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王様を訪ねていきました
ところで、王様はどちらに?
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「ヤン、凄いわ。
ひとりで野盗――」
か、どうかは知らないが……。
「を追い払うなんて」
と未悠が褒めると、ヤンは少し照れ、
「この魔法の剣のおかげです」
とタモンの血のついた剣を掲げてみせる。
いや……違うと思うけど、と思ったが。
その剣を持っていることで自信になるのなら、と思い、未悠は黙った。
「じゃあ、まあ、そろそろ行きましょうか」
と未悠がゆるい感じで出発を宣言すると、ヤンは、
「はいっ。
では、私が前を歩きますっ。
矢でも飛んでこようものなら、私がこの剣で払い落としますともっ」
と張り切って言ってくる。
いやあ、この平和な森で、矢なんて飛んでこないと思うけど、と思いながらも、ヤンの一生懸命さが可愛らしく。
ようやく歩き出した子どもを見守るように、未悠はヤンの後をついて、石段を下りていった。
塔から出て、森の中に入った未悠はヤンに問う。
「ところで、ヤン。
王様は何処にいらっしゃるのかしら?」
「今、聞いたところによりますと。
王様は、西の海の手前の地、カタフニアにいらっしゃるようなのです。
辺りの蛮族を平定し、これからバカンスに入られるということです」
「……バカンス?
戦場で?」
「いえ、ですから。
戦を終え、手近な街で休まれるそうなんですよ。
カタフニアもいい街ですが、西の海の海岸沿いの街も素晴らしいですよ」
と笑顔で言ってくるヤンに、
「ヤンも行ったことあるの?」
と訊くと、
「いえ、私はありませんが、そう聞きます」
と苦笑いしていた。
「美味しい果物や目を見張るほど美しい織物などが西の方からやってくるので、素晴らしい土地なのではないかと思います」
なるほどねえ、と呟きながら、とりあえず、ヤンについて森の中の小道を歩く。
「しかし、王様も戦が終わったら、すぐに妻子の許に戻ればいいのにねえ」
もしや、戦に行った地で、次々、愛人を作っているとか、と思う未悠の頭の中では、見たこともない王の顔は、何故かアドルフの顔になっていた。
妄想の中では、ニースのようなリゾート地で、アドルフが美女に囲まれ、くつろいでいる。
「さっさと帰れって言ってやろうかしら……」
と低く呟いた未悠に、ひっ、とヤンが息を呑む。
「あ、あの、王は穏やかな方ですが。
王に余計なことを言うと、周りについていらっしゃる方々に殺されますよ」
未悠の頭の中では、既にのちのち王となったアドルフが美女に囲まれていたので、こういう悪い習慣は断ち切らねばとばかりに、
「いや、意見したら、殺されるなんておかしいわ。
ヤン、私が殺されたら、あの盗賊の許に行きなさい。
そんなに人は悪くなさそうだから」
と言って、
「いやいやいや。
なに言ってるんですかっ、未悠様っ」
落ち着いてくださいよー、と言われてしまう。
穏やかな王様か。
私はその王様の子どもなのでしょうかね?
……なにかこう、
しっくり来ないような気が。
それが何故なのかはわからないけど、と思いながら、未悠は森を覆う木々の隙間から、少し暮れてきた空を見上げた。
ひとりで野盗――」
か、どうかは知らないが……。
「を追い払うなんて」
と未悠が褒めると、ヤンは少し照れ、
「この魔法の剣のおかげです」
とタモンの血のついた剣を掲げてみせる。
いや……違うと思うけど、と思ったが。
その剣を持っていることで自信になるのなら、と思い、未悠は黙った。
「じゃあ、まあ、そろそろ行きましょうか」
と未悠がゆるい感じで出発を宣言すると、ヤンは、
「はいっ。
では、私が前を歩きますっ。
矢でも飛んでこようものなら、私がこの剣で払い落としますともっ」
と張り切って言ってくる。
いやあ、この平和な森で、矢なんて飛んでこないと思うけど、と思いながらも、ヤンの一生懸命さが可愛らしく。
ようやく歩き出した子どもを見守るように、未悠はヤンの後をついて、石段を下りていった。
塔から出て、森の中に入った未悠はヤンに問う。
「ところで、ヤン。
王様は何処にいらっしゃるのかしら?」
「今、聞いたところによりますと。
王様は、西の海の手前の地、カタフニアにいらっしゃるようなのです。
辺りの蛮族を平定し、これからバカンスに入られるということです」
「……バカンス?
戦場で?」
「いえ、ですから。
戦を終え、手近な街で休まれるそうなんですよ。
カタフニアもいい街ですが、西の海の海岸沿いの街も素晴らしいですよ」
と笑顔で言ってくるヤンに、
「ヤンも行ったことあるの?」
と訊くと、
「いえ、私はありませんが、そう聞きます」
と苦笑いしていた。
「美味しい果物や目を見張るほど美しい織物などが西の方からやってくるので、素晴らしい土地なのではないかと思います」
なるほどねえ、と呟きながら、とりあえず、ヤンについて森の中の小道を歩く。
「しかし、王様も戦が終わったら、すぐに妻子の許に戻ればいいのにねえ」
もしや、戦に行った地で、次々、愛人を作っているとか、と思う未悠の頭の中では、見たこともない王の顔は、何故かアドルフの顔になっていた。
妄想の中では、ニースのようなリゾート地で、アドルフが美女に囲まれ、くつろいでいる。
「さっさと帰れって言ってやろうかしら……」
と低く呟いた未悠に、ひっ、とヤンが息を呑む。
「あ、あの、王は穏やかな方ですが。
王に余計なことを言うと、周りについていらっしゃる方々に殺されますよ」
未悠の頭の中では、既にのちのち王となったアドルフが美女に囲まれていたので、こういう悪い習慣は断ち切らねばとばかりに、
「いや、意見したら、殺されるなんておかしいわ。
ヤン、私が殺されたら、あの盗賊の許に行きなさい。
そんなに人は悪くなさそうだから」
と言って、
「いやいやいや。
なに言ってるんですかっ、未悠様っ」
落ち着いてくださいよー、と言われてしまう。
穏やかな王様か。
私はその王様の子どもなのでしょうかね?
……なにかこう、
しっくり来ないような気が。
それが何故なのかはわからないけど、と思いながら、未悠は森を覆う木々の隙間から、少し暮れてきた空を見上げた。
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