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海に浮かぶ証拠と第三の殺人(?)
島のレモンのレモネード
しおりを挟む佐古が下に降りると、まだ倖田はそこに居た。
ロープウェイの職員や島のジイさんたちと話している。
「なんの犯人だ、それは」
倖田はこちらに来ながら、捕まっている男を見て問うてきた。
ジイさんたちは倖田に頭を下げながら行ってしまう。
「マグマを襲いに来た奴だ」
と自分が言うと、
「なんで捕まえたんだ、やらせろよ」
とまったく冗談に見えない顔で倖田は言う。
それを聞いた男が、
「この人、いい人だな」
と笑って言った。
「あんたの知り合い?」
とこちらを見るので、佐古は驚いて男に訊く。
「待て。
こいつ、県会議員だぞ、知らないのかっ?」
「知らねえよ、そんなもの」
「顔で女性票集めて当選する奴だぞ、顔だけはインパクトあるだろう」
そう大概には失礼なことを言ったあとで、佐古は倖田に言った。
「あの、茉守とかいう女子大生が飛んできたナイフつかんで止めたんだ。
……驚かねえようだな」
そんな話をしても、表情ひとつ変えない倖田を窺いながら佐古は問う。
「あの女、何者だ?」
それには応えず、倖田は帆村に、
「先にそいつ、連れてっとけ」
と指示した。
いや、お前、警察の人間じゃねえだろうが、と思ったが。
帆村はなんの疑問も覚えなかったようで、はい、と素直に男を連れ、とめてあった車の方に向かっていった。
……倖田に命令されると、みんな反射的に聞いちまうからな、昔から。
だから、倖田が政治家になったと聞いても、なにも驚かなかった。
「……あの女、ニートを殺しに来たらしいぞ」
人が居なくなったタイミングを見計らい、倖田がそう教えてくれる。
「もしかして、例の事件の関係者かっ?」
倖田はただ黙って、茉守が居るだろう山頂を見上げた。
「すみません。
喉乾いたので、なにか冷たいものとかありませんか?
氷以外で」
茉守は外のベンチで氷を待っていた客のところまで運んでいっているかき氷屋に声をかけた。
「あ、いろいろありますよ。
コーラとか、サイダーとか。
レモネードもありますけど。
島のレモンを使った。
それにしても、すごい捕物でしたね」
と苦笑いするかき氷屋に茉守はついて行って、カウンターから中を覗いた。
ジュースが並ぶピカピカの冷蔵ショーケースを見る。
「さっきも喉乾いたなと思って見たんですけど。
やっぱり、かき氷がいいなと思って買わなかったんですよね」
茉守はそこで、三本のレモネードを買った。
「あ、レモネードでいいですか?」
遅れて来たマグマたちを振り返り訊くと、
「買う前に聞け。
っていうか、お前がおごってくれるのか」
とマグマに問われる。
「はい。
違うのがよければ、変えてもらってください」
いや、いい、というマグマに受け取ったレモネードを渡しながら茉守は言った。
「いろいろお世話になっているので。
おごったりおごられたりって、なんかいいですよね。
バイト先の先輩たちもよくおごってくれるんです」
そういうとき、なんかあったかい気持ちになる、と茉守は思っていた。
あったかい気持ちか……。
「あ、ニートさんもレモネードでいいですか?」
「もらおうか……。
……ありがとう」
ニートがぼそりぼそりと礼を言う。
またちょっと笑いたくなったが、やっぱりまだタイミングがつかめなかった。
かき氷屋が、
「あ、そっちのベンチ、気をつけてくださいよ。
たまにかき氷がたれてて、座ったら色がつくんで」
もし、汚れてたら、此処に布巾ありますから、と言って、カウンターの上を指差す。
「そういえば、バイト先の先輩が、かき氷屋さんのベンチに腰掛けたら、白いスカートが虹色になったって言ってました」
と茉守が言うと、ニートが、
「……お前の話、バイト先の話しかないな」
と言った。
だって、わたしの人生はそこからしかない。
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