強面騎士の後悔

桃田産

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未来への一歩

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「はぁ~」

 リリアナは痛む腰をトントンと叩きながら、洗濯籠を抱え直した。

 リリアナはアレックスに抱かれることを嫌ってはいなかった。ただ、回数が多いのが問題なのだ。一日に何度も抱かれるせいで、次の日にはリリアナの体のあらゆるところが痛んだ。体は辛かったが、アレックス本人に言うことはできなかった。絶対にリリアナのことを心配し、気に病むことは分かっていたからだ。リリアナはどんなに体が辛くても仕事を休まず、いつも通りの時間を過ごした。

「あ、ルイっ!」
「ふぁ~、リリアナぁ」

 洗濯場にはルイの姿があった。リリアナが声をかけると、あくびをしながら返事をされる。ルイの首には無数のキスマークが残っており、リリアナは言葉にせずとも彼女が眠たい理由を理解した。
 リリアナとアレックスが関係を深める頃には、他のメイドたちも騎士たちと夜の時間を過ごしていた。例に漏れず、ルイも騎士に激しく求められて熱い夜を過ごしたらしい。

「大丈夫?」
「うーん、なんとか。昨日は二人相手にしたから、遅くまで寝れなくて」

 リリアナはルイの告白に密かに驚き、頬を赤くした。知り合いの情事の痕跡を聞くことは、正直照れくさかった。一方で、密事を打ち明けた本人のルイは、あっけらかんとしていた。

「……大変だったね」
「ね~。まぁ、うまい相手だったからよかったけど。これが下手な相手なら最悪だよ」

 ルイはさっぱりとした態度で話した。情事を他人に明け透けに話すのはルイの性格的なものなのか、それともこの国特有のものかは分からなかった。リリアナはこの場の空気が悪くならないよう、頬を引きつらせながら「そうなんだ」と無難な相槌を打った。

 ルイが静かになったので横を向くと、頭をコクコクと揺らしながら衣服を洗濯板にこすりつけていた。今にも川の中に落ちそうな状態に、リリアナはハラハラとした。

「これ終わったら、手伝うね」
「ん~、ありがとう」

 ルイはほとんど瞼が閉じた状態で、にへらと微笑んだ。


 リリアナの助けもあり、洗濯物は無事に干すことができた。体を動かしたことで目が覚めたのか、ルイの目は先程よりもぱっちり開いている。

「次の予定は?」
「騎士寮の部屋の掃除!」
「じゃ、ここでお別れだね。またね」
「うん。ありがと~」

 ルイは担当騎士の部屋の掃除があるらしいので、二人は途中で別れた。一人になったリリアナは先輩メイドに会いに行き、次の掃除場所を確認した。食堂の掃除の人手が足りていないということなので、そちらに向かう。

「あ、メイベル!」

 メイベルはティーセットを載せたお盆を持って、ちょうど調理場から出てくるところだった。最初は食器を割ってばかりいたメイベルも、すっかり慣れた様子だ。お盆の中は安定しており、落とす心配はなさそうだった。

「リリアナ!」

 メイベルはリリアナに気づき、にこっと笑顔を見せた。でもすぐに、顔を曇らせてしまう。リリアナはメイベルの様子に、不安を覚えた。

「どうしたの?」

 メイベルは人目がつかない隅の方に、リリアナを引っ張っていった。周囲の様子を確認した後、リリアナの耳元に顔を寄せて小さな声で話した。

「実はアレックス様のもとに、お医者様が来てるの」
「え!?」

 リリアナは思わず大きな声を出してしまい、慌てて自分の口を押さえた。

「アレックス様、どこかお悪いの?」

 心配そうなリリアナに、メイベルは困った表情になった。

「媚薬のことを詳しく調べるつもりだっていう話は聞こえたんだけど、それ以上のことは分からなくて」
「そうなの……」

 リリアナの胸に不安が広がった。もしかして、他にも後遺症が出てしまったのだろうか。今すぐ訪ねて行きたいが、今はメイドとして働いている時間なので、気軽に会いに行くことはできなかった。会いに行けない理由は、それだけでない。アレックスが発情してしまうかもしれないので、人目が多い場所で近づくことはあまりいいことだと言えなかった。

