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第四章 覚醒編
エレンの指南
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「暑い…。」
ハア、と思わず息を吐き、滴り落ちる汗を拭った。
まずい…。脱水症を起こしかけている。頭が痛くなってきた。
ルーファスはジャングルの森の中を彷徨い歩きながら、水はないかと辺りを見回した。
近くに川はあるが、明らかに毒が混ざっているような色をしていて、ドロドロとしており、底が見えない。しかも、死んだ魚が浮いている。誰がどう見たって有害だと分かる水だ。
その時、フワッと甘い香りが漂った。何だ?このむせ返る様な甘い匂いは…。
ルーファスは匂いを辿って、歩き続けた。
大きな葉を掻き分けるて進むと、そこには、楽園のような場所が広がっていた。
今までいたジャングルとは大違いだ。清涼な水が流れていて、緑の草が生え、美しい花が咲き誇り、たわわに実った果物の木がたくさんある。
だけど…、何かがおかしい。ルーファスは違和感を抱いた。それが何なのか最初は分からなかった。
段々と観察していく内に気が付いた。生き物の気配がないのだ。
これだけの花の蜜と草、果物がある場所なら、普通は蝶や虫、動物がいてもおかしくない。
それなのに、虫一匹すら見当たらない。
…妙だな。
その時、楽園の中央にある大木の幹に突き刺さった剣を見つけた。
あそこに武器があるのか。今の自分には武器がない。
さっき、鼠型の魔物を倒した時に剣が刃こぼれしてしまって、使い物にならなくなってしまったからだ。
また魔物に襲われるかもしれないから、武器が必要だ。
けれど、それにはここを通らないといけない。罠かもしれない。
だが…、武器がないと自分の身は守れない。仕方ない。行くしかないか。覚悟を決めて、ルーファスは慎重に歩を進めた。
楽園を通ると、いっそう匂いが濃くなった。
うっ…!頭がクラクラする。辺りにいる花が…、植物が…、おいでおいでと誘っているかのような錯覚に陥る。
さっきまで感じていた口渇感が一層、強くなる。喉が渇いた。早く水が欲しい。
少しだけ…、少しだけなら…。
無意識に小川に流れる水に手を伸ばした。
その時、足元に何か気配を感じた。
反射的に地面を足で蹴り、大きく飛び退いた。
その直後に地面が盛り上がり、何かが現れた。
地面に着地した瞬間、耳を劈くような悲鳴が聞こえた。
見れば、太い蔓のような触手がルーファスの足を捕え損ねて、空振りしていた。
花だと思っていた所から、赤い蔓がうねうねと蠢めき、鋭利な歯を持った口をパカリ、と開けていた。
植物型の魔物だ。しかも、大型の。
ルーファスは全速力でその場から離れ、武器に向かって走った。
けたたましい叫び声が背後から聞こえ、何かが差し迫ってくる音がする。
さっきの蔓がまたくる…!振り返ったら、スピードが落ちて、捕まってしまう。
振り返らずに気配と音で躱せ!ルーファスは振り返らずに走り続けた。気配と音で蔓の動きを先読みし、躱していく。
シュッ!と右から気配を感じる。
右か…!サッと左に避ける。
その直後、右から蔓が伸びてきた。よし。躱せた。ちゃんと動ける。
次は斜め左…!サッと態勢を低くし、地面を転がって右に移動する。
すぐさま起き上がり、走り出す。
その直後にさっきルーファスがいた所に蔓が直撃した音がした。
もう少しだ…!もう少しで武器を…!その時、地面の下に気配を感じた。
下からか…!思わず足で蹴って、後ろに下がった。
地面の下から、蔓が飛び出した。何本も束になった蔓が地面の下から飛び出してきたので周りの木や植物も打ち倒れていく。その衝撃で武器が刺さった木も宙に舞い、武器が空中に放り出された。
ルーファスは反射的に足を地面で蹴って、地面に落下していく木の障害物を足台にして空中に身を投げ出した。
手を伸ばし、武器を掴もうとする。ルーファスを捕まえようと魔物も蔓を伸ばしていく。
ルーファスの足に蔓が巻き付いた瞬間、スパン!と蔓が切られた。抜身の剣を手にしたルーファスが切り落としたのだ。
間に合った…!これで攻撃に転じられる!グッと剣を握り締める。
そのまま迫りくる蔓の攻撃を次々と斬り落とし、斬った植物を蹴り上げて、そのまま魔物の懐に入っていく。剣を振り上げる。
一撃で決めろ…!渾身の力を込めて、ルーファスは一閃した。
大口を開けた魔物の身体が真っ二つに切り裂かれる。
断末魔の悲鳴を上げて、魔物の身体が崩れていく。
ルーファスは受け身を取ることなく、地面に落下した。
草の上だったので衝撃は少なかったがそれでも身体の節々が痛み、顔を歪めた。
魔物の声が聞こえなくなった。さっきの戦った衝撃で身体が動かない。
その時、ルーファスの視界の端に顔のない紫色をした植物型の魔物が目に入った。
グパッと大きな口を開けて、唾液を垂らしながらルーファスに近付いてきている。
まだ魔物がいたのか…!くそっ…!身体が動かない。早く動かないと…!食われる!
