神の住まう島の殺人 ~マグマとニート~

菱沼あゆ

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白地図と最後の事件

びっくりしました

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「いらっしゃいませー」

「嘘だろ、ほんとに無表情で言ってるよ」

 マグマがそう言うと、レジに居る茉守は、そのままの表情で、
「お決まりですか?」
と自分達を見上げて問う。

 先ほどから並んでいるのは見えていたはずだが、その視界にとらえても、なにも表情に変化はないようだった。

 カラフルホップなユニフォームが、無機質な佇まいと高貴な程に美しい顔に、ちょっと違和感があった。

 後ろに居た髪の長い女の店員が茉守の肩を叩き、
「愛想は悪いですけど。
 丁寧なんで、評判いいんですよ、この子」
と笑う。

 ちょっと幼い感じではあるが、可愛らしい顔をした子だった。

 茉守が彼女を振り向き、
「菊池さん」
と言う。

 菊池茉守かよっ、と二人で衝撃を受けた。

 まさか、山村瑞樹も居るのではっ?
と慌てたが、彼女は、このバイト先での知り合いではなかったようだった。


「びっくりしました」

 びっくりした顔で言え……。

「お会いしたかったです」

 お会いしたかった感じの顔で言え、とニートは思う。

 茉守が休み時間に入るのを待って、店と店の間の細い通路で三人は会っていた。

「そろそろ焼肉のころかなと思いまして」

「いや、焼き肉目当てかよ」
とニートは言った。
 

 倖田と連絡をとり、佐古にも、かき氷屋にも連絡をとり、その日のうちに本土の焼き肉屋で呑むことになった。

 倖田が茉守に、
「待て。
 お前、酒いいのか?

 ほんとうは幾つなんだっ?」
と問うている。

「さあ?
 私は幾つにもなれますから。

 八十代の人の戸籍を使えば、八十代に」
と適当なことを言う茉守に、マグマが、

「どう見たら、お前が八十代に見えるんだよ。
 変装術でも持ってんのか?」
と問うている。

「エステに通いつめている八十代という設定にします」

「……このいまいち使えない殺し屋を育てた組織は大丈夫なのか」
とマグマが言うと、倖田が、

「だから、予算外されて潰されたんだろ」
と言う。

「っていうか、予算がないから潰して、はい、終わりって、どんなお役所仕事だよ」

「役所だからだろ」

 じゅう、と誰かの置いた肉が焦げる音が豪華な個室に、やけに響いた。

 みんな沈黙したからだ。

「やめろっ。
 余計な知識を入れるなっ」

 殺されるっ、と佐古がわめく。

「最初からわかってたから、倖田さん、私のことを役所の人間だって言ってたんですよね」
と茉守が言う。

 倖田は観光客の女たちに、茉守のことを『役所の菊池さん』と紹介していたという。

 フェイクだったのは、『役所の』ではなく、『菊池さん』の方だったようだ。

「うちのじいさんたちが関わってる組織だぞ。
 国ぐるみのお役所仕事に決まってるだろ。

 だから、サインばかりさせて。
 最後にも、口外しないこと、とサインさせて、こいつらを放り出したんだ。

 そんなので人が言うこと聞くわけないのになー」

 軽く言う倖田の近くの席で、

「僕、殺されます」
と青ざめるかき氷屋に茉守が言う。

「大丈夫ですよ。
 あなたは世界一安全な場所で暮らすんですから」

「そうですかねえっ?
 そんな話聞いちゃったら、何処も誰も信用できませんっ」
と叫ぶかき氷屋に、佐古が、

「なんだよ。
 神の島、世界一安全か?」
と言ったあとで、店員を呼び出すボタンを押して、

「ビール頼もう」
と言う。

「待てっ。
 今、人を呼ぶなっ」

「この話が終わってからにしろっ」
とニートはマグマと一緒に叫んでいた。


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