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「はい、手首くっつけてー」
放心状態の俺に返事を求めることもなく、紅清様は軽やかにそう告げた。
――申し訳なくて。
――ありがたくて。
――救われて。
――ほっとして。
胸の奥で渦を巻く気持ちが一度に押し寄せてきて、言葉が喉でつかえてしまう。
何から口にすればいいのかわからない俺を、紅清様は見透かしているようだった。
穏やかな真紅の瞳が、涙でぐしゃぐしゃになった俺を、優しい目つきで見下ろしている。
もちろん、俺は指示に従った。
椅子に腰かけたまま、両手の手首をぴたりと合わせて差し出す。
紅清様がセロテープを長く引き出しているのを見て、手首を束ねて巻きつけるつもりなのだろうと思ったから、俺は少しでもやりやすいようにと、腕を高く掲げて差し出した。
すると――
「ははは! 玄夜はわかってるなー! 気が利くね! さすが、俺の秘書で執事だよ。ありがとう」
大きな声で楽しそうに笑うと、ふわりと頭を撫でて褒めてくださった。
「……紅清様ぁ」
感極まった俺は、涙声で主人の名を呼んだ。
あんな卑劣な真似をして、心から反省しているのは本当なのに…。
いや、だからこそ!
――こうして褒めていただけることに胸が震え、縋りつきたくなってしまう。
(……俺は、本当に。あなたの側に、まだ置いていただけるんでしょうか?)
ドキドキと脈打つ鼓動が、耳の中まで聞こえる。
(……捨てられると思っていたのに、こうしてまだ、かまっていただけるなんて)
捨てられても当然だと覚悟していたからこそ。
両手を重ねて差し出すだけで、涙が出るほどの歓びが込み上げてしまう。
指示されることが…。
指示をされる立場でいさせて頂けることが…。
たまらなく嬉しい。
――ビィィィィィ―ッ!!
俺の手首の前で、紅清様がセロテープをさらに長く引き出した。
安っぽいその音と、目の前に立つ主人の優雅で威厳に満ちた姿があまりに不釣り合いで、なんだか可笑しくて胸が詰まる。
「なにぃー、玄夜ぁー。縛られるのに嬉しそうじゃん! こういう趣味あったの?」
「……捨てられても仕方ないと思っていたので…縛ってお側に置いてもらえることが、なんだか嬉しく思えてしまいまして」
「ははは! 何それ! だから、これくらいのことで可愛い玄夜を捨てたりしないって! ただのおあいこになるための罰ゲームだから、気楽にやってよ」
「…はい、ありがとうございますっ」
「ぷはは! この状況でありがとうございますって! ――もぅ~、やりにくいなぁ~。俺の玄夜は可愛すぎるね!」
その言葉と同時に、不意に頬へと口づけが落ちた。
「……ふぅんっ!」
甘い声が勝手に漏れてしまった。
(…本当に、本当に俺は捨てられないんだ!)
そう確信した瞬間、安堵で胸が熱くなり、涙が込み上げてきた。
俺は手首をくっつけるという指示を違えないように慎重に、肘のあたりでごしっと目尻を拭った。
涙を拭いて顔を上げると、クラシカルな調度品が多い落ち着いた書斎で、優雅な俺の主人が遊び心全開の声音で言う。
「じゃあ、縛るよー。きつかったら言ってね」
「はいっ」
柔らかな喜びで胸をいっぱいにしながら元気に答えると、紅清様は俺の両手首にぐるぐるとセロテープを巻きつけ始めた――。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※サークル『擬人化色劇団』の作品は、色を擬人化した当サークル専属劇団員が演じている設定です。→詳細はサイトへ
【CAST】
表紙:執事役 幹影玄夜(黒)
裏表紙:ご主人様役 朱鷺紅清(赤)
放心状態の俺に返事を求めることもなく、紅清様は軽やかにそう告げた。
――申し訳なくて。
――ありがたくて。
――救われて。
――ほっとして。
胸の奥で渦を巻く気持ちが一度に押し寄せてきて、言葉が喉でつかえてしまう。
何から口にすればいいのかわからない俺を、紅清様は見透かしているようだった。
穏やかな真紅の瞳が、涙でぐしゃぐしゃになった俺を、優しい目つきで見下ろしている。
もちろん、俺は指示に従った。
椅子に腰かけたまま、両手の手首をぴたりと合わせて差し出す。
紅清様がセロテープを長く引き出しているのを見て、手首を束ねて巻きつけるつもりなのだろうと思ったから、俺は少しでもやりやすいようにと、腕を高く掲げて差し出した。
すると――
「ははは! 玄夜はわかってるなー! 気が利くね! さすが、俺の秘書で執事だよ。ありがとう」
大きな声で楽しそうに笑うと、ふわりと頭を撫でて褒めてくださった。
「……紅清様ぁ」
感極まった俺は、涙声で主人の名を呼んだ。
あんな卑劣な真似をして、心から反省しているのは本当なのに…。
いや、だからこそ!
――こうして褒めていただけることに胸が震え、縋りつきたくなってしまう。
(……俺は、本当に。あなたの側に、まだ置いていただけるんでしょうか?)
ドキドキと脈打つ鼓動が、耳の中まで聞こえる。
(……捨てられると思っていたのに、こうしてまだ、かまっていただけるなんて)
捨てられても当然だと覚悟していたからこそ。
両手を重ねて差し出すだけで、涙が出るほどの歓びが込み上げてしまう。
指示されることが…。
指示をされる立場でいさせて頂けることが…。
たまらなく嬉しい。
――ビィィィィィ―ッ!!
俺の手首の前で、紅清様がセロテープをさらに長く引き出した。
安っぽいその音と、目の前に立つ主人の優雅で威厳に満ちた姿があまりに不釣り合いで、なんだか可笑しくて胸が詰まる。
「なにぃー、玄夜ぁー。縛られるのに嬉しそうじゃん! こういう趣味あったの?」
「……捨てられても仕方ないと思っていたので…縛ってお側に置いてもらえることが、なんだか嬉しく思えてしまいまして」
「ははは! 何それ! だから、これくらいのことで可愛い玄夜を捨てたりしないって! ただのおあいこになるための罰ゲームだから、気楽にやってよ」
「…はい、ありがとうございますっ」
「ぷはは! この状況でありがとうございますって! ――もぅ~、やりにくいなぁ~。俺の玄夜は可愛すぎるね!」
その言葉と同時に、不意に頬へと口づけが落ちた。
「……ふぅんっ!」
甘い声が勝手に漏れてしまった。
(…本当に、本当に俺は捨てられないんだ!)
そう確信した瞬間、安堵で胸が熱くなり、涙が込み上げてきた。
俺は手首をくっつけるという指示を違えないように慎重に、肘のあたりでごしっと目尻を拭った。
涙を拭いて顔を上げると、クラシカルな調度品が多い落ち着いた書斎で、優雅な俺の主人が遊び心全開の声音で言う。
「じゃあ、縛るよー。きつかったら言ってね」
「はいっ」
柔らかな喜びで胸をいっぱいにしながら元気に答えると、紅清様は俺の両手首にぐるぐるとセロテープを巻きつけ始めた――。
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※サークル『擬人化色劇団』の作品は、色を擬人化した当サークル専属劇団員が演じている設定です。→詳細はサイトへ
【CAST】
表紙:執事役 幹影玄夜(黒)
裏表紙:ご主人様役 朱鷺紅清(赤)
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