「闇の槍ダークランス」
その時、槍状の形をした黒いものが魔物の身体を貫いた。そのまま魔物は絶命した。
唖然としたルーファスの顔を覗き込むようにヒョコ、とエレンがルーファスを見下ろした。
あの月を模った大きな杖を肩にかけたエレンはローブの下から水筒を取り出すと、
「大丈夫?ルーファス。はい。お水。」
動けないルーファスの為にエレンはルーファスの口元に水筒を当て、水を流し込んだ。
反射的に水を飲み込んで、ルーファスはやっと口渇感が満たされ、ホッと息を吐いた。
「すまない。エレン。助かった…。」
「どういたしまして。もう動ける?」
エレンに言われて、ルーファスは自分が動けることに気が付いた。
さっきまで全然身体が動かなかったのに…。
「さっき飲んだのは回復薬入りの水だったからね。身体も痛くないでしょ?」
「あ、ああ。凄い効果だな。」
「当然でしょ。僕が作った特製の水なんだから。」
「エレンが?」
「ルーファスにも作り方を教えてあげるよ。その前に…、あれを倒してからだね。」
そう言って、エレンがチラッと見上げた空には何か虫の集団が迫ってきていた。
遠くからだったので気が付かなかったが近付くにつれて、あまりのでかさにルーファスはギョッとした。
何だあれは…。蜂!?いや。ただの蜂じゃない。蜂型の魔物…、魔蜂だ。
人間の平均身長よりも三倍はありそうな大きさだ。魔蜂は猛毒がある。魔蜂の恐ろしい所は毒がある上に群れで行動する所だ。
一匹だけなら何とか仕留められるだろうがこれだけの集団となると…。ルーファスは剣を構える。
すると、エレンがルーファスの剣の柄に手を触れ、剣を下ろさせた。
「下がってて。」
そう言って、エレンはスッと杖を掲げた。
「炎の壁ファイヤーストーム」
杖に埋め込まれた赤い石が光ったと思ったら、蜂型の魔物のいる場所に炎の嵐が巻き起こった。
そのまま蜂型の魔物を一匹残らず焼き尽くした。あまりにも規格外の魔法にルーファスが唖然としていると、グウウ、と音がした。エレンのお腹から。
「お腹空いた。」
「…な、何か食料を探すか。」
無表情で空腹を訴えるエレンにルーファスはそう提案した。
パチパチ。魔獣を仕留めたエレンは仕留めた獲物が焼き上がるのを今か今かと待っている。
無表情だが、目がキラキラしている。こういう所は年相応の子供みたいだな。
ルーファスは肉の処理をしながら、エレンに目をやった。
……口元から涎が垂れている。ルーファスはエレンにハンカチを差し出した。
それにしても、ものの数分で獲物を仕留めるとは思わなかった。
急に走り出したと思ったら、あっという間に見えなくなってしまい、エレンの魔力を辿ってルーファスが追いついた時には、既にエレンは魔獣を数体仕留めた後だった。
焼き上がった肉をモグモグと咀嚼して食べているエレンはよく食べる。
俺より小さくて、細いのによくあれだけの量を食べられるな。
やはり、魔力が高いからだろうか。
三人の中では一番華奢で小柄なエレン。だが、見た目とは裏腹にエレンは優れた魔法の使い手だ。
魔法を連続で攻撃しても、涼しい顔をしている。高度な魔法を使えば使う程、魔力を消費し、疲弊する。
あれだけ魔力を消費すれば魔力切れを起こしてもおかしくない筈なのに、エレンは平然としている。
リーやシグルドもそうだが、エレンも十分に規格外の強さの持ち主なのだ。
並の人間とはレベルが違う。
