ。
思わず飴を吹き出しそうになるのを堪える。……なんだって?
「昨日と全く同じ状況で君を見て……。運命なのかなと思ったんだ」
にこにこ。その完璧に整った微笑みもうさん臭く見えてしまう。すると彼は俺の気持ちを読んだように、悪戯っぽく言った。
「信じられないって思ってる? そうだろうね、私も信じられない。でも、君に興味があるのは本当だ」
……ずいぶんストレートな口説きだ。しかし彼はゲームでもこういう男だった。おはようとおやすみと同じ軽さで口説き文句が出る男なのだ。
「君にも、私に興味を持ってほしい。だから、聞きたいことがあれば、何でも聞いてごらん?」
手持ちの金を見せると、「十分ですよ」と微笑んで、銅銭を数えて勘定を済ませてくれた。もっとも多く持っていかれても俺はわからないかもしれないけど、劉さんはそんなことはしない気がする。
きれいな箱に入れてもらい、それを懐に入れて店を出る。今日はお菓子はくれないみたいだ。そりゃ毎回ってわけにはいかないよな。
お金の袋は随分軽くなったけど、秋櫻へのプレゼントが買えたのは嬉しい。まだ時間にもお金にも余裕はあるし、なにか買い食いでもしていこうかと辺りを見回していると。
目の端に、ぬっと赤い棒状の何かが突き出された。次いで甘い香りがする。
……なに?
思わずそちらを見ると、なにやら赤いものが陽の光を浴びてきらきら光っていた。
「ほらほら。子供は飴が好きだよな?」
屋台で売ってるいちご飴みたいな、丸い果実に飴がコーティングされたものが、長い串にびっしりささっている。果実の大きさはミニトマトくらいだろうか。なんだろうこれ。しかし砂糖の甘い匂いに、思わず唾がわきだしてくる。
じっと見つめると、持ち主はぐいと飴の串を差し出してきた。それは朝別れたばかりの洸永遼だった。
「食べていいよ。君のために買ったから。ほら」
「そんなわけには、」
口を開いた瞬間、飴が差し出された。口に入ったそれを思わず噛み締める。ふわっと甘い香り、ぱり、と飴が割れる音。ついで爽やかな酸味が口中に広がった。飴の甘さと酸っぱさが口の中でブレンドされて、とても美味い。
「ん……」
思わずかみしめる。次の瞬間、竹串が抜かれて、飴だけが口に残った。
「ふふ。何やら性的な眺めだな」
にこにこしながらけしからんことを言う。一体何が性的なのか説明してほしい、いやいらないが。
「ふぉうふぁん……」
口のなかの飴をもごもごと咀嚼しながら言う。彼の手元の竹串にはまだまだ飴が刺さっている。それを見つめていると、洸永遼は飴を持っていない方の手で近くの店を指して言った。店先には串に刺さった飴がたくさん売られている。
「この飴はその店で買ったから、中で茶でも飲まないか?」
反射的に頷いてしまった。……いつか俺は食い意地で身を亡ぼす気がしてならない。
茶店のテーブルに向かいあって座る。渡された飴を右手に持っていると、茶を運んできてくれた店の人が皿を出してくれた。これで置くことができる。なにせ竹串に結構な量の飴が刺さっているし、ぜんぶ食べるのは時間がかかりそうだ。
串を皿に置いて、淹れてもらった茶を飲んだ。口の中の甘さが洗い流されて爽快だ。
「あー、うまい。ありがとうございます」
とりあえず礼を言うと、洸永遼はうん、と頷いた。
「なんだか、小鳥に餌をやっている気分だな」
楽しそうに呟く。完全に遊ばれている気がするが、とりあえず機嫌がよさそうなのでいいだろう。
「またお会いするなんて、奇遇ですね?」
若干疑いながら聞いてみた。また俺の跡をつけたりしていないだろうな、そんなに暇でもないだろうけど。
「私の仕事相手はこの街の商店ほぼ全部だからね。久しぶりだし、挨拶周りも大変なんだよ。そうしたらまた君があの店から出てくるじゃないか」
洸永遼は肩をすくめ、皿の上の飴を指し示す。
「君の気を引きたくて、これを買った」
「……これは何の飴ですか?」
なんだか気まずくて、聞いてみた。中学英語の例文みたいだ。しかし俺は食べたことがない味だったので気になった。
「山査子だよ。私も小さいころ好きだった。この時期まで食べられるとは驚いたが。去年の収穫分を残しているのかな」
呟くように言う。
サンザシ。ドライフルーツの菓子なら食べたことがあるが、果実の状態では見たこともない。
「初めて食べました。すごくおいしいです」
素直に言うと、彼は机に頬杖をついて嬉しそうに笑った。いちいちそんな姿も様になっている。
「でも……僕に何の用ですか?」
「おいおい。つれないな、一緒に寝た仲なのに。……仕事中、街で君を見つけた私の気持ちも考えてみてくれよ」
長めの前髪をかき上げ、照れたように笑う。男女問わず思わず目を奪われそうな笑顔だ。しかし、ゲームでの彼のキャラを知っている俺としては、そう簡単に彼に落ちたりはしない。俺は黙って飴の串を手に取り、一つ口に入れた。すると洸永遼がぽつりと言った。
「実は。純愛っていうのに、興味があってね」
……ぐっ。
思わず飴を吹き出しそうになるのを堪える。……なんだって?
「昨日と全く同じ状況で君を見て……。運命なのかなと思ったんだ」
にこにこ。その完璧に整った微笑みもうさん臭く見えてしまう。すると彼は俺の気持ちを読んだように、悪戯っぽく言った。
「信じられないって思ってる? そうだろうね、私も信じられない。でも、君に興味があるのは本当だ」
……ずいぶんストレートな口説きだ。しかし彼はゲームでもこういう男だった。おはようとおやすみと同じ軽さで口説き文句が出る男なのだ。
「君にも、私に興味を持ってほしい。だから、聞きたいことがあれば、何でも聞いてごらん?」
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