「深刻そうな表情じゃなかったし、きっと大丈夫だと思うけど、少しだけ気になっちゃって」
「うん、ありがとう。あとで本人に確認してみる。長く引き止めてごめんね」
「ううん。それじゃあ、またね」

 リリアナは笑顔でメイベルを見送るが、彼女が立ち去った後、すぐに表情を曇らせた。

 それから落ち着かない気持ちのまま、リリアナは掃除に取り掛かった。体を動かしていれば気が紛れるかと思ったが、そんなことはなかった。箒で食堂の床を掃いているときも、濡らしたふきんで机の上を拭いているときも、頭の片隅にはアレックスのことがあった。チラチラと時計を確認しながら、ただ仕事が終わるのをひたすら待った。



 終了時間になり、リリアナはバケツや雑巾などの掃除道具を片付けた。アレックスに直接会いに行く前にジェイデンの元に行こうか悩んでいると、そのジェイデン本人が近づいてきた。

「リリアナ。今日は夕食を共にしたいそうです」
「あ、分かりました」
 
 口を開く前に先に話しかけられ、リリアナは尋ねようとした言葉を飲み込んだ。ジェイデンに聞くよりも本人に聞いた方が良いだろうと思い、一度部屋に戻った。

 リリアナはコートを着込み、約束の場所へと向かった。そこは相変わらず窓が全開だし、リリアナとアレックスの席は遠く離れていた。いつものことなのだが、リリアナは胸にほんの少しだけ不満を抱いた。仕方がないことだから文句を言うことはないが、やはり大事な話は隣同士に座って近くで話したいと思ったのだ。何度も言うようだが、仕方がないことだと分かっているので、その不満を口に出すことはないが。


「遅れてすまない」

 リリアナが一人で考えに耽っていると、少しだけ息を切らせたアレックスが入ってきた。

「いえ、お疲れ様です」

 リリアナはざっとアレックスの全身を確認し、元気な様子にほっと安堵の息を吐いた。でも、傍目では分からない場所が悪いのかもしれないと思い、アレックスが席に座ったのを確認して口を開いた。

「あの、お医者様が訪ねていらしたそうですが、どこかお加減でも悪いんですか?」
「いや……」

 リリアナの質問に、アレックスは頬を赤くした。リリアナが珍しい様子に驚いていると、アレックスは何度かわざとらしく咳をした。

「媚薬の効果を無くして、……君と、普通の恋人のように過ごしたいと思ったんだ」
「……」

 アレックスが顔を上げると、頬を赤くしているリリアナが居た。その表情がとても可愛くて、今すぐ抱き締めたくなった。二人は近づけない距離にヤキモキしながら、ナイフとフォークを動かした。
 リリアナはアレックスの言葉に嬉しさを感じていた。同時に、アレックスに対しての自分の気持に気がついた。事情があるから夜を共にしていたのだが、リリアナの心は少しずつアレックスへの思いで満たされていたのだ。

 いつもはほとんど食事を残さないのだが、その日は胸がいっぱいで二人共ほとんど手を付けずに席を立った。


 これが普通の恋人ならすぐにベッドに直行して熱い夜を過ごしたのだろうが、二人はそうはいかなかった。リリアナはソワソワした気持ちのまま、ジェイデンの部屋を訪ねた。

「えっと、……今日もお願いします」
「うん。よろしくね」

 ジェイデンはリリアナの落ち着かない様子に苦笑いをした。彼も同じ部屋に居たため、アレックスたちが頬を赤くしながら、もじもじとした様子で食事をとるところを見ていた。初々しいカップルの姿に、こちらまで照れくさく感じてしまうほどだった。きっかけがきっかけだけに色々すっ飛ばして愛人という関係に落ち着いた二人だが、出会って初めて言葉を交わしたのはついこの間なのだ。つまり、二人は恋を謳歌している付き合いたてのカップルと同じだった。
 ジェイデンはいつも無表情で仕事に邁進しているアレックスの見たことがない表情に、密かに驚いていた。友人として、思いを寄せる相手ができてよかったなと思う気持ちの一方、アレックスに心を奪われるリリアナの姿に心を痛めていた。

