神の住まう島の殺人 ~マグマとニート~

菱沼あゆ

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消えずの火と第一の殺人

人が死んではならない島だから

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 ロープウェイから従順そうな若い男が走ってきて、倖田に耳打ちする。

「刺された男の身元はまだわからないそうだ。
 無事に病院に着いて、今、手術中だ」

 倖田は、そう教えてくれたあとで、茉守たちに文句を言ってくる。

「それにしても、厄介なものを見つけてくれたな。
 開通式がだいなしだ」

「私たちが見つけなかったら、死体になってましたよ」

 よりまずいのでは?
と茉守は倖田を見上げて言った。

「あなたこそ、何故、予告状なんて見つけるんですか」

「見つけたわけじゃない。
 空から降ってきたんだ」

「私たちも、ただ、倒れていた人が視界に飛び込んできただけなんですけどね。

 ところで、UFOとか幽霊とか見つける人は動体視力が良いのではないですかね」

「……今その話関係あったか?」

 そんな倖田の問いには答えず、今、警官たちの手にあるあの予告状を見ながら、茉守は言う。

「その予告状、本当に空から降ってきたんですか?」
「どういう意味だ?」

「落ちてきた風を装っただけなのかもしれないじゃないですか。
 あなたが自分で放り投げて」

「ニートが側で見てたぞ」

「ニートさんは、ぼんやりしてるから、ちゃんとは見ていなかったかもしれません」

 倖田がマグマとニートを振り返り言う。

「この女、洞察力があるな。
 今日会ったばかりなのに、ニートがぼんやりしていると見抜くとは」

「……それは誰でも見抜けると思うぞ」
とマグマが言う。

 倖田は茉守の言葉にも怒るでもない。
 ただ、面白がっているようだった。
 
「そもそも何故、俺がそんな予告状を出す必要がある?」
と訊いてくる。

 そうですね、と茉守は考え、
「自分が犯人ではないと思わせるためとか」
と言った。

「待て。
 刺されてた奴、そもそも誰なんだ。

 俺の知ってる奴じゃないぞ。
 島の人間ではないようだが」

 そこで、茉守はふと気づいて言った。

「……島の人間なら、島の中では死なないようにしますかね?
 人が死んではならない島だから」

「いきなり刺されたのなら、無理だろうよ」

「まあ、そうですよね。
 でも、犯人側なら、コントロールできますよね。

 被害者側ではなく、犯人側が島の人間なら、島の中では殺さないようにするものですかね?」

 確かに、と倖田やマグマ、どうやら此処の出身らしい警官たちの何人かが頷いた。

「俺たちは子どもの頃から、うるさく言われ続けてるからな。
 伝統を引き継げとか。

 幼稚園の読み聞かせなんかでも、島の歴史を教え込まれるし。

 魂に刷り込まれてるから、無意識のうちに避けようとしてしまうかもしれないな」

 だが、そう言ったあとで、倖田は付け足す。

「だが、人を殺すというのは、感情的になって実行するものでは?
 場所を選ぶとか、コントロールできるものなのか?」

「激昂による突発的なものではなく、計画的犯行の可能性もあるではないですか。

 予告状もあることですし」

 そうだ、と茉守は手を打った。

「もしかして、『ツギ ハ オマエダ』の『ツギ』が刺された人なのかもしれませんよ」

 は? とみんなが茉守を見る。


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