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海に浮かぶ証拠と第三の殺人(?)

こいつは詫びだ

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「追いはぎかと思いましたよ~っ」
と文句を言う新聞屋さんに、

「金払ってるだろっ。
 うちの親がだがっ」
とマグマは言い返したあとで、

「ほらっ、詫びだっ」
とポケットから出した可愛らしいいちご飴を投げていた。

 ……今の恐怖の代償が飴一個ってどうなんですかね、
と自分もその恐怖を与えた一人なのに、茉守は思う。

「神の島で相次いで起こった事件、か。
 週刊誌とかが面白可笑しく書きそうだな」
と新聞を広げながらマグマが言う。

「あの女はやはり毒で死んだようだ。
 服毒自殺の可能性。

 殺人じゃないのか?」

 横から新聞を覗き込んだ倖田が、

「ニートの庭に落ちてた署長も毒殺か。
 同じ毒だったりしてな」
と言う。

 ……俺の庭じゃないだろ、という目でニートは倖田を見ていた。

「最初にかき氷屋の裏で刺された奴は、まだ重体のまま。
 せめて、こいつだけでも助かるといいけどな」

 そう呟いたあとで、倖田は言う。

「刺された奴が助かって、最後の女が服毒自殺なら、殺されたのは、署長ただ一人か。

 犯人はマグマで決まりだし。
 事件はもう解決だな」

「待て待て待て」
と早くケリをつけたがる倖田をマグマが止める。

「俺だったら、毒殺なんてしない。
 あの野郎の顔面に拳を叩き込む。
 真正面からっ」

 清々しいのかなんなのかわからないな、と思いながら、茉守は聞いていた。

「だがまあ、もう署長は死んじまった。
 しんみりするいい思い出も特にないが。

 亡くなった人は悪くは言うまい」
とさすが坊主なマグマはそう言った。

 同じく横から新聞を覗き込んでいた茉守が言う。

「この署長さんが殺された毒と女性の方の死因の毒。
 確かに同じ毒かもしれませんね。

 この狭い島に突然、毒を飲んだ死体が二つ。
 関連性がある、と考えた方が現実味があるような……」

「同じ毒なら、この女がなにか署長と関係があって。
 署長を殺して自分も死んだとか」
と言う倖田に、

「でも、遺書とかありませんでしたよね?」
と茉守は確認する。

「ああ……
 だが、吹きっさらしの橋の上だ。

 風にさらわれた可能性もあるな」

「なんであんなところで死んだんだろうな」
とニートが呟く。

「この女性、島の人ではないにしても。
 島の関係者である可能性はありますね」

 そう茉守が言って、
「なんでだ?」
とマグマに問われる。

「まあ、自殺ならの話ですけど。

 島に死体を置きたくないから、あの鳥居のちょっと先くらいの位置まで行って死んだんじゃないですか?

 神域から外れるから」

 そのとき、警察に殺されたはずの那須から連絡があった。

 マグマが、
「てめーっ、なんで電話に出なかったっ」
と言った瞬間、那須が叫ぶ。

「悪かったよっ。
 でも、いいから来いってっ。

 砂浜にすごいものが打ち上げられてるからっ」

 なんだ、すごいものって、と全員で顔を見合わせる。


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