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容疑者マグマと第二の殺人
ゼンマイ仕掛けの人形
しおりを挟む今の自分は人形だ。
ただ人に見えるように、ゼンマイ仕掛けで動いている。
ただの人形だ。
心はない。
ただ人に見えるように動いている。
ごまかしたいとかじゃなくて。
そうしていたら問題なく生きていけるから――。
「マグマさんに怒られたから変えてみましょう」
茉守は、マグマの怒りのマークを噴火口の地図記号に書きかえる。
「ちょっと変えてみましょうか」
とその既存の記号に手を加えた。
「こっちは噴火中のとき。
こっちは今のマグマさん、ちょっと静かです」
若い警官となにやら話して笑っているマグマを見ながらアレンジしたふたつの記号を描いてみせると、ぷっとニートが笑う。
女性が思わず見惚れるような笑顔ってこういうのを言うんだろうな、と茉守は思う。
「笑うんですね」
「……笑ってはならないんだがな」
と言うニートに、それは何故なのか追求せず、
「そうなんですか」
とだけ茉守は言った。
「私は笑ったりとか苦手です。
まあ、あなたは笑わなくともいいですよね」
どうして? という顔でニートが見る。
「あなたは笑顔を振り撒かなくとも、みんなと上手くコミュニケーションがとれています。
私はそういうの苦手です」
だが、
「とれてるじゃないか」
とニートは言った。
「あの気難しいマグマとも、倖田とも」
「……そうですかね?
あと、倖田さん、気難しいですか?」
「あいつは人当たりはいいが、昔から自分の心の中には誰も入れない」
「でも、あなたがた二人は入っているようですよ」
「……まあ、俺たち二人とも脛に傷持つ身だから。
気を使わなくていいからかもしれないな」
とニートは分析していたが。
いや、ただの相性の問題だろうと茉守は思っていた。
この三人はよく似たテンポを持っている。
「俺が前科者だと聞いても驚かなかったのは、その霊能力でなにかを見たからか」
彼がなにを言いたいのかわかる気がして、茉守は教える。
「あなたの後ろには誰も居ませんよ」
ニートはそっとおのれの背後を振り返り、見ていた。
居ません、と言われて、少し残念そうだった。
「守護霊は居るようですよ。
強い力であなたを守っている。
女性の生き霊も寄せ付けません。
日頃の行いがいいからですかね?」
日頃の行いがいいという言葉に、ニートは反論しようとしたようだったが、その前に茉守は言う。
「ちなみに、マグマさんには、ついてます。
日頃の行いが悪いのですかね?
守護霊がいい加減、懲りろと言っています」
マグマの方を見ながら、ニートは言う。
「あいつはなんだかんだで、やさしいから。
つい、女性を助けては付きまとわれてるんだろう」
「あなたがやさしくなくなったのは……」
と言いかけ、
ああ、いえ、と茉守は言葉を止める。
ニートは、
「俺の後ろにはなにも居ない……か。
俺が呪われていないわけはない。
俺は人殺しだ」
と言って行ってしまう。
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