 ジェイデンはこんなことではいけないと、軽く頭を横に振った。

「早くするために、下着を脱いで膝を抱えてくれますか?」
「は、はい」

 リリアナは真っ赤な顔で、ジェイデンの指示に従った。ベッドの上で両足を抱え、入口が見えるように大きく広げた。アレックスとの情事への期待からか、リリアナの入口はすでに湿っており、光でテラテラときらめいていた。ジェイデンはコクリと唾を飲み込むと、入口に舌を這わせた。

「やぁ、ッ!! そんなとこ、……ぁっ、ダメぇ!」

 ジェイデンはぢゅるぢゅると蜜を啜り、少しずつ突きながら舌を膣内へと侵入させた。グニグニと中を広げるように舐められ、リリアナはジェイデンの頭を押そうとするが力が入らなかった。次第に両手はジェイデンの頭を掴み、無意識のうちに腰を揺らして喘いでしまう。

「あ、ぁっ、…はぁ ……ぁあっ!」 

 ジェイデンは口の周りをベトベトに濡らしながら、一心不乱に舌を動かした。
 しばらくしてちゅぽっと舌を抜くと、リリアナは大きく呼吸をしながらベッドに沈んだ。ジェイデンは乱暴に自分の手で口の周りを拭いた。リリアナの体から力が抜けているうちに、ローションをまとった指を突き入れる。同時に、ジェイデンは可愛らしいクリトリスを口に含んだ。

「ひぁああああッーーー…!!」

 中と外を同時に攻められ、リリアナは背中を反らせながら潮を噴いた。愛おしい人の痴態に興奮し、ジェイデンは手を止めることができなかった。涙を流しながら喘ぐリリアナの声を聞きながら、ぐちょぐちょと腟内の指を動かした。ジェイデンの股間は、ズボンの上からでも分かるほど大きく膨らんでいた。





「すみません」

 イき過ぎたリリアナは腰に力が入らず、一人で満足に歩くことができなくなってしまった。ジェイデンは申し訳無さそうな顔をしながら、リリアナが歩くのを手伝った。

「いいえ。わざわざごめんなさい」

 リリアナは変なことにジェイデンを巻き込んでしまっていると思っており、その負い目から怒ることはなかった。苦笑いしながらジェイデンの手を借り、アレックスの部屋に向かう。

「ありがとうございます」

 アレックスの部屋の前に辿り着くと、リリアナはジェイデンの手から離れた。

「本当に大丈夫ですか?」

 ジェイデンは心配そうに聞くが、リリアナの答えは変わらなかった。さすがに中まで付き添われるのは恥ずかしいのだろうと、ジェイデンは無理強いしなかった。少し離れると、振り返って静かにリリアナの様子を確認した。
 リリアナは腰に手を当てていたが、倒れることなく部屋の中に入った。ジェイデンは一抹の寂しさを感じながら、その場を離れた。


「アレックス様……?」

 リリアナは壁を支えに歩いた。
 寝室のドアを開けた瞬間、アレックスの呻く声が聞こえた。同時に、青臭い臭いも感じる。ベッドの方に近づくと、月明かりに照らされてアレックスが自分のペニスを扱いていた。噛み締めた口からは、呻き声が漏れている。どうやら、リリアナが来るまで、正気を保つことができなかったようだ。リリアナは最初に抱かれた日のことを思い出しながら、アレックスに近づいた。

「アレックス様」
「ぐぅううッ!!」

 リリアナが背中に触れると、アレックスはペニスから精液を飛ばした。
 アレックスは荒い呼吸をしながら、振り向いた。リリアナの姿を視界に入れ、彼女の体に飛びかかる。そして、一気に胎内にペニスを突き入れた。

「ぐッーーー……!!!」

 リリアナは歯を食いしばって衝撃に耐えると、アレックスの首に腕を回した。正気を失っても美しい、アレックスの瞳を見つめる。

「あぁっ、ぁっ、 …ア、レックス、さま、っ」
「ぐっ、っ、ッ!!」

 アレックスは一心不乱に腰を動かした。肌と肌がぶつかり合い、パンッパンッと音が響く。ペニスが大きく膨らむと、ぐっと奥に押し当てた。アレックスはリリアナの口に噛みつき、未だに濃い精液を放った。そして、息をつく間もなく、律動を開始する。

「ぁッ!ンン、んっ、…あ、あ、っ……」

 リリアナは揺さぶられながら、愛おしい人の体を抱き締めた。




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