「ルーファスも食べなよ。この後も訓練があるんだから、食べないと身体が持たないよ。」
「訓練?」
「魔法の訓練だよ。まだしてないでしょ。」
「魔法の?だけど、俺は…、魔法が…、」
ルーファスは呪いにかけられてから、魔法を使えなくなった。それと引き換えに呪いの力という妙な力を使えるようになったのだ。そう話すと、
「何言ってんの?君は魔力があるんだから、魔法は問題なく使える筈だよ。今までだって使っていたじゃん。」
「俺が魔法を…?」
「あ、そっか。自覚ないんだっけ。僕もそうだったからなあ。」
エレンはそう零し、ルーファスに向き直った。
「君は魔力はあるけど、そのコントロールが上手くできていないんだよ。コツとやり方さえ分かればできるようになるよ。僕が教えてあげる。」
そう言って、エレンはルーファスに魔法の指南をしてくれるようになった。
「手を出して。」
エレンに手を差し出され、ルーファスはエレンの手に自分の手を重ねる。
「魔力を流すから、目を瞑って集中して。」
言われた通り、目を瞑ると、ポウッと音がして、温かいものが流れてきた。
何かが身体に流れてくる。これが魔力か。
「ん。魔力の流れはちゃんと感じ取れてるね。じゃ、次は身体の中にある魔力の流れを感じてみて。」
身体の中にある魔力…。さっきエレンから伝わった魔力と同じものを感じ取ればいいのか。
スウッと息を吸い、集中するために目を瞑る。すると、身体の奥深くから温かいものを感じた。これか。
「よし、それじゃ、後は実践に移すだけ。身体の中にある魔力を手繰り寄せるイメージで一か所…、掌に集めてみて。それができたら…、」
ルーファスはエレンに魔法の指南を受け、魔法の訓練を受けた。
魔力の流れ、魔法の発動条件、術式の展開…。
エレンの魔法の知識は豊富で奥深く、探求心を駆り立てた。
ルーファスも魔法の書物は読んでいたが、それでもエレンの知識に比べるとまだまだ知らないことが多かったのだと気付かされる。
ハア、と思わず息を吐き、滴り落ちる汗を拭った。
まずい…。脱水症を起こしかけている。頭が痛くなってきた。
ルーファスはジャングルの森の中を彷徨い歩きながら、水はないかと辺りを見回した。
近くに川はあるが、明らかに毒が混ざっているような色をしていて、ドロドロとしており、底が見えない。しかも、死んだ魚が浮いている。誰がどう見たって有害だと分かる水だ。
その時、フワッと甘い香りが漂った。何だ?このむせ返る様な甘い匂いは…。
ルーファスは匂いを辿って、歩き続けた。
大きな葉を掻き分けるて進むと、そこには、楽園のような場所が広がっていた。
今までいたジャングルとは大違いだ。清涼な水が流れていて、緑の草が生え、美しい花が咲き誇り、たわわに実った果物の木がたくさんある。
だけど…、何かがおかしい。ルーファスは違和感を抱いた。それが何なのか最初は分からなかった。
段々と観察していく内に気が付いた。生き物の気配がないのだ。
これだけの花の蜜と草、果物がある場所なら、普通は蝶や虫、動物がいてもおかしくない。
それなのに、虫一匹すら見当たらない。
…妙だな。
その時、楽園の中央にある大木の幹に突き刺さった剣を見つけた。
あそこに武器があるのか。今の自分には武器がない。
さっき、鼠型の魔物を倒した時に剣が刃こぼれしてしまって、使い物にならなくなってしまったからだ。
