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王様を訪ねていきました
早速、そういう事態に遭遇しました
しおりを挟む「それでは、早速出発しましょう」
そう未悠が言うと、ヤンは不安そうな顔をする。
「私、野盗から未悠様を守り切れるでしょうか」
そんなヤンの手をやり、未悠は言った。
「大丈夫です。
貴方にはこれがあるではありませんか」
とヤンの腰から剣を抜き、その鼻先に剣を掲げて見せた。
「これは悪魔を倒した剣です」
いや、倒してはいませんよねー、という顔でヤンが見る。
未悠は後ろのベッドを振り向き、血でパリパリになっているシーツで剣を拭いた。
乾いた血の擦れた痕が少しついた剣を見せ、
「これは悪魔の血のついた剣です。
きっと貴方の力となるでしょう」
とヤンに渡して頷く。
「未悠様……、
ありがとうございます」
もちろん、それで、なにかの力が剣に宿ったとは思ってはいないだろうが。
未悠がヤンを勇気づけようとしているのは伝わったようだ。
「では、早速、この剣で、未悠様をお守りいたしま……」
言い終わらないうちに、ヤンは早速、そういう事態に遭遇したようだった。
塔の階段を上がってきてしまった野盗のような連中が目の前に現れてしまったからだ。
「なんだ。
なにも財宝などないじゃないか」
そう言いながら、若い男が自分より年上の男たちを引き連れて現れた。
もしや、こういう連中が上がってきて、なにもないのに腹を立てて、タモンを刺したとか? と思いながら、彼らを見ていると、先頭に居たその金髪碧眼の若い男がこちらを見る。
「ほう。
こんなところに女が。
お前は、どちらのお姫様だ?」
と訊いてきた。
そういえば、ドレスを着替える暇もなかったな、と思いながら、未悠は男を見る。
野盗の頭のようなその男は、何故か毛皮を斜めに肩にかけていて、肩の辺りに牙を剥いた虎の顔があった。
なんだろう。
大阪のおばちゃんの服をなんとなく連想させる。
いや、おばちゃんたちのはただのプリント柄だが。
殺されたときの苦悶の表情のまま肩に張りついている虎の毛皮は恐らく、敵を威嚇するためのものだろうが。
未悠は、ただ、暑いのにな……と思っただけだった。
まあ、お洒落は我慢というからな。
……あれがお洒落かどうかは知らないが。
そんなことを考えていると、彼の後ろに控えていた男たちが言い出した。
「坊っちゃん、身分のある女に手を出すと、後が厄介ですぜ」
坊っちゃん……? と見ると、男は少し恥ずかしそうな顔をする。
「知るか。
こんなところにひょこひょこ出てくる方が悪いんだろ。
……あと、坊っちゃん言うな」
てことは、この男、野盗の頭の息子なのかな、と思いながら、そのやりとりを見ていた。
虎に食いつかれているようにも見えるその若い男は、
「じゃあ、この女を攫って、金を要求するってのはどうだ?」
と言って、
「いやあ、そういう非人道的なことはどうですかね」
と後ろの男たちに言われている。
「ま、待てっ」
とヤンが剣を手に、男たちに向かって構えた。
だが、
「……大丈夫か、お前。
剣が震えているぞ」
と男たちに何故か心配されている。
「ふ、震えてなどいないっ」
いや、震えてるというより、素振りをしているのかというくらい揺れてるけど……と思っている未悠の横で、ヤンが叫んだ。
「こ、この方を攫っても無駄だっ。
この方は、身分のある方などではない。
わ……私の妻だっ!」
と言ったあとで、ヤンは、すぐに、こちらを振り向き、
「すみませんっ!」
と謝ってくる。
いや……、謝るくらいなら、最初から言わない方が、と苦笑いしながらも、ヤンの必死さは伝わってきた。
まあ、この辺りが限界か? と未悠がドレスの裾に手をかけようとしたとき、
「お前、気に入ったぞ」
と虎の男がヤンに向かって言い出した。
「なにか困ったことがあったら、俺に言ってこい」
とヤンの肩を叩いている。
いや、まさに今、貴方により困っているのですが、と思っていると、男は未悠を振り向き、金色に光る指輪を投げてきた。
中に赤い石が十字に埋め込まれている。
「困ったことがあったら、その先の酒場の亭主にそれを見せろ」
……うちの酒場じゃないだろうな、と思っていると、男は、未悠に、
「まあ、お前のような娘が街に出て酒場に行くことなんて――」
と言いかけたが、その手に腿に括り付けていた短剣を手にしているのを見て、
「……うん。
ありそうだな」
と言う。
「まあ、なにかあったら、言ってこい」
と帰ろうとして、後ろの男たちに、
「坊っちゃん~。
こんなところまで来たのに、なんにも宝ないじゃないですかー。
この塔には、とんでもない女たらしが住んでいるから、金持ち女からせしめた金銀財宝が眠ってるって聞いてきたんでしょー?」
と言われている。
……なんだろう。
その情報、途中までは間違っていない気がするのだが。
気のせいだろうか。
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