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妖怪、祇園精舎
怪談も整理してみよう
しおりを挟むなんで、罵られて幸せそうなんだ……と思いながら、晴比古はいそいそと志貴の手を取り立ち上がる深鈴を見ていた。
……俺も一応、手は出してみたんだが。
王子様の前では影が薄いな、と思う。
なんだか本当に莫迦莫迦しくなってきた。
深鈴に操を立ててもなにもいいことなんてありませんよ、と言う志貴の言葉を思い出していた。
まあ、確かにそうなんだが……。
だが、志貴もこちらに対して文句を言いながらも、なんだかんだで合わせてくれている。
深鈴を亮灯と呼ばないでくれていることもそうだ。
……俺が亮灯と呼べる日は来ないんだろうな、とそのとき、ちょっと思った。
しかし、深鈴が滑るのもわかる気がする、と晴比古はおのれの足許を見た。
観光地化された鍾乳洞と違って、きちんと整備されてはいないので、足許が悪く、歩きにくい。
いつの間にか前を歩いている志貴が懐中電灯で先を照らしながら言ってきた。
「此処、怪談が似合う場所ですね。
してみましょうか、怖い話」
いや、俺にとっての、今、一番の怖い話は、お前が凶器になりそうなデカイ懐中電灯を持っていることなんだが、と思いながらも、
「そういえば、菜切もタクシーでしてくれたっけな、怪談」
と言う。
幽霊タクシーですか、と志貴の後ろを歩いている深鈴が呟いた。
「その話も一から整理し直した方がいいな。
まず、人気のない通りから、霊園まで乗せていけ、という幽霊が出たんだよな。
雨も降らないのに傘を差している、男の」
「でも、そのうち、みんな警戒して、そこで怪しい人を乗せないようにしていたら、傘を巻いて見えないように隠した男の人が菜切さんのタクシーに乗ってきたんですよね」
と幕田が言う。
「そしたら、菜切さんのタクシーは横転して。
気が付いたら、後部座席はぐっしょり濡れてて、傘だけが置いてあったと」
「その傘の所在は今はわからないんだったな」
と晴比古は幕田の話に付け加える。
深鈴が、
「そのあと、菜切さんの車にびしょ濡れの持田さんが乗ってきて、霊園まで行ってくれと言ったんでしたね。
それで、菜切さんはたぶん、持田さんに一目惚れした」
と言う。
「なんか影のある女性っていいですもんね」
と幕田が場違いなことを言い、俊哉が、
「いやー、俺は明るい方がいいっすけどね」
と更に脱線させていた。
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