また魔物に襲われるかもしれないから、武器が必要だ。
けれど、それにはここを通らないといけない。罠かもしれない。
だが…、武器がないと自分の身は守れない。仕方ない。行くしかないか。覚悟を決めて、ルーファスは慎重に歩を進めた。
楽園を通ると、いっそう匂いが濃くなった。
うっ…!頭がクラクラする。辺りにいる花が…、植物が…、おいでおいでと誘っているかのような錯覚に陥る。
さっきまで感じていた口渇感が一層、強くなる。喉が渇いた。早く水が欲しい。
少しだけ…、少しだけなら…。
無意識に小川に流れる水に手を伸ばした。
その時、足元に何か気配を感じた。
反射的に地面を足で蹴り、大きく飛び退いた。
その直後に地面が盛り上がり、何かが現れた。
地面に着地した瞬間、耳を劈くような悲鳴が聞こえた。
見れば、太い蔓のような触手がルーファスの足を捕え損ねて、空振りしていた。
花だと思っていた所から、赤い蔓がうねうねと蠢めき、鋭利な歯を持った口をパカリ、と開けていた。
植物型の魔物だ。しかも、大型の。
ルーファスは全速力でその場から離れ、武器に向かって走った。
けたたましい叫び声が背後から聞こえ、何かが差し迫ってくる音がする。
さっきの蔓がまたくる…!振り返ったら、スピードが落ちて、捕まってしまう。
振り返らずに気配と音で躱せ!ルーファスは振り返らずに走り続けた。気配と音で蔓の動きを先読みし、躱していく。
シュッ!と右から気配を感じる。
右か…!サッと左に避ける。
その直後、右から蔓が伸びてきた。よし。躱せた。ちゃんと動ける。
次は斜め左…!サッと態勢を低くし、地面を転がって右に移動する。
すぐさま起き上がり、走り出す。
その直後にさっきルーファスがいた所に蔓が直撃した音がした。
もう少しだ…!もう少しで武器を…!その時、地面の下に気配を感じた。
下からか…!思わず足で蹴って、後ろに下がった。
地面の下から、蔓が飛び出した。何本も束になった蔓が地面の下から飛び出してきたので周りの木や植物も打ち倒れていく。その衝撃で武器が刺さった木も宙に舞い、武器が空中に放り出された。
ルーファスは反射的に足を地面で蹴って、地面に落下していく木の障害物を足台にして空中に身を投げ出した。
手を伸ばし、武器を掴もうとする。ルーファスを捕まえようと魔物も蔓を伸ばしていく。
ルーファスの足に蔓が巻き付いた瞬間、スパン!と蔓が切られた。抜身の剣を手にしたルーファスが切り落としたのだ。
間に合った…!これで攻撃に転じられる!グッと剣を握り締める。
そのまま迫りくる蔓の攻撃を次々と斬り落とし、斬った植物を蹴り上げて、そのまま魔物の懐に入っていく。剣を振り上げる。
一撃で決めろ…!渾身の力を込めて、ルーファスは一閃した。
大口を開けた魔物の身体が真っ二つに切り裂かれる。
断末魔の悲鳴を上げて、魔物の身体が崩れていく。
ルーファスは受け身を取ることなく、地面に落下した。
草の上だったので衝撃は少なかったがそれでも身体の節々が痛み、顔を歪めた。
魔物の声が聞こえなくなった。さっきの戦った衝撃で身体が動かない。
その時、ルーファスの視界の端に顔のない紫色をした植物型の魔物が目に入った。
グパッと大きな口を開けて、唾液を垂らしながらルーファスに近付いてきている。
まだ魔物がいたのか…!くそっ…!身体が動かない。早く動かないと…!食われる!
「闇の槍ダークランス」
その時、槍状の形をした黒いものが魔物の身体を貫いた。そのまま魔物は絶命した。
唖然としたルーファスの顔を覗き込むようにヒョコ、とエレンがルーファスを見下ろした。
あの月を模った大きな杖を肩にかけたエレンはローブの下から水筒を取り出すと、
「大丈夫?ルーファス。はい。お水。」
動けないルーファスの為にエレンはルーファスの口元に水筒を当て、水を流し込んだ。
反射的に水を飲み込んで、ルーファスはやっと口渇感が満たされ、ホッと息を吐いた。
「すまない。エレン。助かった…。」
「どういたしまして。もう動ける?」
エレンに言われて、ルーファスは自分が動けることに気が付いた。
さっきまで全然身体が動かなかったのに…。
「さっき飲んだのは回復薬入りの水だったからね。身体も痛くないでしょ?」
「あ、ああ。凄い効果だな。」
「当然でしょ。僕が作った特製の水なんだから。」
「エレンが?」
「ルーファスにも作り方を教えてあげるよ。その前に…、あれを倒してからだね。」
そう言って、エレンがチラッと見上げた空には何か虫の集団が迫ってきていた。
遠くからだったので気が付かなかったが近付くにつれて、あまりのでかさにルーファスはギョッとした。
何だあれは…。蜂!?いや。ただの蜂じゃない。蜂型の魔物…、魔蜂だ。
人間の平均身長よりも三倍はありそうな大きさだ。魔蜂は猛毒がある。魔蜂の恐ろしい所は毒がある上に群れで行動する所だ。
一匹だけなら何とか仕留められるだろうがこれだけの集団となると…。ルーファスは剣を構える。
すると、エレンがルーファスの剣の柄に手を触れ、剣を下ろさせた。
「下がってて。」
そう言って、エレンはスッと杖を掲げた。
「炎の壁ファイヤーストーム」
杖に埋め込まれた赤い石が光ったと思ったら、蜂型の魔物のいる場所に炎の嵐が巻き起こった。
そのまま蜂型の魔物を一匹残らず焼き尽くした。あまりにも規格外の魔法にルーファスが唖然としていると、グウウ、と音がした。エレンのお腹から。
「お腹空いた。」
「…な、何か食料を探すか。」
無表情で空腹を訴えるエレンにルーファスはそう提案した。
パチパチ。魔獣を仕留めたエレンは仕留めた獲物が焼き上がるのを今か今かと待っている。
無表情だが、目がキラキラしている。こういう所は年相応の子供みたいだな。
ルーファスは肉の処理をしながら、エレンに目をやった。
……口元から涎が垂れている。ルーファスはエレンにハンカチを差し出した。
それにしても、ものの数分で獲物を仕留めるとは思わなかった。
急に走り出したと思ったら、あっという間に見えなくなってしまい、エレンの魔力を辿ってルーファスが追いついた時には、既にエレンは魔獣を数体仕留めた後だった。
焼き上がった肉をモグモグと咀嚼して食べているエレンはよく食べる。
俺より小さくて、細いのによくあれだけの量を食べられるな。
やはり、魔力が高いからだろうか。
三人の中では一番華奢で小柄なエレン。だが、見た目とは裏腹にエレンは優れた魔法の使い手だ。
魔法を連続で攻撃しても、涼しい顔をしている。高度な魔法を使えば使う程、魔力を消費し、疲弊する。
あれだけ魔力を消費すれば魔力切れを起こしてもおかしくない筈なのに、エレンは平然としている。
リーやシグルドもそうだが、エレンも十分に規格外の強さの持ち主なのだ。
並の人間とはレベルが違う。
「ルーファスも食べなよ。この後も訓練があるんだから、食べないと身体が持たないよ。」
「訓練?」
「魔法の訓練だよ。まだしてないでしょ。」
「魔法の?だけど、俺は…、魔法が…、」
ルーファスは呪いにかけられてから、魔法を使えなくなった。それと引き換えに呪いの力という妙な力を使えるようになったのだ。そう話すと、
「何言ってんの?君は魔力があるんだから、魔法は問題なく使える筈だよ。今までだって使っていたじゃん。」
「俺が魔法を…?」
「あ、そっか。自覚ないんだっけ。僕もそうだったからなあ。」
エレンはそう零し、ルーファスに向き直った。
「君は魔力はあるけど、そのコントロールが上手くできていないんだよ。コツとやり方さえ分かればできるようになるよ。僕が教えてあげる。」
そう言って、エレンはルーファスに魔法の指南をしてくれるようになった。
「手を出して。」
エレンに手を差し出され、ルーファスはエレンの手に自分の手を重ねる。
「魔力を流すから、目を瞑って集中して。」
言われた通り、目を瞑ると、ポウッと音がして、温かいものが流れてきた。
何かが身体に流れてくる。これが魔力か。
「ん。魔力の流れはちゃんと感じ取れてるね。じゃ、次は身体の中にある魔力の流れを感じてみて。」
身体の中にある魔力…。さっきエレンから伝わった魔力と同じものを感じ取ればいいのか。
スウッと息を吸い、集中するために目を瞑る。すると、身体の奥深くから温かいものを感じた。これか。
「よし、それじゃ、後は実践に移すだけ。身体の中にある魔力を手繰り寄せるイメージで一か所…、掌に集めてみて。それができたら…、」
ルーファスはエレンに魔法の指南を受け、魔法の訓練を受けた。
魔力の流れ、魔法の発動条件、術式の展開…。
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